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若者は本当に傾聴を望んでいるのか? 「タイパ」を重んじるZ世代が本当に望んでいること

横山信弘経営コラムニスト
Z世代の若者が本当に求めているもの(提供:イメージマート)

■若者に傾聴は逆効果?

最近、多くのマネジャーから、意外な相談を受けることが多くなった。

「本当に傾聴って、必要なんですか?」

「傾聴しても逆効果ですよ。とくに若者には」

気になるのは、このフレーズである。

「とくに若者には」

昨今、組織のマネジャーは「傾聴すべき」だ、上司はもっと部下の言い分を聞かなければならない、と言われるようになった。「話し方」よりも「聞き方」をテーマにした書籍のほうが売れる時代である。

しかし、である。

本当に傾聴は万能なのか? 聞き方さえ磨けば、上司は部下と良好な関係を築けるのか? 考えてみたい。

確かに、上司が部下に対して頭ごなしに命令したり、否定する言い方がNGなのは、誰だって理解している。たとえ経験の浅い若者であったとしても、相手を尊重し、傾聴すべきである。

実際に、何度か1on1ミーティングなどを通じて、部下の話に耳を傾けようとすると、

「話を聞いてもらえるのは嬉しい」

という感想はもらえるものだ。話をしっかり聞いたうえで、

「自分の思う通りにやってみて」

「チャレンジして」

と言うと、

「はい!」

と、元気に返事をしてくれるものだ。そんな相手の反応を目の当たりにすると、上司は頼もしい気持ちになる。だから「やはり傾聴は重要だ」と感じるマネジャーは多いだろう。

しかし、である。

最初のうちは、そう実感していても、それが表面的な満足感で終わっていたら、どうだろうか。

望ましい姿は、部下が主体的に行動し、工夫して成果を出すことだ。

どんなに傾聴を心がけても、いっこうに主体的に行動しないし、成果も出さない。それどころか、次の会話のように

「最近、どう?」

「いや、まァ、別に」

「仕事で問題あるなら、聞こうか?」

「いえ、何もありませんが」

「また1on1ミーティングしようか」

「大丈夫です。忙しいんで」

傾聴しようと働きかければかけるほど関係がギクシャクしてしまうと、

「傾聴は逆効果なのか?」

と思えてしまうものだ。

■傾聴すべきではないケースとは?

そもそも傾聴というのは、傾聴の習慣が足りない人が強く意識すべきことである。万能なコミュニケーション手段ではなく、ケースバイケースで使い分ける必要がある。

野球だって、

「私はボールを受け取る役だ」

と主張しても、誰かがボールを投げてくれなければ成立しない。だから「傾聴」が大事なのは、傾聴が必要なときだけなのだ。相手の話を聞くべきだと受け止めたとき、傾聴モードに切り替えればいいだけなのである。

では反対に、どんなときに傾聴すべきではないのか? 

相手が話そうとしていないときだ。

相手が話そうとしない。話を聞いてほしいと思ってもいないのに、

「さあ、話してみて。何でも聞くから」

と言っても、相手は困ってしまう。若者に限らない。どんな世代の相手でも同じだ。お客様に対しても、お子さんに対しても同じだ。

したがって、相手が話そうとしていないのなら、こちらが話すことになる。すでに仕事の依頼や、仕事の中身、段取りについて伝わっているのなら、質問をするのが普通だ。

効果的な質問をすることで、相手は話そうとするかもしれない。自分の話を聞いてもらいたいという欲求が芽生えることもある。そういうモードに変わったら傾聴するのだ。

この切り替えが重要である。

■若者が質問に答えられない3つのケース

質問しても答えないケースもあるだろう。その場合の原因は、大きく分けると以下の3つである。

(1)上司に心を開くことができない

(2)的を射た質問をしていない

(3)質問の答えがわからない

質問が効果的なら、相手はキチンと答えるはずだ。にもかかわらず答えないのは、上司に気を許していない可能性がある。

「こんなことを言ったら馬鹿にされる」

「どうせ自分の意見は受け入れられない」

と相手に受け取られている場合だ。つまり心理的安全性が低いから、部下は言いたいことがあっても言えないのである。

次に多いのが、上司の質問が的を射ていない場合だ。1on1ミーティングで、仕事の進捗を聞かれると思っていたら、

「最近、仕事に身が入ってないようだけど、どうした?」

と、身に覚えのないことを質問されたら、部下は戸惑うだろう。

「私なりに頑張っているつもりですが」

「いやいや。最近、明らかに仕事に身が入ってないよ。君はもっとできるはずだ」

なんて言われたら、何を答えていいかわからなくなる。また、

「君が本当に心から没頭できることを教えて」

などと、どこかのコーチング研修で習ってきたような質問をされたら、たいてい相手は混乱する。

「どうしたんですか? 突然」

「私は上司として、君のことが知りたいんだ」

と言われても、何を答えていいかわからない。

「最近どう?」

「忙しい? 大丈夫?」

と、このような曖昧な質問をされても、何を答えていいかわからない。

「まあ、大丈夫です」

としか答えられないだろう。曖昧な質問には、曖昧にしか答えられないものだ。傾聴しようにも、相手が話さないのだから、上司としては手の打ちようがない。理由はたいていの場合、的を射た質問をしていないからだ。

■「何かわからないことある?」という愚問

いちばん問題なのは、3つ目の「質問の答えがわからない」だ。

とくに、まだ社歴の浅い若者(新入社員でなくても)は、その傾向が強いだろう。新しい仕事を任され、なかなか思うように仕事が進まないとき、何をどうしたらいいか、わからないことがある。

「何かわからないことある?」

と上司に質問されても、何を答えたらいいかわからない。なぜなら「わからないことが、わからない」からだ。

もちろん、そんな状態であっても現状を打破する人はいる。

「行き詰っています。正直なところ、何をどうしたらいいのかも、わからないんです」

とハッキリ言える人だ。このように言ってくれれば、上司も傾聴できる。

「よく言ってくれた。具体的に、今はどんなことをやっていて、どんなことに困っているの?」

と質問できる。相手の話に耳を傾け、一緒に解決策を探っていける。

しかし、

「何かわからないことある?」

と質問しても、

「いや、別に」

「これといって、何も」

と答えられたら、次の一手に困る。

「本当は困ってるんだろ? どうして言わないんだ?」

「わからないことがあるから、仕事が前に進まないんだよ。なんで相談しないんだ」

と責めたりしたら、

(1)上司に心を開くことができない

の状態になってしまう。傾聴すべきなのに、問い詰めてしまっては元も子もない。しかし何を話さないのなら、傾聴しようがないのも事実だ。

「わからないことも多いだろうが、まずは、わからないなりにやってみて」

と言うのも無責任すぎる。

■「タイパ」を重んじる若者は傾聴を求めていない

ネタバレサイトで結末を知ってから、映画を早送りで観るような若者が増えている。

このように「タイパ」を重んじる若者は、はやく答えを知りたがっている。

以前、大学生の方から

「社会人になる前に、読んでおくべき書籍を教えてください」

と聞かれたので2~3冊紹介したところ、その大学生はすぐにチェックしてくれた。ただ、後から聞いてみると「まとめサイト」や「書籍紹介の動画」でチェックしただけのようだった。書籍を買ったり、借りたりして読んではいないと言う。

それぐらい、若者はサクッと結論を知りたいのだ。遠回りすることなく、すぐに全体像をつかみたいという欲求が強い。

だから、仕事に慣れていないとき、まだ順調に成果を出せていないときに、上司に訴えたいことはない。当然、傾聴を求めるケースも少ない。

本音としては、

「こうすれば、簡単にできるよ」

と、秘訣やコツをサクッと教えてほしいのだ。

「何か相談があったら、いつでも相談においで」

という表現は若者にとって優しさではない。

「この部分がわからないんだろ? それは高橋さんに聞けば、すぐに教えてくれるよ」

こういう一言がほしいのだ。

若者は傾聴よりも、成長を求めている。相手に考えさせる質問をするのもいいが、成功体験を積ませて自信を持たせることも重要だ。

【参考記事】若者への禁句「わからないなりにやってみて」 後知恵バイアスがクセになっている上司は要注意!

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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