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「褒めて伸ばす」はウソ? 褒めるだけで部下が成長したら苦労しない! ならどうすればいいのか。

横山信弘経営コラムニスト
褒めるだけで育つ部下がほしい……(写真:アフロ)

■褒め言葉の「3S」

「『褒めて伸ばす』と言うじゃないですか。しかし私の部下は、どんなに褒めても成長しないんですが、褒め方がおかしいんでしょうか」

こんな質問を受けたことがある。7人の部下を持つ営業部長からだ。効果的に褒めることで部下は育つだろうが、褒めるだけではいけない。

日の当たりのいい場所に置いて、毎日水をやっていれば成長する植物とは違うのだ。しかも若い世代の人の価値観は多様化している。

シンプルなやり方では何事もなしえない。そんな時代になった。では、どうすればいいのか?

たしかに、人間関係を良好に保つためには相手を意識的に「褒める」ことは重要だ。このことに異を唱える人はいないだろう。誰かに褒められることにより、脳内神経伝達物質であるドーパミンが分泌され、意欲が高まることはよく知られている。

「褒め言葉の3S」というものがある。「すごいね」「さすがだね」「すばらしいね」の「3S」だ。子どもを育てるときも、部下を育成するときもこの「3S」をうまく活用して「褒めて伸ばす」ことができればいい。

ところが世の中には「褒める」ことが苦手だという人がいる。これは、

・初対面の人と話すのが苦手

・人に仕事を任せるのが苦手

・上司に問題提起するのが苦手

……などと同じ分類だ。苦手なことは誰にでもある。部下を褒めることが苦手な上司もいるのだ。

とくに若いころに褒められたことがないまま年齢を重ねたベテラン社員は、誰かを褒めることが苦手であろう。自分がされていないわけだから、意識しないとなかなかできないものだ。

■「ホメジメント」とは何か?

苦手意識を克服するためには、そのことに意識を向け、自分のペースで準備することが重要だ。

たとえば初対面の人と話すのが苦手であるなら、そのシチュエーションになる前に意識的に準備をすることだ。私も人見知りなので、入念に準備をする。相手に合わせて雑談ネタを仕込んでおく。性格に合わせて態度を変える。話すペースを合わせる。そういったことだ。

人に仕事を任せるのが苦手な人も、上司に問題提起するのが苦手な人も同じ。そのことに意識を向け、しっかりと準備をすれば、それほどヒドイ事態に陥ることはないだろう。

だから褒めるのも同じだ。苦手だからといって、褒めないでおいたら「褒めて伸ばす」なんてできない。

私は意識して褒めるやり方を「ホメジメント」と呼んでいる。「褒める」と「マネジメント」をくっつけた造語だ。意識しないと、部下を褒めることができないマネジャーは、まず褒めるプラン(P)を考える。そしてプラン通りに実行(D)する。さらに、定期的に「正しく褒めているか?」「褒めるタイミングを逃していないか?」とチェック(C)し、問題があれば改善(A)していけばいい。このようにマネジメント(PDCA)サイクルをまわすことが「ホメジメント」である。

ただ、いざやろうとすると、なかなか難しいものだ。

なぜなら褒めると言っても、褒める側の心掛けだけではどうにもならない。褒められる側が、褒められるような行為をしてくれないとはじまらないのだ。

挨拶なら、挨拶する側がきっかけを作ればいい。心掛けだけで何とかなる。しかし褒めるには、褒める側がきっかけを作れないのだから骨が折れる。

■ロボットのように褒めてもダメ

「すごいね」「さすがだね」「すばらしいね」と上司が褒めるプランニングをしても、褒める習慣がない上司は、実のところどういうときに褒めたらいいのかわからないものだ。

また、「褒めて伸ばす」とはよく言われるが、多くの上司たちは疑問に感じているだろう。

「褒めて伸びるんだったら、苦労しない」

と。

冒頭の「3S」活動をずっと言い続けていたら、部下が主体的に仕事をするようになり、期待した成果を出すようになった、というのであれば、こんなラクなことはない。

世の中に存在する膨大な数の「リーダーシップ」や「マネジメント」の本は無価値ではないか。

どんな仕事に従事していても、部下を褒めていればいいのか。どんな性格の部下であっても褒めていれば成長するのか。もしその仮説が立証されるのであるなら、褒めるときの声の大きさや、タイミング、そして量さえ教えてくれれば忠実に守る、と言う上司も多いだろう。

いや、その馬鹿の一つ覚えのように「褒める」だけをしてくれる専門マネジャーを雇えばいいということにもなりかねない。そのマネジャーの仕事は、成長を期待される若手社員を日々褒め続ける。それだけでいい。

もし効果が高いのであれば、そのマネジャーに多額の報酬を支払ってもいい。毎日気持ちよく、

「すごいね!」

「さすがだね!」

「すばらしいね!」

と言っていればいいのだから。

■「褒める」プランニングとは?

もちろん、世の中そんな簡単なものではない。闇雲に褒めているだけで部下が育つと思ったら大間違いだ。

「君、最近、資料の提出期限を守るようになってきたね。すごいね、さすがだね」

「今日はネクタイが曲がっていないじゃないか。すばらしいね」

と部下に言いつづけたらどうか。期限を守って資料を提出しただけで「すごいね」と褒められたら、誰だって嫌味に聞こえるだろう。

褒められる側は、自分自身で、

「これは上司に褒められることだろう。きっと評価してくれるに違いない」

と認識し、そして上司から、

「よくやったね。すごいね。さすがだよ」

と言われたら納得するものだ。このようにして、何が褒められることであり、褒められないことなのかを認識していく。

しかし、褒められるようなことをやった覚えもないのに褒められたら認知的不協和を覚えるに違いない。

認知的不協和とは、アメリカの心理学者フェスティンガーによって提唱された社会心理学用語である。理屈と感覚がずれていることへの不快感がこれに当たる。だから、褒めらることをやってもいないのに褒められたら矛盾を覚え、相手は混乱したり、不快感を覚えるのだ。

当然、部下育成には繋がらない。

したがって「ホメジメント」するうえで重要なことは、まず「褒める基準」を自分の中で決めることだ。厳格に決めなくてもいい。あまりにファジーだと、褒められた側が正しく学習できなくなる。

「なるほど、こうすると褒められるのか」

と。

■褒めるとは「日々の感謝」ではない

「ホメジメント」では、まず「褒める基準」を決めることからスタートする。「評価基準」とは違うので、その基準は曖昧でもいい。しかし少なからず、以下2点が伴っていることが条件であろう。

● 評価・賞賛すべき行いであること

● 評価・賞賛すべき行いがすでに終わっていること

したがって、日々決められたルーティーンワークをこなしているだけの部下を褒めることは、かなり難しい。

難易度の高いことを淡々とこなしているのであれば、

「いつも本当にありがとう。すごく助かっているよ」

と言えるのだが、仕事としてあたりまえのことであるなら褒めることは難しい。それでもたまに、

「いつもありがとうね」

と相手に伝えることは大切なこと。これはコーチング用語で「アクノリッジ」もしくは「アクノリッジメント」と呼び、存在承認のことである。

この「アクノリッジメント」と、今回取り上げている「褒める」は、明確にわけておいたほうがいい。

褒めるというよりは「感謝」の意味合いが強い。それに、あたりまえのことを正しく淡々とやることを承認していくだけで、部下が成長していく。そうであるなら、その部下のポテンシャルは相当に高いことを意味する。

そういう部下に対してなら「ホメジメント」は必要ないだろう。たまに背中を軽く押すだけで、その部下はどんどん前へ進んでいく。スイー、スイー、とスムーズに、軽やかに成長していくだろう。

基本的には、過去と比較しての変化や、明確なお手柄がない限り「褒める」ということは難しい。

そして残念ながら「褒める」は”きっかけ”にはならないということも知っておくべきだ。部下の何らかの能動的な行為の【前】にはできないからだ。【後】にしかできないのである。

したがって、部下を成長させる起爆剤には「叱咤激励」しかなく、「褒める」は成長の促進剤にしかならないことは肝に銘じておくべきだろう。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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