【永久保存版】PDCAサイクルは「P」で9割決まる
■PDCAは「P」が9割
なぜダメ上司ほど「PDCAを回していこう!」を連発するのか?で書いたとおり、ほとんどの企業の現場では、PDCAサイクルが回っていない。
そして、PDCAサイクルを回すには、とくに「Plan(計画)」のパートが重要であるとも書いた。
ただ「PDCAサイクルを回していこう!」と言っているだけでは何も起こらない。「創意工夫してやっていこう!」というニュアンスでしか受け取られないのだから。
記事に書いた通り、まずは問題解決能力がある人が「P」を設定することだ。期限と数値目標はセットである。「積極的にやっていこう」「できる限り徹底してくれ」というのは「Plan(計画)」ではない。
そして「みんなでやっていこう」という曖昧な訓示もご法度。いつまでに、誰が、何を、どの状態にまでにするのか。細かいところまで落とし込まないと、前へ進むことができない。
さらに、重要なことが「P」のパートにはある。
それは、この時点で続く「DCA」パートにおける「認識合わせ」「仕組み作り」もしておく、ということである。
無事「Plan(計画)」ができたからといって安心してはならない。
■「認識合わせ」と「仕組み作り」
問題解決能力は、
・問題を作る能力
・解決する能力
の2つに分けられる。それを「PDCA」で表現すると、以下のようになる。
1)「P」=問題を作る
2)「DCA」=解決する
とはいえ、立派なPlan(計画)ができたからといって、
「さあ、あとは実践あるのみ!」
と呼びかけるのはやめよう。この段階で、「DCA」パートを正しく運用できるように以下の2つのことを、時間をかけて準備するのだ。
・認識合わせ
・仕組み作り
まず「DCA」それぞれに関する「認識合わせ」である。「Plan(計画)」作りは、組織マネジャーや、問題解決能力の高いメンバー、または外部コンサルタントが担う場合がある。
しかし「DCA」は個人や各チームに任せたりするケースもある。だからこそ個々人が実践に移る前に、念入りに事前準備をする必要があるのだ。
■「D」の認識合わせ
「D」のパートは、私どもが最も得意とする部分である。私どもが現場で支援に入ると、必ず行動目標を決めてもらい「やり切る」ことをコミットさせる。
行動目標を決めずに実践(D)をスタートさせたり、やり切れなくてもいいというムードで始めると、PDCAが機能しない。
次の「C(検証)」ができないため、「A(改善)」もしようがない。だから「P」のパートが終わったとき、必ず組織メンバーには「行動はやり切るように」と認識合わせをする。
しかし多くの場合、「やり切る」ことをコミットさせようとすると強い抵抗にあうものだ。その理由は、
「想定外のことが起こったときには、やり切れない可能性がある」
からだ。
とりわけベテラン社員ほど「やり切る」ことをコミットできない。自分のペースで仕事ができているベテラン社員は、ペースを乱されることを嫌うからだ。
だから「できる範囲でやる、でいいではないか」と言ってくる。落としどころを探るためだ。しかし、繰り返すが、この言い分を受け入れるとPDCAは機能しない。
行動目標をやり切ってこそ、問題が解決するのかどうかの検証ができるのである。やり切らなかったら、
「行動をやり切るにはどうすればいいのか」
という余計な議論をするはめになるか、もしくはやり切っていない状態で検証し、レベルの低い「A(改善)」を話し合うことになる。
どちらにしても、PDCAサイクルの精度は限りなくゼロに近くなるだろう。
■「やり切る」からこそ手に入るもの
私どもは「やり切る習慣」を組織に定着させることに、強い執着がある。理由は、決めた行動をやり切ろうとするプロセスにおいて「考えるクセ」が身につくからだ。
「行動目標」を決めないことは論外だが、「行動目標」を決めてもやり切らなくてもいい、できる範囲でやればいい、と伝えてしまったら、本当は工夫すればやり切れることも、しなくなってしまう。
だから強い姿勢で「やり切る」ことを指示しなければならない。この認識合わせがとても重要だ。
そもそも「想定外のことが起こったらやり切れないじゃないか」という言い分は、言葉足らずである。こんな表現では、人を説得することはできない。
やりたくない言い訳をしているとしか聞こえないのである。
本当に「やり切る」覚悟がある人は、具体的な「想定外のこと」を指定して問いかけてくる。たとえば、以下のようなケースだ。
「新型コロナウイルスの影響で緊急事態宣言が発令され、2週間以上出勤がほぼできなくなった場合、オンライン会議ツールを使ってお客様と接点をもっても、これも1カウントとしてもいいでしょうか?」
「想定外のことがあったら、やり切ることなんて無理です」
といった発言は取り合わない。抽象的すぎるからだ。どのようなケースが想定外のことなのか具体的な事象を相手に伝え、その代替案まで提案するのが基本だ。
そもそもそれぐらい考える力がないのであれば、「A(改善)」のパートでつまづく。考えるクセがないなら、
「なかなか目標が達成しませんね」
「そうですね。どうしたらいいんでしょうね」
という不毛な議論で明け暮れることになるからだ。
実のところ「D(実践)」のパートは、ふだん思考停止状態になっている脳を目覚めさせるという役割がある。なので、「やり切る」という認識合わせは必ずするようにしたい。
■「C」を情報システムで担うべきではない
「C(検証)」のパートでは、必ず仕組みを使う。口頭でのやり取りは絶対に避けるべきだ。
PDCAサイクルを回すために、どの指標を定期的にチェックするのか。「P」のパートで決めておくのである。その準備を怠ると、それぞれ個人やチームで好き勝手に検証することになる。
また、人が意識できる指標は、ほぼ「1つ」だけだ。これを「脳の焦点化の原則」と呼ぶ。したがって、検証する行動指標は限りなく少なくする。できれば「1つ」が理想だ。
したがって、
・KPI(行動指標) → 1つ
・KGI(成果指標) → 1~3つ
・結果(答え) → 1つ
これぐらいが妥当だ。
もちろん、すべて数字で表現することが条件だ。数字の意味を口頭で説明しなくてもいいように、「KPI」と「KGI」、そして「結果」とのつながりや因果関係なども、事前に教育しておくことも大事だろう。
この指標さえ決めて、メンバー教育さえしてしまえば、あとはシンプルな資料を作って共有するだけである。
PDCAがまだ不慣れなのにもかかわらず、いろいろな指標、パラメーターを設定するのはやめよう。最もマズいのは、そのために情報システムを導入し、いろいろな指標を「見える化」だけして、メンバーの主体性に任せて行動変容を促すやり方だ。
現場に入ると、
「このシステムでメンバーの行動を管理したいのですが」
とよく相談を受ける。しかし、その前にPDCAを回す風土を組織に定着させることだ。
情報システム導入を決めた人は「やってる感」を味わえるかもしれない。しかしコストはかかるし、現場のメンバーには負担がかかるしで、いいことなど、ほとんどない。
■「C」ではプレッシャーをかけない
状況にもよるが、まだ不慣れな場合は「C(検証)」の際、メンバーを全員集めてもいいだろう。しかし口頭での補足説明をしたがるメンバーがいると、検証に時間がかかる。
重要なことは次の「A(改善)」であるため、「C」のパートで時間をかけないことだ。
ただ、メンバーにプレッシャーをかけることが目的なら、招集するのはいい。定期的に全員で各指標をキチンと検証する。こう伝えることで無言のプレッシャーを与えることができる。
いっぽう、集めて、その場でプレッシャーをかけるのは、まるで効果がない。重要なことは、事前にプレッシャーをかけて「D(実践)」のパートを過ごすことだ。
まとめるとこうだ。
・プレッシャーがないまま「D(実践)」 → やり切れない → 「C(検証)」でプレッシャーをかける(×)
・プレッシャーをかけて「「D(実践)」 → やり切る → 「C(検証)」ではプレッシャーをかける必要がない(〇)
プレッシャーがないままグダグダと実践に時間をかけ、上司が会議の場で「何をやってんだ!」とやるのは最も非効率だ。お互い、精神衛生上よくない。
■「A」は変数を変えるだけ
「P」のパートで、精度の高い問題を作ることができれば、メンバーが意識すべき変数(指標)はシンプルなものだ。「A(改善)」のパートでも、それほど苦労しないだろう。
いっぽうPDCAが機能していない組織では、だいたい「PDC」までしかやらない。「A」がないのだ。なぜなら「C」に時間をかけすぎて、「A」をやっている余裕がないからだ。
シンプルな仕組み(資料)を作らず、場当たり的に「C(検証)」しようとする組織は、「報告だけの会議」で終わる。
仕組みが統一化されていないので、会議中に口頭で報告させることになり、上司がその報告に対して場当たり的に指導やアドバイスをする。上司にとっては「やってる感」を味わえるかもしれない。
シンプルな指標を見て「C(検証)」し、「A(改善)」について意見交換をするほうが確実にPDCAが回るのに、だ。
繰り返すが、問題さえ正しく作ることができたら「A(改善)」は簡単だ。変数の「質」か「量」を変えることで、だいたいが解決する。
「量」を変えるだけで改善できそうであるなら、メンバーで集まって意見交換する必要はない。しかし、「質」を変える必要があるなら、上司や先輩、同僚からのアドバイスが参考になるだろう。
変数の「質」を「A(改善)」するときだけに、メンバーの時間を費やそう。
■「P」で疲れ切ってはならない
繰り返すが、PDCAサイクルを回すためには、「P」のパートが最も重要だ。時間をかけて問題を作ること。そして「認識合わせ」「仕組みづくり」に労力をかけることだ。
「Plan(計画)」作りに力を注ぎすぎて、マネジャークラスが疲れ切ってしまい、「あとはよろしく」と各チーム、各メンバーに丸投げしてはならない。
結果的にマネジメントがうまくいかず、途中でルールを整備したり、新たな仕組みを作って定着させようとしても、現場は抵抗をするに決まっている。すでに自分たちのやり方でスタートさせてしまっているからだ。
何事もはじめが肝心である。
はじめにしっかりと時間と労力をかけて整備すれば、あとは半自動的にPDCAサイクルは回る。途中、途中で、微調整をするだけでいいのだ。