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【もう死語?】成功する人ほど「モチベーション」を口にしない

横山信弘経営コラムニスト
(写真:アフロ)

■「モチベーション」という用語の正体

「部下の『モチベーション』を上げるにはどうすればいいのか分からない」

「『やらされ感』を覚えさせずに社員の行動を変えるために、どのような『動機付け』が必要なのか。そこを知りたい」

モチベーションについて悩む経営者やマネジャーは大変多い。しかし、この悩みは、健全な悩みなのだろうか。時代が令和になっても、いまだにモチベーションという言葉を使う人はいるが、はたして若い世代の人もこの用語を使うのだろうか。

平成の時代に管理職になった「おじさん」しか、こんな用語は使わないのではないか。私はそう思っている。

そもそもモチベーションという言葉が頻繁に日本のメディアで取り沙汰されるようになったのは、2001年以降だ。私が年間150回以上のセミナーや講演をするようになった2005年以降でも、アンケートに書かれる「組織の課題」では、圧倒的に「どうすれば社員のモチベーションを上げられるか」が多かった。

ただしその流れは、東日本大震災の直後にいったん沈静化した。

あの頃はモチベーションなどどうでもよく、「できることをやろう」と励まし合った時期だった。しかし、しばらくしてまたモチベーションという言葉がアンケートに書かれはじめた。

そもそもモチベーションという言葉を使う人ほど、言葉の意味を正しく理解していない。どういうときに使うことがふさわしいのか、わからずに「ノリ」で口にしている人が大半だ。

神経科学という視点で「モチベーション」について解説した、青砥瑞人氏の著書『BRAIN DRIVEN ( ブレインドリブン ) 』では、

「辞書で引くとモチベーションという言葉は、動機付けや動因、意欲、やる気などと書かれているが、この説明は神経科学の専門家からすると『カオス』である」

とあった。

「辞書に書かれてあるモチベーションの定義は、神経科学の視点からみると明確な定義にはなり得ていない」そうで、であるなら、その分野において素人である私たちビジネスパーソンが、「モチベーション」という用語を軽々しく使っていいのかどうなのか。その疑問が沸き上がる。

モチベーションというのは、人を動かすための、何らかの重要なファクターであることは間違いない。いっぽうで神経科学の専門家からこのように断言されると、ますます理解しづらい用語であると言えよう。

本当に、この得体の知れない用語を「経営課題」の一つにしていいのか? 今一度考えたい。

■絶対達成コンサルタントが考える「モチベーション」

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。目標を達成できない企業に「絶対達成」の文化を定着させることが仕事だ。だから、どのようにすればクライアント企業の方々に新たな行動を起こしてもらえるかを、いつも考えている。

どのような戦略を立てるべきか。どのような行動計画をつくるべきか。どのようなプロダクトが最も目標達成に貢献するのか。どのようにお客様と接触し続けるか。考えること、手や動かすこと、たくさん新しいことをやってもらわなければならない。

しかもスピーディにやる必要がある。なぜなら外部環境の変化は激しく、どんなに仮説を立てても結果は予想したとおりにはならない。これまでの仕事のリズム、自分なりのペースでやっていては間に合わないことも多い。

だが、仕事のリズムやペースを崩されると、多くの人が反発する。とくに一定の経験がある社員はそうだ。その際に出てくるフレーズが、まさにモチベーションなのである。

「こんなやり方だとモチベーションが下がる」

「最近、部下のモチベーションが落ちている。もっとモチベーションを上げる取り組みをしなければならない」

と、組織のあちこちでそのように言う人が出てくる。

しかし、前出したとおり、モチベーションというフレーズを使っている人の大半は、その言葉の意味を正確に理解していない。そのため、私たちはいちいち「部下のモチベーションをどう上げたらいいのか」等といった悩みには付き合わない。

このようなケースにおいて、人の行動を変化させる要因としてのモチベーションは関係がないからだ。それだけは断言できる。

神経科学の視点、脳科学の視点、いろいろあると思うが、一般的なビジネスパーソンの視点からモチベーションという用語を説明させてもらうと、間違いなく次のようになるはずだ。

「モチベーションとは、あたりまえのことを、あたりまえにやり、それ以上の行動するために必要な心の動き、意欲、動機付け」

たとえば、

「朝9時に出勤する」

「お客様と約束した11時に訪問する」

「1時間で20個の組み付け作業をする」

「夕方6時までに品物を納品する」

……このような事柄が、もし「あたりまえ」になっているのであれば、当然モチベーションは関係がなく人は動く。

朝の出勤時刻が決まっているとしよう。その時刻までに逆算して身支度をし、電車の時刻を調べて乗り、会社へ出かけるのにモチベーションは必要ない。

前夜に飲みすぎて、多少頭が痛くても、普通に家を出て出勤しようとするのが常識だ。「意欲」や「やる気」「動機付け」など一切、必要ないのだ。なぜならそれが習慣になっているからである。

習慣とはつまり、それが本人にとって「あたりまえ」になっていることを指す。そもそも「心の動き」や「感情」によって、できるとかできないとかが左右される領域のことではないと、潜在意識の中で認識していることだ。

このように、毎日の生活や仕事の中で「あたりまえ」だと認識していること、習慣化していることはモチベーションや「やる気」に左右されないことがわかる。ということは、何が「あたりまえ」なのかを自分で意識してみることからはじめるべきなのだ。

■モチベーションが「必要なケース/不要なケース」

自分にとって、何が「あたりまえ」なのかを、いまいち理解できないという人は、

「今の自分は、いったいどうあるべきなのか?」

そう問いかけてみよう。そうすればわかるはずだ。

ビジネスにおいてであれば、自分の上司になってみるのだ。会社の社長の立場から考えてもいい。お客様の立場からでもいいだろう。

自分という人間は、常にどうあるべきなのか。その「あり方」を繰り返し自問自答してみる。客観的に見つめ続ける。そうすれば、必ず見えてくるはずだ。

会社が設定した目標、上司から依頼された作業、期首に自分自身でコミットした行動目標――。

これらは現在の自分にとって、あるべき姿なのか。それをやることが「あたりまえ」なのか。そして、それを「あるべき姿」「あたりまえ」にすべきかどうかを自分自身で判断してよいことなのか、ということである。

「あるべき姿」を自分自身で決められる状況だと、行動がモチベーションに左右されるのは当然だ。しかし責任や義務がある場合はどうだろうか。

朝9時に出勤することが就業規則で決まっているのであれば、9時までに出勤するのはあたりまえであり、それは義務である。社員である以上、時間までに出勤する責任がある。自分自身で判断できない。

そう考えると、会社が設定した目標、上司から依頼された作業、期首に自分自身でコミットした行動目標、こういったものはすべて、やるべき責任がある。職務として決まっているのであれば、正しく工夫しながら遂行しなければならない。

いっぽう、個人が自立・自律するうえで、みずからキャリア開発を考える場合、それは義務ではない。やる責任もない。

自分に投資するために英語を勉強しよう。ダイエットしよう。ランニングしよう。テレビを観る時間を制限して読書しよう――。こういった事柄はモチベーションに左右されても仕方がない。

だから習慣化し、意識せずできるよう、みんなトレーニングに励むのだ。

■モチベーションを口にしていると「謙虚さ」がなくなっていく

「あるべき姿」と「現状」とのギャップのことを問題と呼ぶ。そしてこのギャップを正しくとらえ、解決していこうとする姿勢が人を謙虚にさせていく。だから問題意識というのは大事なのだ。

しかし「あるべき姿」や「現状」を正しく認識していない人は、問題意識が希薄だ。謙虚になることができまない。

極端に書くと「目標達成できなくてあたりまえ」「期限を守らなくてもあたりまえ」「言われたことを率先してやらなくてもあたりまえ」」という現状でも、問題ではない、と捉えている。

それを変えるためにはモチベーションという名の「動機付け」が必要だというのであれば。

成功する人は、「あるべき姿」というものを正しく認識している。だから常にそのギャップを埋めようと、自然に体が動くのだ。問題解決しようと行動する。創意工夫を続ける。

つまり成功する人は、「成功するノウハウ」を持っているのではなく、ギャップを埋めようとする行動と工夫の数が、異次元なほど膨大だということだ。

だからこそ成功する人ほど「謙虚」であり、「感謝の気持ち」を持つのは自然なこと。

このカラクリがわからないと、他者から見たら成功者はものすごくモチベーションが高い人のように見えることだろう。しかし本人にとっては「あるべき姿」とのギャップを解消しようとしているだけのことだから、それをやって「あたりまえ」だと捉えている。モチベーションに左右されることなく、淡々と行動することができる理由はここにある。

成功に向かっている人は、「無理しなくてもいいよ」「あまり頑張りすぎないで」と助言されても、抑制することなどできない。朝9時に出勤するのがあたりまえなのに、

「毎日決められたとおり9時に出勤するなんて偉いね。でも、そんなに無理しなくてもいいよ。できないときだってあるんだから」

などと指摘されているようなものだからだ。そんなことを言われたら誰でも混乱する。「あたりまえ」のことができない自分が恥ずかしい、と受け止めているからだ。

■「成功への階段」の上り方

会社から1億円の目標を達成してくれと言われているのに、9000万円しかできない人は、

「自分には9000万円ぐらいしか達成できない。あたりまえだ」

と受け止めている。

いっぽう、どのようにやったらいいかわからなくても、1億円の目標を絶対達成してくれと言われ、それが「あたりまえ」と受け止める人は、モチベーションなど関係なく、それに向かって行動する。創意工夫し続ける。

目標が達成するかどうかは、わからない。ただ「あたりまえ」だと受け止めている事柄に対し、自然と頭と体を働かせるのである。

1億円の目標を達成し、それが2億円になったとしても、思考プログラムは同じだ。

「東京から名古屋に行くことはできたが、大阪に行くだなんてムリだ!」

などと受け止める人はいない。それと同じことで、過去のやり方を捨て、時間通りに大阪へ到着するにはどうすればいいか逆算して考えるだけである。そこにストレスはかからないし、モチベーションも必要がない。

この思考のクセができあがれば、あとは「あたりまえの基準」を上げていけばストレスフリーで、成功への階段を上っていくことになる。

2億円の目標が達成したら次は5億。次は10億……と引き上げていけばいい。そのためにはどのようなリソースが必要なのか、逆算して考えるようになる。人を雇い、設備に投資し、仕組みをつくって、対処するようになれば、どんどん「あたりまえの基準」は高くなっていくだろう。

このように、成功している人は「あるべき姿」を明確にし、それを「あたりまえ」だと脳が勘違いする思考の持ち主だ。その一点が、普通の人と異なる。

■「令和」には、もう時代遅れ

4つの企業のオーナーをしている経営者がいる。まだ40代だが資産は20億円を超えている。現在はその資産を使いながら慈善事業に勤しんでいる。

そんな知人でも、できないことはたくさんある。たとえば表計算ソフトを使っての資料づくりだそうだ。

「エクセルを使って資料をつくりたいが、なかなかモチベーションが上がらない」

とこぼす。

彼がそのような資料をつくることが「あるべき姿」か「あたりまえ」のことなのかで考えたら、わかる。誰もそう思っていないのだ。

そういった資料づくりは、秘書をはじめ庶務担当の仕事だからだ。しかし当の本人は、

「昔はピボットテーブルやマクロ機能を使って、データ分析をエクセルでやったものだ。しかしここ数年、ほとんどやってなくて」

と残念がる。

しかし、どんなに本人が「やりたい」と言っても、その作業をやる義務も責任もないのだから、何らかの動機付けがないとできないものだ。彼には、他にやるべきこと、やってあたりまえのことが膨大にあるからだ。

このように「あたりまえ」でないことをするには、確かにモチベーションが必要だ。しかしやって「あたりまえ」のことには、モチベーションなど不要だ。

成功するには、まず「あり方」を考えるべきだ。その次に「やり方」である。モチベーションなど「あり方」でも「やり方」でもない。不要なものを議論の対象にしていると、そのコミュニケーションそのものが不毛なものになっていく。だから、

「横山さん、どうやったら部下のモチベーションを上げたらいいんでしょうか」

といった質問はしないことだ。神経科学の専門家でも「モチベーション」という用語について正しく定義できない。そんな用語に振り回されていないで、もっと本質的な「あり方」について部下と対話すべきなのだ。

繰り返すが、モチベーションの意味を正しくとらえられないと、感謝の気持ちがなくなっていく。「あたりまえ」の反意語は「ありがたい」である。モチベーションばかりを口にしている人は謙虚さがなくなっていく。そして「他責」の癖が抜けないのだ。

平成は終わり、令和の時代になった。このような時代遅れの用語に振り回されないで、不確実性の高い「VUCAの時代」をうまく切り抜けていきたい。

<参考記事>

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経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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