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日本企業はもう「イノベーション」という言葉を使うべきではない

横山信弘経営コラムニスト
イノベーションを起こすには、熱い感情が不可欠(写真:アフロ)

軽すぎる「イノベーション」という表現

イノベーションという言葉は、本来、新しいアイデア・発明による、社会的に意義の高い価値の創造――といった定義ですが、一般的な企業では「変革」「革新」などと訳されて使われています。

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。だからか、「もっとイノベーションを起こせ」「来季は組織イノベーションを進める」といった表現を現場で聞きます。とくに好んで使うのが経営者や幹部です。部署名に使われることもあります。「イノベーション企画室」「イノベーション推進センター」などといった部署がいろいろな企業で存在します。

このように身近になったイノベーションという表現ですが、残念ながら表現だけ浸透しただけで、日本企業における本当の意味でのイノベーションは進んでいません。

「The Economist 世界統計年鑑2019」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)によると、日本のイノベーション指数は世界で14位と、上位国に大きく引き離されています。アメリカ(4位)イギリス(5位)ドイツ(9位)韓国(11位)などと比べても歴然。

日本には十分すぎるほどの資産や文化があるにもかかわらず、それを活かしてイノベーションを起こせていないということです。スイス(1位)やアメリカ(4位)とは違うから……という言い訳はできません。

理由のひとつに、企業経営者たちが「イノベーション」という表現を軽く使いすぎているからではないか。現場に入っている私だからこそ言えることです。

(写真:アフロ)
(写真:アフロ)

不可欠な「リセット」する力

イノベーションという概念は、「〇」を「☆」にするほど、従来の形を変えるものでなければなりません。

「〇」を「◎」にするだけなら、小さな丸を加えるだけです。「〇」を「●」にするだけなら、黒く塗りつぶすだけ。もともとある「〇」の形が崩れないのではイノベーションではない。いっぽう「〇」を「☆」と変形させるなら、いったん「〇」を消さなければ「☆」という形を創りあげることができません。これです、イノベーションというのは。

つまりイノベーションとは、発想も行動も、従来の延長線上であってはならない。現在できあがっているものをいったん消すこと、リセットする勇気・覚悟が求められるということを、いま一度確認しましょう。

(写真:アフロ)
(写真:アフロ)

組織でイノベーションを起こす人財

前述したとおり、本当の意味でイノベーションを起こすためには、これまでの延長線上の発想や行動ではダメです。ということは、組織でイノベーションを起こすためのプロジェクトを組むとき、そこで選定すべき中心メンバーは、

■ 過去を知らない者

■ よほどの変わり者

でなければなりません。

たとえ過去を知らない者であったとしても、「昔からこうだった」「そんなことしてうまくいった例など聞いたことない」といった周囲の雑音に惑わされるような人では、イノベーションを起こすことはできないでしょう。「うちの会社って変わり者が多いよね」と言う人がいますが、本当の変わり者は、一社に一人いるかどうかです。

では、変わり者とは、どういう人間か。わかりやすく書くと「集団同調性バイアス」にかからないような人です。「長いものに巻かれる人」「会議中に意見を求められてからでないと発言できないような人」なんてもってのほか。

会社の飲み会に誘われるとツライ。長い会議がツライ。ずっと座ってメール処理ばかりしているのがツライ。常識にとらわれる人を見ているのがツライ。自分の意見を言えないのがツライ。自分の信念を曲げるのがツライ。

みんなが右を見ているときは、ついつい左を見たくなる。協調性がなく、周りから「自己チュー」と揶揄されるような、そんな人です。本当のイノベーションを起こす人は。

ただし組織でイノベーションを起こすわけですから、クレバーでなければなりません。自分は自分だからといって奇抜なファッションをしたり、平気でルールを破ったりする人ではいけない。

仕事ができないのもマズイ。付き合いは悪いが、仕事はできる。要領はよくないが、頭はキレる。

組織がやっていることに違和感を覚えても、それは受け止める(受け入れなくてもいい)度量がある。とはいえ迎合せず、主張したいことは主張するような人です。

「リボーン」という表現を使う

日本のイノベーション指数が低いのに、猫も杓子も経営者がイノベーション、イノベーションと言っているのは滑稽です。イノベーションという言葉は、もはやバズワード(もっとらしいが、実際には定義や意味があいまいな言葉)に成り下がりました。

あまりに軽く使われすぎて、耳にしても刺激を覚えないのです。社長が「来年こそイノベーションを起こそう」と言っても、「そうですね、イノベーションでいきましょう」と簡単に部下が賛同してしまう。現場にいると「ウィンウィン」と同じぐらいに、意味をなさない空虚な表現になったと感じています。

本当に組織を変えたいなら、まずは使う言葉を換えましょう。

私が推薦する言葉は「リボーン(reborn)」です。読んで字のごとく、「生まれ変わる」という意味です。ちょっと努力して、変えるぐらいでは「生まれ変わる」を意味するリボーンという表現は使えません。覚悟が求められる表現です。

「組織改革」とか「組織イノベーション」という表現はもうやめる。言葉に慣れすぎて、刺激が足りないのです。だから「組織リボーン」です。いったんリセットして、もう一度ゼロから立て直す。本当に変わりたいのなら、使うたびに葛藤を覚えるような言葉を選びましょう。会うたびに衝突するような人財をプロジェクトの中心に据えるのです。

その覚悟がなければ、組織はいつまで経っても変わらないのです。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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