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職場でこんなクーラーのニーズはない

横山信弘経営コラムニスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

なにかの冗談?

ついにここまで来たか。組織の問題が、こんなアイデアを生み出してしまうだなんて――。

先週、朝日新聞に掲載された、居眠りさせないオフィス開発へ まぶた監視→室温下げるという記事が話題となっています。

人工知能(AI)の認証技術を活用して、オフィスワーカーのまぶたの動きを追い、眠気を察知したら、部屋の温度を自動で下げたり、エアコンからまぶたに向かって風を吹きかけるというものである。そんな機能を搭載したオフィスを開発中で、2020年ごろには実用化したいというのだから驚きます。

オモシロ発明をするベンチャー企業のアイデアならともかく、NECとダイキン工業といった、日本有数の大企業が大マジメに取り組んでいるプロジェクトです。それなりに市場ニーズがあるということでしょうから、やはり驚くしかありません。

組織統制の問題である

たとえば小学生の子どもが夜なかなか寝ないから、眠気を誘うような音楽を自動で配信するような住宅があったら、買う人はどれだけいるでしょうか。親が「早く寝なさい」と言えばいいだけの話です。

これと同じように、マネジメントのやり方ひとつで、眠気に襲われない職場にはできます。

午後の3時に全員でラジオ体操をする。夕方4時に10分間のティータイムを実施する。会議室をリラックスルームとして開放し、そこで仮眠をとってもらうなど、いろいろな取り組みをする会社は実際にあります。

とくにデスクワークが長時間続くオフィスワーカーは要注意。「健康経営」を提唱する研究者は、座位時間が長いほど死亡リスクが高まると警鐘を鳴らしています。

そういう観点からも、眠気を覚ますために定期的にストレッチや体操を実施してもらうこと。そのほうが、ハイテクのエアコンを使って瞼に冷気を投射することよりも、健康的なアプローチです。

低介入マネジャー

こういうアイデアが支持されるのは、世の中に思考停止となった組織マネジャーが増えたからと言えるでしょう。定期的に体を動かしたほうがいい、少しでも仮眠をとったほうが生産性はあがる、だなんて誰もが知っていることです。

組織のマネジャーたちもわかっているのですが、部下たちに対する介入レベルが低すぎるので統制することができないのです。だから、こういった低介入マネジャーは、

「言っても、なかなかやってくれない」

と口癖のように言います。

「もっと積極的に発言してと言っても、なかなかやらない」

「業務の生産性を上げてほしいと言ってるんですが、なかなかやってくれない」

こういう話と同じように、

「ずっとパソコンに向かっていると眠くなるだろうから、1時間に1回ぐらいは体を動かしてとは言っているんです。しかし、なかなかやってくれないですね」

と、言います。まるで、隣家の木の枝が我が家の敷地内に入り込んできて

「隣のおばあちゃんに、枝を切ってほしいと言ってるんですが、なかなかやってくれない」

と苦笑している人と同じレベルの「よそよそしさ」です。

オフィスワーカーたちの行動を画像認識機能を使って分析し、誰が幸福度の高い働き方をしているのか、どの営業が受注率の高い行動をしているのかを解明するサービスは、これまでもありました。

いずれも過剰ソリューションであることは明らか。実用化されても、導入実績はいっこうに上がりません。なぜなら決裁権のある経営者が、

「そんなことまでAIに頼らないとできないのか!」

と現場のマネジャーを一喝するに決まっているからです。

そもそも「言っても、なかなかやってくれない」――の、「言っても」というのは、具体的にどういうことなのか。ひとりひとりに対して5回も10回も言ったのか。なぜそれが必要なのか、正しい論拠とともに粘り強く対話したのか。

多くのケースでは、朝礼や会議のときに「心がけてくれ」と言う程度に終わっています。

本記事は、単なる「眠気覚まし」の話です。しかし、このようなAIに頼ってオフィスの生産性を上げたいというニーズが増えた背景には、組織マネジャーたちの自覚のなさに起因しているように思います。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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