なぜ働き方改革の流れが「人手不足倒産」を引き起こすのか?

(写真:アフロ)

深刻な「人手不足倒産」

「人手不足倒産」という言葉を、よく耳にするようになりました。

帝国データバンクの調査によると、2017年の件数が106件であったのに対し、2018年の上半期が70件超と、過去最高を記録(2013年から調査開始)。ハイペースで「人手不足倒産」が増えている実態があらためて明らかになりました。

さて、「人手不足倒産」の要因は3つです。

1.生産年齢人口の減少

2.相対的待遇の悪化

3.育成プログラムの未整備

生産年齢人口が減少していることは、もはや説明不要でしょう。1995年に比べて、20年後の2015年で約1,000万人が減少。2050年には、さらに2,000万人減少すると言われるわけですから、単純明快。人手不足となって当然です。

技術者不足は死活問題

また、昨今の「働き方改革」の流れに乗ることができない(しづらい)小売り、サービス、情報通信、保守メンテナンス、建設などの業界に集中して「人手不足倒産」が多いのは、相対的な待遇が以前より悪化しているからです。多様な働き方を認めてくれる企業、時間外労働が少ない企業が増えており、賃金のみならず、待遇を改善できない中小企業には、久しく人が集まりにくい状態になっています。就社意識の低い労働者は、もっと待遇のいいところへ離れていくでしょうし、「流入が少なく、流出が多い」といったダブルパンチに見舞われる企業も少なくないでしょう。

また、単なる「労働力不足」であるなら待遇を改善し、一時的に人を集めて急場をしのぐことはできます。しかし、一定の水準以上の技術力が必要な職場ではムリ。金型職人を確保できず倒産した事例や、実務能力のあるエンジニアが離職して倒産したIT企業の事例などが増えています。

以前なら5年、10年かかった人材教育を、今は1~2年でできなければいけない時代です。技術力のある人材の離職に備えがない企業は、今後大きな問題に直面していきます。大企業でも育成プログラムを整備し、運用はしているものの、人の育成というのは期待どおりにはいかないもの。そのため、他社の優秀な技術者を引き抜いて対応している企業も多い。人手不足に悩む中小企業にとっては、この問題が一番大きいと言えるでしょう。

「働き方改革」の功罪

企業の現場に入ってコンサルティングしている私は、採用面接に立ち会うこともあります。長年、面接にも関わらせていただくと、時代の変化を肌で感じることができます。中小企業には新卒よりも、中途で入社する人が多い。したがって、面接ではなぜ「今の会社を辞めたいか」という理由を聞く回数が多くなります。

以前であれば、「もっとやりがいのある仕事がしたい」「もっと自分にチャンスを与えてくれる会社で働きたい」という動機が多かった。真実はどうあれ、そのように口にする人が多かったため、多少労働条件が大企業より悪くても、「アットホームなこの会社が好き」「仕事はキツイし、社長も厳しい人ですが、やりがいを感じます」と言って続けてくれる人がいました。ですから中小企業でもチャンスがあったのです。

しかし今は、面接時でも「前職では毎日定時で帰ることができず、子どもと夕食を一緒にできなかった」「ドローンが趣味で、大会があるときに休ませてもらえないから」と、残業ゼロが条件、休めるときに休めることが必須、とあからさまに言う人が増えています。たとえそう思っていたとしても、面接時では胸の内にしまっておくのが常識であったはず。なぜ「その条件を飲んでくれないと入社しないぞ」という脅しにも似た条件を出す人が増えたのか。

私は「働き方改革」「ワークライフバランス」といった言葉が独り歩きしすぎていることに問題があると捉えています。

組織も人も、それなりに完成されてはじめて「調和」を意識できるようになります。まだ未完成な状態なのに調和しようにも、できないものだと知るべきです。10年が5年、3年が1年に短縮されようと、それなりの技術力を身につけるためには、一定の期間、鍛錬が必要です。前述したとおり、効率のよい育成プログラムは必要ですが、だからといって、最初から負荷もかけずに力がつくトレーニングなどありません。

不慣れなことに、心も体も慣れるまでは、非効率的な働き方になって当たり前。いきなり生産性は上げられないし、「この時間だけしか働きたくない」と言っても、企業側は容認できません。単純作業だけをやってもらうなら、ロボットのほうがよく働きますから。

一般的に「人手不足倒産」を食い止めるには、「高齢者、外国人労働者の採用」「AI・ロボット技術の活用」などがあげられます。しかし先述したように、一定水準の技術力が必要な企業には、有効な措置とは言えません。

「働き方改革」は、多くの企業で対応していくべき事案です。しかし、人が急速に能力を身につけられないのと同じで、1年や2年のスパンで労働環境を改善することが難しい企業もあると知ってもらいたい。「モーレツ社員」を厚遇する企業ならともかく、まだまだ日本に存在し続けてほしい、価値のある中小企業が「人手不足倒産」となるのは悲しい出来事だからです。

「働き方改革」によって国力が落ちるようでは本末転倒です。揺り戻しがあった「ゆとり教育」と同じようにならぬよう、健全に日本経済を深化させるため、企業側のみならず、求職者や働き手にも意識改革が求められるステージに入ってきたように思います。