その瞬間だけ相手を動かす「武器」とは? 5つのファクターを解説する

どうすれば交渉事を有利にすすめることができるのか?(写真:アフロ)

多くの人が抱く悩みはひとつ

人間というのは不思議です。頭でわかっていてもなかなか行動できなかったり、買ってはいけないと思っていても、衝動的に大金を支払って購入し、あとで後悔することがあります。

自分の行動もそうですが、他人の行動をもコントロールできると、いろいろなケースにおいてうまくいきます。自分が経営者だったら、従業員を思い描いたように動かすことができることでしょう。もし営業だったらお客様を、マネジャーだったら部下を、期待どおりに意思決定させ、行動を起こしてもらうことができるからです。

しかし現実は、そのようにうまくいかないもの。多くの人が抱える悩みは「人間関係」のことであり、その悩みの大半が、「よかれと思って提案していることを、なかなか聞き入れてもらえない」「他の人は動いてくれるのに、なぜこの人はこんなに抵抗するのか。意味がわからない」といったことです。

つまり、期待したとおりに人が動かないこと。それが多くの人が抱く「悩み」なのです。

(写真:アフロ)
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まず変えるのは相手の「思考パターン」

人を動かすために「ごり押し」ぎみに相手を説得しようと試みるのは、よくありません。誰でも嫌がることでしょう。ユーメッセージを使って、「あなたはこうすべきだ」「私の言うとおりに、あなたは従えばいいのだ」みたいな言い方は、多くの人に敬遠されます。

力をいっさいかけずに押していたら、誰も何も動きません。しかし、できればソフトタッチで相手をリードしたい。さりげない話し方で、相手を動かせたらいいですね。

さて、ここからは人が動くための3つの要素を紹介します。

「その人の価値観」「その人が所属している環境」「その人が置かれた状況」の3つです。

その人の価値観は、過去の体験の「インパクト×回数」でできています。価値観、考え方、思考パターン、習慣――といったものをそう簡単に変えることは難しい。この努力を惜しむことは問題ですが、てっとり早く変更することは難しいでしょう。

相手が子ども、部下……と、長期的に付き合う人であれば、相手の「思考プログラム」を変えていくよう努めることは大事です。新規のお客様と関係を築くケースでも同じ。何度も繰り返して接触したり、情報を提供することで、お客様の価値観、思考プログラムが変化し、こちらが取り扱っている商品やサービスに興味を持ってくださることがよくあるのです。

環境を変えることで、人は劇的に変化する

個人の思考パターンを変えなくても、所属先の組織を変えることで、特定の人物の行動を変えることはできます。

A社にいたころのXさんは、まるで主体的に動こうとしなかったのに、B社に転職したとたん、Xさんは人が変わったようにイキイキと活躍するようになった、という話はいくらでもあります。

組織の風土、文化、空気を変えていくことは、恒常的にメンバーの活躍を願う場合、避けて通れないことです。「文化」「風土」を変えていくことと同じように、「インパクト×回数」がキーワード。しかも個人の思考パターンを変革するよりも、複雑な手続きを執らなければならないので、一筋縄ではいきません。

(詳しくは社風を100%変える「メルコサイクル」とは?をご参照ください)

なかなか動かない部下

たとえばマネジャーが部下に対し、3ヶ月後に実施されるイベントプロジェクトのリーダーをやってもらいたい、とします。

部下との関係は良くも悪くもありません。普通の関係、とします。マネジャーの言うことを無条件で聞くときもあれば、いろいろな理屈を言って抵抗するときもあります。

マネジャーは部下を会議室に呼び、今度執り行われるイベントプロジェクトの概要を丁寧に解説しました。このプロジェクトが会社にとっていかに大事か、そしてこのプロジェクトに関わることで、部下がどのようなことを学ぶか、情熱をもって語りました。

しかし部下は、「できればお断りしたい」「いまは大型の案件があり、忙しくてムリ」という返事。マネジャーは、熱意を込めて説得しようとしますが、部下は「難しいです」「他の方に頼んでもらえませんか」の一点張りです。

もしも部下の思考パターンが「あの上司の言うことは基本的に聞く」というのであれば、「わかりました。とりあえず、やってみます」という返事になったことでしょう。これは理屈ではありません。思考パターンなので、意識せずともそのような反応になるのです。他の人ならともかく、あの上司に言われたら……という思考です。

いっぽう、少し難しそうなことでもチャレンジする風土がその組織に根付いていたら、この部下も態度を硬化することはなかったでしょう。「あ、もちろん、やります」と即答するはずです。他のメンバーからは「あのプロジェクトを任されるなんてスゴイ」「羨ましい。いつか自分もプロジェクトリーダーに任命されたい」と声が掛かるでしょう。

いっぽう、そのような風土、文化のない組織では、「あのプロジェクトを任されそうになったって? 断って正解だよ!」「貧乏くじ引かなくてよかった。そんなプロジェクトをやれる暇なヤツなんて、いないよ」と多くのメンバーは口々に言うことでしょう。

このように、動かしたい相手の思考パターン、所属している組織の風土がよくないと、どんなに相手のため、組織のため、と言っても聞き入れてもらえないことがあります。

しかし、相手の思考パターンを変えたり、組織の風土改革に取り組むのは、それなりの覚悟と時間が必要です。

それでは、あまり長い期間をかけず、瞬間的に人の動きを変えたいときどうすればいいのでしょうか。

「思考」「風土」とは違う要素――「状況」に手を加えるのです。その方策として、「状況設計」をしましょう。

(写真:アフロ)
(写真:アフロ)

瞬間的に人を動かしたいときは?

「環境」よりも狭義の概念として「状況」があります。「状況」は、常に移り変わっていくもの。釣りをしている人なら、いま海(川)は、どんな状況なのか? 天候は? 海流は? 潮の満ち引きは? ……が気になるはずです。

今日はダメでも明日はOK、ということがあります。「状況」によって、人の心も変わるからです。

私の場合、ひとりで高速道路を運転していると、はやく目的地に到着したいという気持ちが大きくなり、サービスエリアなどで休憩することはほぼありません。しかし、家族と一緒にいるときは、まず間違いなくサービスエリアに寄ります。目的地に着く時間が遅くなっても、です。

このように「状況」によって、人は判断基準を大きく変えます。誰と一緒にいるのか? 急いでいるか? お金に余裕があるか? 天気は良いか? 最近、成功体験を積んだか? 上司に怒られたあとか? 結婚したばかりか? そのときそのときの「状況」によって、人がどのように物事を判断するのかを、観察することが重要です。

この「状況」というファクターを頭に入れず、「理屈が通っているのだから、相手を説得できる」と思い込んではいけません。それほど人間の判断基準はうつろいやすいものだからです。

「状況設計」に必要な上位カテゴリーを並べてみます。

1)時間にかかわること

2)人にかかわること

3)物にかかわること

4)場所にかかわること

5)感情にかかわること

この5つです。

「時間」のファクターは多岐にわたります。期末がよいのか、朝礼が終わったあとがよいのか、残業中がよいのか、休日がよいのか、クリスマスイヴがいいのか……。時間帯、季節、記念日などの要素を加味して設計します。

「人」のファクターは、誰と一緒にいるか、です。心を許している人、緊張を覚える人、尊敬する人、心から愛している人……。誰と一緒にいるか、群衆の中のほうがいいのか、相手の感情がどう変化するかを考えて設計します。

「物」のファクターは、相手の興味、関心事項を知ったうえで設計します。「物」というのは、プレゼントを指すだけではありません。その場所に置かれている物、こちらが手にしている小道具などもリストに入ります。

「場所」というファクターは、「状況設計」にとってたいへん重要です。暗い会議室で部下と対面するのか。開放的なカフェ、高級ホテルのラウンジ、思い出の場所、青空と海を見ながら話すのか……。まさに「状況」をコントロールするうえで、大切なファクターです。ビジネス以外、プライベートな要件で相手をリードしたいときなどは、特に気を付けたいポイントです。

最後の「感情」というのは、相手のことをよく知らなければ考慮しづらいファクターでしょう。部下や恋人、家族ならともかく、営業先であるなら、相手の社長が最近どんな心の状況であるのか、新しい家族が誕生したのか、業績が落ちてイライラしているのか、新しい期を迎えて高揚しているのか、新商品があたって絶好調なのか……。できれば事前知識として仕入れておきましょう。

したがって、相手を正しくリードしようとしたければ、相手のことをキチンと知ることが重要です。「固定情報」だけでなく「変動情報」も。定期的に接点を持ち、相手のことを知ろうとすることで、相手の置かれた「状況」を把握することができます。

相手とキチンと向き合うことで、今はどんな「感情」を持っているのか。うつろいゆく「状況」を的確につかむことです。場所を変えたり、贈り物をすれば相手が快く引き受けてくれるかというと、そんなはずはないのです。やはり日ごろの接し方が重要なのです。

まとめ

まとめると、相手を説得しやすく「状況設計」することが重要である、ということです。「状況」を設計しづらいシチュエーション――たとえば、よく知らない相手にダイレクトメールを送ったり、部下に対してメールだけで指示をしようとしても、期待どおりの成果を手に入れることは難しいでしょう。

「状況設計」が甘すぎるからです。

相手を動かすためには、信念であったり、情熱であったり、感謝の気持ちであったり、「状況」よりももっともっと大切なファクターがある、小手先のテクニックを使わず、直球勝負を挑め、と考える人も多いことでしょう。

しかし、多くの部下を持つマネジャーや、民間企業の営業など、毎日のように誰かを説得したい、交渉事を有利にすすめたいと考えている人は、そんなことは「あたりまえ」と捉えています。そのような「心」だけで人を動かすことができれば苦労しない、ということも知っています。

「状況設計」をしっかりしていくプロセスのなかで、相手に情熱が伝わることも事実です。「状況」はまさに、人を動かす「武器」と言えるでしょう。「状況」を変えるだけで、相手の意思決定が劇的に変わることがあります。ぜひ、参考にしてください。