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組織を変えるためには、「組織改革」が先か「意識改革」が先か?

横山信弘経営コラムニスト
(提供:アフロ)

組織改革か、意識改革か、行動改革か……

企業がかかげる年度方針は、どれも似たようなものばかりです。「現状維持でがんばろう」「この調子でぼちぼちやっていこう」的なスローガンが出ることはあり得なく、過去との決別を匂わす表現になることが普通です。

使える都合のいい表現は決まっています。「改革」「革新」「変革」「刷新」「一新」「イノベーション」……。ちょっと消極的になると「改善」「向上」「整理」「開拓」……。少し幼稚になりますが「革命」「レボリューション」……。

その中でも圧倒的に多いのは「改革」。このフレーズに何を改革するのか、その「目的語」を加えてみるのです。最も目にするのは「意識」でしょう。「意識改革」。次に「行動」つまり「行動改革」です。全社員向けに作っているスローガンですから、個人向けの「意識」や「行動」という表現が目的語になるのは無難な選択と言えます。

しかし個人の「意識」「行動」を、企業のスローガンごときで改革できるはずがありません。「意識改革」を声高にかかげる企業がありますが、個人の自主性に依存した改革なんて、改革などとは呼べないでしょう。

組織内のしかるべきリーダーたちが火をつけて組織を変えていく。したがって、現実的に機能するのは「意識改革」ではなく「組織改革」です。

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本来の組織のあるべき姿

ところで、そもそも「組織改革」という言葉は、範囲が広すぎる言葉です。ですから、ひとえに「組織改革」とはいえ、何からスタートしたらいいかわからない人もいると思います。

「組織改革」の目的は、いったん崩れた組織を本来あるべき姿に甦生させること。(すでにうまくいっている組織をバージョンアップさせることを組織改革とは呼びません)ということは、本来の組織の「あるべき姿」を知る必要があります。一般的に言われる組織の「3要素」とは、

・共通の目的をもっていること(組織目的)

・お互いに協力する意思をもっていること(貢献意欲)

・円滑なコミュニケーションが取れること(情報共有)

これら3つです。

組織は組織であって、単なる集団ではありません。メンバーが組織の共通目的に向かって互い協力し、活発にコミュニケーションをとっている状態が組織のあるべき姿、と言えるでしょう。

「仕組み」に対する幻想

それでは実際に「組織改革」をどのような手順で進めるといいのでしょうか。

これまで多くの企業にコンサルティングに入ってきて感じることは、組織の「風土」が良好でない限り「仕組み」から入ってはならない、ということです。

組織風土が良好でないと、組織の目的を正しく共有できていません。そうなると、手段を目的化してしまいます。

そのような組織にどんな「仕組み」をインストールしても定着しませんし、それどころか新たな仕組みを入れることで、よけいに組織の雰囲気が悪くなることがあります。

ちなみに「仕組み」とは、新しいルールや制度にはじまり、組織体制そのもの、管理手法や電子デバイス、情報システムにいたるまで、さまざまなものがあります。

売上目標を達成する、労働時間を短縮する、社員がイキイキとして働く環境を作る、新入社員の定着率をアップする……など、何らかの組織の目的があり、それを達成させるための「手段」であるという共通認識がない限り、メンバーは自主的にその「仕組み」を有効活用しようとしません。たとえ活用しても、効果が出るまで試行錯誤を繰り返そうとしないでしょう。

「組織改革」は風土を変えてから

「組織改革」をするには、まず手順を間違えないことです。

半数以上のメンバーが受け身ではなく、組織の目的のために自主的に動く状態を作ること。これが第一。「風土」が変わらない限り、何をやってもうまくいきません。

法則として知っておくべきことは、手間暇かかることに忍耐強く向き合うことを、人は尊いと受け止めるもの。てっとり早く問題を解決しようとする姿勢は軽視されます。誰も口にしなくても、そういうものです。

「組織改革」をするうえで、単に上司を変えたり、組織変更をしたりするだけの会社。補助金を出すから定期的にランチ会をやりなさい、飲み会を開きなさいと促す会社。情報共有を促進するためにコミュニケーションツールの導入や、情報システムの刷新をする会社……。どれも、組織のメンバーが受け身であったら、機能しない「仕組み」ばかりです。

「仕組み」を導入することよりも「風土」を改善するほうが、比較にならないほど困難です。この困難なことにチャレンジする会社、リーダーがメンバーから尊敬されるものです。

「風土」を良くするために「仕組み」を導入するのだという声もありますが、完全に間違っています。結局はメンバーの「意識改革」を待つことになるからです。

鶏が先か、卵が先か、と迷う話ではありません。

「風土」をよくしてから「仕組み」を導入し、その「仕組み」によってさらに「風土」をよくしていく。イメージとしては、これをらせん状に繰り返すことです。

現在の組織の状態が【5】のレベルで、これを【10】のレベルに引き上げたいとするなら、【5】 → 【6】 → 【7】 → 【8】 → 【9】 → 【10】という具合に。

組織が本来の組織としての機能を取り戻すと、8割のメンバーは自主的に動きはじめます。これが組織のチカラです。

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手始めはリーダーの強烈なメッセージ

まず「組織改革」をするうえでしなければならないことは(当然のことながら)、リーダーが熱いメッセージを全体発信することです。1回や2回ではなく、何度も何度も、「しつこい」「くどい」と思われるほどに続けます。

「みんなで組織改革をしよう」などと投げ掛けないことです。それは「風土」がよくなってからで、メンバーの主体性が欠けるときは、「私のチカラで組織を変えるのだ」「組織の雰囲気が変わるまで、断固としてあきらめない」というリーダーの姿勢、態度を見せることです。

人の思考パターンを変えるには「インパクト×回数」が必要。インパクトのある体験を何度も重ねます。それは組織の「風土」も同じ。

最初のうちは、どんなにリーダーが強いメッセージを発しても「また言っている」「どうせ今だけ」と思われる恐れがあります。風土がよくない状態なのですからしかたがありません。

しかし、顔を合わせるたびに、何度も何度もリーダーが言い続けると、「今度は本気かも」「従わないとマズイ気がする」という空気ができあがってきます。

まずは、組織改革の空気、雰囲気作りが先。場を暖める行為は、リーダーの姿勢、熱いメッセージの繰り返しが必要なのです。

少し雰囲気が変わってきたら、次にすべきことはメンバー同士のコミュニケーションを活性化する「仕組み」の導入です。業務に関係のない表面的なコミュニケーションができる「場」の提供をしましょう。

大切なのは「仕組み」化すること。飲み会や社員旅行といった一過性のイベントは「仕組み」とは呼びません。あるルールに則り、定期的に開催するのです。

メンバーが率先して自己を開示したり、他愛もない世間話を相互にできるようになってから、さらに突っ込んだ「仕組み」を導入します。仕事に役立つ情報を共有する仕組みであったり、上司部下のコミュニケーションを活性化させるツールであったり、です。

これまでのコンサルティング実績からすると、スムーズに進行しても、ここまで来るのに早くて半年。普通は1年ぐらいはかかります。1年で風土が変わらないとなると、リーダーに原因があります。リーダーの姿勢が中途半端だと遅々として改革は進みません。

組織風土はしばらく一進一退を続けます。いったんよくなっても、また何かのきっかけで悪い状態に戻ったりもします。そのたびにリーダーは「何があっても元には戻らせない」というメッセージを発するのです。

リーダーの姿勢はそれほど重要なのです。改革の担い手が「私」ではなく「私たち」になっていると、努力している割には結果が伴わないことでしょう。

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リーダーの人選

結局のところ「組織改革」の成否は、リーダーの人選にかかっています。メンバーの合意形成を重視するタイプ。調整型のリーダーでは、「改革」などできるはずがありません。「改革」は「改良」とは違います。良いものをさらにより良いものにするのはなく、今悪くなっているものを良いものに変えていく作業です。したがって、みんなの意見をいちいち聞くのではなく、己の信念を曲げない、強烈なリーダーシップをはかることができる人を改革の騎手にすべきです。

そして「風土」がよくなり、「仕組み」が導入されたら、態度を変えて、メンバー全員の声に耳を傾けます。カリスマなのに、柔軟性のあるリーダーが求められます。一人で何役も演じることができないのなら、2~3人でリーダーシップを発揮するのもよいでしょう。

とはいえ、よほどのカリスマでない限り、大人数の組織を改革することは困難です。統制範囲の原則(スパンオブコントロール)の概念からして、多くて10人定度。だいたい10人に一人、先述したようなリーダーがいて手順を間違えなければ、確実に組織改革は遂行されることでしょう。ぜひ試してみてください。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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