短期間で結果を出す「高速テストマーケティング」
私は企業の現場に入り、目標を絶対達成させるコンサルタントです。自分の会社でもそうですし、クライアント企業に対してもそうですが、常に意識しているのは「高速テストマーケティング」。マーケティングマネジメントを超高速にまわしていくことです。これが最も、短期間で結果を出すうえで重要なことだと考えています。
ちなみに「短期間ではなく、長い時間をかけてじっくりと結果を出していきたい」という方もいるでしょうが、そういう姿勢だと、ほとんどその夢は叶わないと思ってください。目標というのは「遠隔目標」と「近接目標」の2種類に分解できます。3年後に10億円の売上にする、が遠隔目標だとすると、今期の目標を4億達成させる、というのが近接目標です。さらにそれよりも身近な近接目標は、半期で2億かもしれません。3ヶ月後のイベントに300名集めるとか、月間の顧客接点を100名にする、というのも近接目標です。
長期間かけて大きな目標にのみ焦点を合わせていると、掛け声倒れで、フェードアウトすることが関の山です。気を付けたいですね。
そして何より、過去に達成したこともないような目標を設定し、それを達成させるためには、「何を」「どこまでのレベルで」「どのくらいの回数」実践すればいいのか? そのこと自体が誰もわかりません。つまり、目標を達成させるうえで仮説を立てるときに「今現時点で何がわからないのか、そのこと自体、誰もわかっていない」と自覚することが大切です。この謙虚な姿勢なく、短期間で高い山を登ろうとするのはリスクがありすぎるのです。
たとえば、どこかのお店の味を再現したいと考えたとしましょう。しかし、そのためのレシピが手元にない。レシピがないのであれば、自分なりに考えて食材や調味料を集め、片っ端から実験するしかありません。この実験も適当にやるのではなく、過去の経験を下に、真剣に考えながら、そしてメンバーと相談し合いながら「高速実験」を繰り返すのです。
この「高速実験」の反対は「一発勝負」。一発勝負で、あの店のあの料理の味を再現させたい、と考えようとすると、ものすごく悩みます。いろいろな調査が必要ですし、準備にとても時間がかかることになります。お店の料理ならともかく、新規事業で10億円の売上を2年で作りたい、新商品を1年間で100社に導入したい、という目標であれば「一発勝負」に出るのはとてもリスキーです。
一発勝負しようとする人は、いろいろな人の知見を結集させようとします。そのため、ついつい多様な部署のベテランや、外部の有識者を招聘したりします。そして、あーでもないこーでもないと大人数で議論し、ジックリとマーケティング戦略を練り上げ、各部署と調整をとりながら行動計画を策定しているうちに組織体制が変わったりするのです。時間は待ってくれません。そして異動してきた他部署のマネジャーが「何の話? 新規事業のマーケティング戦略? 俺にもわかるように最初から教えて」とやっているうちに、当初予定していた達成期限がやって来てしまいます。とても短期間で結果を出すことなどできません。
それでは、高速実験をするためのポイントを整理していきましょう。
■ 2~3人の少人数でグループを形成すること
■ 知識よりも体力があるメンバーを集めること
■ 目標は絶対達成させるマインドがあるメンバーを集めること
高速実験を繰り返すには、スピーディーに行動できるメンバーのみのグループを作ることが重要です。メンバーに達成マインドがあることは当然ですが、意欲があれば行動スピードが速くなるわけではありません。「体力」が重要なのです。ここでいう「体力」とは「脳の基礎体力」を指しています。
私どもが現場に入って指導していると、「口」だけでなく、本当に意欲はあるのに、どう頑張っても瞬発力があがらない人がいます。1回や2回ならともかく、3回、4回、5回、同じことを繰り返しているとだんだん飽きて、最初は持っていた好奇心が薄れ、行動を継続できなくなる人もいます。意欲はあるのに、スピードが遅い、同じ行動を継続できない、という人です。これは性格というより、トレーニング不足なのです。結果から逆算した行動をとってきた歴史がない人は、「脳の基礎体力」が落ちている可能性があります。メンバーを選択するとき、ついついその人の知識、実力に焦点を合わせてしまいがちですが、「体力」があるかどうかの見極めは「高速実験」するうえで非常に重要です。
また「高速実験」をするためには、当然コスト意識を正しく持つことも忘れてはなりません。コストには3種類あります。経済的コスト、時間的コスト、精神的コストの3つです。高速に実験を繰り返すわけですから、経済的コストと時間的コストがかかるマーケティング活動をすることができません。つまり精神的コストがかかるようなアプローチ手法を選択することが基本です。
アプローチには「マスアプローチ」と「パーソナルアプローチ」の2つがあり、不特定多数を相手にするマスアプローチ(四大広告を含む、メディアを使った活動)はどうしてもお金がかかります。もちろん準備するのにも時間もかかります。繰り返すことは難しく、一発勝負になりがちです。潤沢に資金と時間がない限り、高速実験には向きません。
個人が個人に対するパーソナルアプローチは、経済的コスト、時間的コストがかかりません。そのかわり、相手と1対1でアプローチを仕掛けるため、慣れない人は精神的コスト――つまりストレスがかかります。無料ツールを使ってブログを書いたり、フェイスブックページを利用して認知度をアップさせる取り組みも良いでしょう。ただ、結果が出るまでに時間的コストがかなり必要であることを忘れてはなりません。ホームページやSNSを活用するのもいいですが、マスに対する情報配信だけで放置しておくと、単なるマスアプローチです。したがって記事をアップしたり、サイトを更新したら、パーソナルアプローチを使って特定の相手に直接的に認知させる取り組みをすべきなのです。
この精神的コストを克服することが、高速実験の最大の焦点であり、短期間で結果を出すための一番の近道です。
(※当然、パーソナルアプローチする相手を顧客資産としてデータベース化していることが前提条件です。正しいデータベースを構築する取組も、マスアプローチですべきではありません)
体力のあるメンバーが少人数でグループを形成し、短期間で高速実験を繰り返します。そうすることで、「何を」「どこまでのレベルで」「どのくらいの回数」実践すれば期待どおりの結果が出るのか、まずそのレシピができあがります。そしてそのレシピを組織全体に広げることで、そのレシピの精度をあげていくのです。
「組織一丸」もいいのですが、まずは少数精鋭の部隊で正しいレシピ――「勝利の方程式」を短期間で作り上げましょう。それが一番、短期間で結果を出す手法なのです。