紹介と口コミで広がる「脳内SEO対策」
インターネットの「SEO対策」という言葉をご存知でしょうか。Yahoo!やGoogleといった検索エンジンにキーワードを入力し、検索上位に引っかかるようにするための技術・対策手法を言います。「検索エンジン最適化」とも呼ばれています。今回取り上げるのは、インターネットの検索エンジンではなく、脳内の検索エンジン。何らかのキーワードを思い浮かべることで、どんな情報が引っ掛かるのか? (何を思い出すのか?) ……で、わかります。もちろん、この検索結果は人によって異なります。
たとえば、あなたの脳に次のキーワードを入力し、何が引っ掛かるか、考えてみてください。
1)「日本」「高い」「山」
2)「最近」「離婚」「芸能人」
3)「イタリア」「日本人選手」「サッカー」
4)「AKB48」「卒業」
1)のキーワードであれば、「富士山」「北岳」「御嶽山」……など、何が思いつくかは人によってさまざまだと思います。3)であれば、「本田圭佑」「長友佑都」……など。4)であれば、「前田敦子」「大島優子」「板野友美」……などが引っ掛かるかもしれません。もしも3)の検索で「香川真司」と出たり、4)の検索で「渡辺麻友」と出てきたら、脳内の検索アルゴリズムに問題があります。
営業やマーケティングを考えるとき、「紹介」や「口コミ」で勝手に商品が広まるとラクに結果を出すことができます。お客様のほうから近づいていただけるからです。「紹介」や「口コミ」は、あるキーワードを聞いて、商品や販売する人物のことを思い出してくれることで実現します。つまり、脳内の検索エンジンに引っ掛かるかどうか、で決まります。
たとえば友人から、「新宿駅の近くで美味しい焼肉店ってないかな?」と質問された場合、「新宿駅」「おいしい」「焼肉店」というキーワードで脳の中を検索しにいきます。そして、もし検索にヒットしたなら、
「ああ、それだったら西口を出てから徒歩5分のところに、知っている焼肉店があるよ。あの店ならおいしいかも」
と答えるでしょう。ヒットした焼肉店の件数が複数あるなら、
「もし東口でもよければ、おいしい焼肉店は2軒ある」
と答えることでしょう。この検索結果が正しいかどうかはわかりませんが、検索上位に並んだお店がチョイスされる可能性は高いと言えます。インターネットでも同じことです。ネットの検索エンジンに「新宿駅」「おいしい」「焼肉店」と打ち込んでヒットしたお店が、必ずしも検索者が求めている焼肉店と完全に合致しているかというと、わかりません。しかし選ばれる可能性は高いのです。
だからこそ多くの企業がネットのSEO対策を重視します。これと同じことで、人間の脳を使ってキーワード検索したときに、何が引っ掛かるのか? この「脳内SEO対策」はとても重要な概念です。
別の例を挙げましょう。知人Bさんが「結婚を機会に、保険を見直したい」と言ってきたとします。そのとき、
A:「保険を見直すんだったら、いい人知ってるわよ」
と、Aさんが提案してきたとします。「保険」「見直し」というキーワードを聞いて、すぐにAさんの脳内で、ある保険営業の顔や名前がヒットしたのです。
A:「キチンとした保険営業に相談したほうがいいよ。保険営業といってもピンからキリまでいるからさ」
B:「へえ。そうなんだ」
A:「ちなみに上手な保険選びって、知ってる?」
B:「え? 知らないけど」
A:「ポイントは3つあってね……」
……このように、Aさんは「保険」「見直し」というキーワードを聞いて、紹介したい保険営業の顔や名前がヒットしただけでなく、「保険選びの3つのポイント」までヒットしたようです。ここまで助言されたら、BさんはAさんの言うことを信頼するに違いありません。
A:「その営業さんだったら、結婚を機会にどのように今後のライフプランを考えたらいいか、いろいろと教えてくれるよ」
B:「保険って何を選んでも同じだと思ってた。ありがとう。ぜひ、その保険営業の人に会ってみたい」
ここで重要なポイントは、検索で引っ掛かった保険営業のデータがAさんの脳のどこの部分に保管されていたか、です。これは「脳内SEO対策」で最も大切なことです。答えは「ワーキングメモリ」です。
人間の脳が処理するデータの格納場所は3種類あります。「短期記憶」「長期記憶」「外部記憶」の3つです。「短期記憶」が、先述した「ワーキングメモリ」のことです。情報を処理するために常に格納しておく作業記憶装置。いつも脳が処理するデータは、一番アクセススピードの速い「ワーキングメモリ」にデータが入っています。
「長期記憶」は、長い歳月をかけて蓄積してきた知識の脳の図書館のようなものです。脳の「長期記憶」にデータが格納されていると、ええーっと……と能動的に思い出そうとしなければ、データを抽出できません。
「外部記憶」とは、人間の脳の外にある記憶装置。資料やシステムのデータベース上に存在します。何らかのヒントを言われても思い出せないため、「外部記憶」にある限り「口コミ」で広がりようがありません。思い出そうとしても、パンフレットやメモを見ない限り、情報を抽出することができないからです。
つまり、人間の脳の「ワーキングメモリ」に商品知識やお店、販売員に関するデータが常駐していると、誰かが発言したちょっとしたキーワードですぐに反応するのです。脳が常に処理している「ワーキング状態」になっているからです。
C:「なんか面白い映画でもないかなァ」
D:「あ! だったら、凄くいい映画あるわよ。紹介しようか?」
とか、
E:「今度、会社でイベントを開催するんだけど、なかなか集客がうまくいかない」
F:「それなら、私が知っているネット広告の会社を紹介しましょうか。わが社も使いましたが、とても効果がありましたよ」
などと、アドバイスを求められてもいないのに提案してきます。前述したとおり、そのデータが「ワーキング状態」だからです。もし脳の長期記憶に入っているのであれば「休眠状態」ですので、検索するためのキーワードを与えられない限り、脳が処理しようとしません。また、脳の「短期記憶」にも「長期記憶」にもなく「外部記憶」にあるのであれば、基本的に「口コミ」や「紹介」による拡散を見込むことはできないでしょう。
脳の「ワーキングメモリ」に常駐させるために、企業側は以下3つの特徴を考慮してキャッチコピーやメッセージを発信すべきです。
1.インパクト
2.回数
3.シンプル
「口コミ」や「紹介」で広めたい商品やお店のセールスポイントや特徴が、インパクトの強いものであれば、多くの人の心に残ることでしょう。もしインパクトが弱ければ、テレビCMのように何度も何度も繰り返し接触させることで人々の「ワーキングメモリ」に刷り込むことができます。「口コミ」で誰かに伝えられるように、覚えやすいシンプルなキャッチコピーだと、なお良いのです。
多くの企業は「インパクト」を求めがちです。他社との「差別化」された商品を開発・販売することで「口コミ」「紹介」で自然と市場に広がるだろうと思い込みます。しかし実際には「差別化」された商品やお店を開発することは困難ですし、お客様もよほどのインパクトがない限り、既存のものと比較して「差別化」されているとは認識しません。最も重要なことは、シンプルなメッセージを繰り返し伝えることです。この愚直な取り組みがお客様に信頼を与え、お客様の「ワーキングメモリ」に常駐されるようになるのです。