「頭が固い人」「説教くさい人」の話し方……やたらと「現実的に」を連発すべきではない
相手と「話を合わせる」ためには、話の中身のみならず「意識レベル」「教養レベル」など、いろいろなものに合わせていかないと正しいペーシングができません。私たち経営コンサルタントは、特に気を付けたいところです。
先日、あるお母さんが小学校低学年の娘さんと、こんな会話をしていました。
娘さん:「クリスマスのプレゼントはなんにもいらない」
お母さん:「なんにもいらないの?」
娘さん:「そう。でも、サンタさんに願いごとは言う」
お母さん:「どんな願いごと?」
娘さん:「フィギュアスケートの選手になりたい」
お母さん:「え? フィギュアスケートの選手になりたいの? この前まで、お花屋さんになりたいって言ってたじゃないの」
娘さん:「浅田真央ちゃんみたいになりたい」
お母さん:「浅田真央ちゃんって……。あんな風になるには、現実的に、もう遅いんじゃないの? あなたよりもっと小さな頃から毎日練習しないと」
娘さん:「じゃあ毎日練習する」
お母さん:「あのねェ。本格的にフィギュアスケートをやるんだったら、都会まで出なくちゃいけないし、お母さんだって仕事があるから、現実的に考えたら、毎日送り迎えなんてできないわ」
娘さん:「じゃあ、学校の先生でいい」
お母さん:「学校の先生って……。さっきまでフィギュアスケートの選手になりたいって言ってたのに、今度は学校の先生になりたいだなんて、どうして自分の将来をそんな風に軽く考えられるワケ? 私が小さいころなんて……」
娘さん:「……」
このお母さんは、超現実主義者なのか、リアリズムをこよなく愛しているのか、相手との話を超現実的に噛み合わせようとしています。「そうねェ。浅田真央ちゃんみたいになれたらいいねえ。サンタさん、願いを叶えてくれるかなァ」と言って娘さんと話を合わせてあげればよいのに、途中から「説教モード」に突入してしまいました。こうなると、相手は会話していても楽しくならないでしょう。
忘年会などの席で、説教くさい上司と話をしていると、同様に、このようなことはあります。
部下:「部長、私は来年、もっと頑張って働きますよ」
上司:「そうか。いい心構えだ。期待しているよ」
部下:「私の夢は、この会社を東証一部上場させることです! 頑張ります!」
上司:「東証一部上場?」
部下:「はい。まだ20名しかいない会社ですが、お客様からさらなる信用を勝ち取り、もっと規模を大きくして、東証一部上場を目指します!」
上司:「おいおいおい」
部下:「え……?」
上司:「東証一部上場って言うけど、現実的に、どうすれば上場できるか君は知っているのか?」
部下:「あ、いえ……」
上司:「君は気楽でいいなァ。業界の伸長率と、ここ数年の当社の業績の変動ギャップを考えたら、東証一部上場なんて夢のまた夢だ」
部下:「はァ……」
上司:「それに上場すればいいってもんじゃない。買収リスクにもさらされるし、不特定多数の株主の意見を聞く必要も出てくる」
部下:「……」
上司:「現実的に、管理コストもバカにならないんだから、適当なことを言わんでくれ」
部下:「申し訳ありません……」
上司:「夢を見るのはいいが、現実を直視することも大事だ。そうだろう?」
部下:「はい……。失礼しました」
忘年会の席なのですから、「そうか! わが社が東証一部上場か! 君ィ、大きく出たなァ。はっはっはっはっはっ。けっこう、けっこう。若いときは大きな夢を見たほうがいい!」等と、上司の度量で笑い飛ばせばいいシチュエーションです。
コミュニケーションは表面的に合わせておけばよい「表面コミュニケーション」と、論理的に噛み合わせ、話を前に進めなければならない「論理コミュニケーション」とに分けられます。歯車を噛み合わせるためには、普段から歯車に潤滑油を差すことを忘れてはなりません。「表面コミュニケーション」は、お互いの関係を正しく維持するためのものですから、「現実的に」などと言って、盛り上がりかけた話に水を差すのはよくありませんね。これから忘年会やクリスマスのシーズンが始まります。「説教モード」は控え、もう少し夢のある話ができるように、柔軟な姿勢も必要かと私は思います。