「焦っても仕方がない」と、焦って決断する人たち
「焦る必要はない」「焦っても仕方がない」「焦って決めるとロクなことがない」……といったフレーズがあります。何らかの意思決定をするとき、熟慮した結果、答えが見つからなかったときに、このフレーズが使われます。「焦っても仕方がない」と。
恋愛でも、結婚でも、就職でも、高額商品の購入に関しても、重大な決断であればあるほど、迷うのは当然です。特に結婚とか就職などは、その決断によって大きく人生が変わることがあります。頭を冷やし、冷静な判断が求められます。ビジネスの現場でもそうです。
会社を買収する。身売りする。廃業する。従業員のリストラをする。巨額の設備投資をする……こういった大きな決断をするときは、慎重にすべきです。判断材料を漏れなく取り揃えていても、なかなか決断できないときもあるでしょう。そんなときに「焦っても仕方がない」といって、決断を先送りするのも仕方がありません。
私は現場に入り、目標を絶対達成させるコンサルティングをしています。現場では、日々「意思決定」の連続です。数ある選択肢の中で、どのような決断をするのか、または決断しないという決断を下すのか(決定回避の法則)、さまざまなシチュエーションに出くわします。
私どもコンサルタントはその意思決定のお手伝いをします。判断材料をデータで示したり、フレームワークを活用しながら判断材料に抜けや漏れがないか、などを検証していきます。そういったシチュエーションの中で、先述したような重大な決断でもないのに、「焦っても仕方がない」と言って、決定回避をする人がいます。
「新規開拓の部隊に、100件の行動目標を設定したいと考えます。なぜ100件なのかというと、その論拠はこちらの資料に記載しました。部長、いかがでしょうか」
「うーん……。これまで20件しか行動していないのに、いきなり100件の行動をしろと言うと、新規開拓の部隊は驚かないか」
「確かにその通りですが、この資料にもあるとおり、このままだと目標が達成できません」
「うーん……。実はこれから別の会議にも呼ばれているんだ。時間がない。こういうことは焦って決めるとロクなことがないから、もう少し慎重に検討してくれ」
このシチュエーションで使う「焦っても仕方がない」は、単なる「逃げ」です。部長はストレスから逃げたいがために、「今日は決断しないという決断をする」と言っているのです。
しかし、現時点で意思決定しないと、問題解決が先送りしてしまう、新規開拓の成果を出すのが遅くなる、組織メンバーの士気が低下する……といった判断材料を加味することなく、「焦っても仕方がない」と、焦って決断しています。もちろん、このように、焦って「決定回避の決定」をするとロクなことがありません。
冷静に考えれば、現時点において先送りすべきではない事項は、いくらでもあります。ビジネスの現場だけではありません。奥様から「来月の法事の後、親族で食事にいくけど、どこへ行こうか。今日じゅうに決めたい」と言われて「今日じゅうに? 焦って決めるとロクなことがないから、じっくり考えればいいじゃないか」と反論する旦那様がいます。これも同じように単なる「逃げ」です。先送りの意思決定をしていいことなどありません。
焦らずに意思決定するためのコツは以下の1点のみ
● 1分間の「インタイム」をつくる。
【1分】という時間概念を持ちましょう。1分という時間を計測し、複数の判断材料を前に集中して意思決定を試みるのです。正しい時間感覚を持っている人なら、1分はかなり長い時間です。それなりに長い1分間に、自分自身が入り込むのです。(インタイムという概念)1分間集中すれば脳の基本回転数がアップし、それなりに深く考えられます。
1分間のインタイムを作っても意思決定ができなければ、「焦っても仕方がない」と考えましょう。いずれにしても、「焦っても仕方がない」と焦って決めることだけは、やめたほうがよいですね。