人を動かす「壁」とは?
なかなか動かない人がいる。言っても聞かない人がいる。たとえば上司が部下を動かそうとするシチュエーションのとき、部下にアレコレ言ってみるのだが、なかなか言うことを聞かない、こういう人っていますよね。
マネジャー:「新規の取引先を獲得するために、もっとお客様をまわりなさいと言っただろう」
部下:「そう言われても、難しいです」
マネジャー:「おいおい、ちょっと待てよ。先月はやりますと自分で言っただろう」
部下:「無理なものは無理です」
マネジャー:「何だよ、その言い方は……」
部下:「でも、そう言われても、無理なものは無理だと思います」
マネジャー:「もう信じられない。入社してまだ1年しか経ってないのに、無理なものは無理とか言うなよ。どういう神経してるんだ、お前は」
部下:「無理なものは無理です」
この会話を読んでわかるとおり、動揺しているのはマネジャーのほうです。部下は動揺していません。「動揺」というのは、ぐらぐら揺れたり、びくびくふらついたりすることです。上司が「びくびく」「ぐらぐら」と揺れまくっていたら、部下は安心して自分の言い分を押しとおしたくなります。押せばさらに上司がぐらつくとわかっているからです。
相手が納得すれば動かすことができると思い込み、やたらと理由を説明しようとする上司もいます。
マネジャー:「新規の取引先を獲得するために、もっとお客様をまわりなさいと言っただろう」
部下:「そう言われても、難しいです」
マネジャー:「今期の目標を達成させるためには、月間30社の新規訪問が必要だとあれだけ言ったじゃないか」
部下:「無理なものは無理です。やろうとしましたが、時間の確保ができませんでした」
マネジャー:「役割分担が正しくできていないんだ。そのためにアシスタントと業務分担を先月中にやっておけと言ったはずだ」
部下:「アシスタントに任せるより私がやったほうが早いので、無理です」
マネジャー:「そんなこと言っていたら、いつまで経っても目標が達成できないじゃないか」
部下:「それなら言わせていただきますが、設定された今期の目標が高いんじゃないですか? 問題はそこだと思いますが」
マネジャー:「何なんだ、その言い草は……」
上司が理由を示さないと部下が納得しないという構図は、一見正しそうですが、どう考えてもおかしいでしょう。いったん「やる」と言って合意した部下が、やっていないのですから、どんなに部下が抵抗しても「やらない理由」はただの言い訳です。その言い訳に付き合っている上司がすでに動じてしまっています。部下を動かす前に、部下に動かされてしまっています。
結局「芯」がなく、ちょっとしたことですぐに動じてしまう人は、人を動かすことができません。人を動かすためには、自分を動かさないことです。つまり何事も動じない。気持ちを揺らさない。ふらふら方針を変えない……こういったことが大事です。
要するに「壁」のような存在になる、ということです。どんなに押してみても、動じるところがない。まさに頑固。融通がきかない雰囲気を醸し出すことも重要です。
マネジャー:「新規の取引先を獲得するために、もっとお客様をまわりなさいと言ったはずだ」
部下:「そう言われても、難しいです」
マネジャー:「……」
部下:「……」
マネジャー:「今期の目標を達成させるために、月間30社の新規訪問が必要だ。先月は10社しか訪問できていない。今月は50社まわれ」
部下:「えっ。50社……? 30社でも難しいのに……。そもそも、いろいろとやることが多すぎて」
マネジャー:「……」
部下:「……」
マネジャー:「今月は50社まわれ。いいな」
部下:「あの、ちょっ、ちょっと待ってください」
マネジャー:「……」
部下:「……あの」
マネジャー:「何を?」
部下:「え」
マネジャー:「私は何を待つんだ?」
部下:「いや、その……」
マネジャー:「今月は50社まわれ」
部下が弁明しようとしても、上司が言うことを聞きません。部下が言うことを聞かないのではなく、上司が言うことを聞かないのです。この場合の上司が耳を傾けない事柄は、部下の「言い訳」です。日ごろから部下の話には耳を傾けましょう。正しい関係構築が必要です。しかし、部下の不誠実な言い訳まで傾聴してぐらぐらふらついていたら、部下はさらに言い訳をしたくなります。
ですから「壁」になるのです。どんなに押されても動かない「壁」のイメージです。正しいことを部下に提案、アドバイスしているのであれば、ぶれてはいけません。動じないからこそ、相手を動かすことができるのです。