なぜ店員は「いらっしゃいませェ~~ェエエ」と語尾を上げるのか?
よく商店街(特にデパートや地下街)へ買い物に出かけると、店員さんが、
「いらっしゃいませェ~~~~ェェエエェェ」
と、語尾を伸ばしながら、後半にトーンを上げるような感じで声を出しているのを耳にします。文字で表現するのが難しいですが、何となくイメージできる人も多いと思います。声のトーンはかなり高め。特に後半になればなるほど、「~ェェエェ」と声が高くなっていきます。おそらく普段の声色ではなく、接客のためにかなりトレーニングを積んでいるだろうことがわかります。
アパレル関係の女性店員が、店の中をゆっくり歩きながら、
「いらっしゃいませェ~~ェェエエェェェェ~~」
「いらっしゃいませィェ~~~~ェェエエェェェ……」
と声を出し続ける姿は特に目を引きますね。特徴は、「いらっしゃいま」を言ったあとの「せ」のトーンかと思います。「いらっしゃいま」までは普通なのですが、その後、
「せィィェェェエエ~~~……」
尻上がりに語尾が上がっていくのです。それなりに訓練を積んでいる人であれば、鮮やかな美声を聴かせてくれます。(感じ方は人それぞれと思いますが)
さて、語尾を上げるのは、文字通り「売上を上げる」意味合いもあると聞いたことがあります。「いらっしゃいませぇ~↓」と語尾を下げるより、「いらっしゃいませぇ~っ↑」と上げたほうが、元気があり、明るいイメージをお客様に与えることでしょう。
しかし、何と言っても「語尾伸ばし」「語尾上げ」の目的は、雑踏や喧噪の中でも声を通すことです。「脳の焦点化の原則」を使って解説します。人間はあるものに焦点を合わせると、その他の事柄に焦点を合わせることができません。2つ同時に意識を向けることはできない、ということです。仕事を終え、帰宅しようと駅に向かっているOLは、視界の中にお店の看板やネオンが入ってこようとも、意識せずに通り過ぎていきます。ましてや誰かとお喋りしながら歩いていると、周囲に意識を向けることは難しいのです。
また、いろいろなお店が立ち並んでいる場所であれば、周囲の騒音や雑踏のノイズに、店員の声はかき消されてしまいます。そこで、あえて普段とは異なる声色やイントネーションを使って店員さんたちは、近くにいる人の意識をこちらに向けようと努力します。パチンコ屋や魚市場の店員の声もよく聞いていると、かなり違和感を覚える声色やイントネーションを使っています。駅員さんもそうですね。
このような店員さんの声を耳にして、耳触りだ、不快だ、と感じる人もいるようです。しかし、あえて「気になる」「引っかかる」声の出したかをしているのです。「語尾伸ばし」や「語尾上げ」は、別の事象にフォーカスしている人の意識を、こちら側に向けるための知恵なのです。
ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)、トヨタ・レクサス……等、お客様がその場所へ意識を持って向かおうとするブランド力のあるお店、場所なら、このような声出しは必要ないでしょう。お店の空気に合わない声出しをすると、かえってブランド値を下げてしまうこともありますから。
違和感のある声出しをする店員がいるのは、必ず、往来の激しいところや、お客様でごった返しているような市場やデパートの催事場です。店員さんによって、いろいろな声の出し方がありますので、観察してみてはいかがでしょうか。
【参考図書】