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「空気」でお客様を買う気にさせるテクニック

横山信弘経営コラムニスト

私は現場に入り込んで、企業の目標を絶対達成させるコンサルタントです。主に営業パーソンの行動を変え、結果を出させることがメインの仕事です。現場でコンサルティングをしていると、さまざまな「売れない営業」がいます。店舗には「売れない販売員」がいます。まったく同じ商品を扱い、同じようなお客様に営業行為をしても、売れる人と売れない人がいるのです。

売れない人ほど、売れない理由を「自分ではない何か他の要因」に求めたがるのですが、まず、そんなことはありません。他のスタッフが売れているのに、その人だけ売れていないとしたら、本人に問題があるのです。客観的に見ていればすぐにわかります。相手のニーズを正しく捉えずに提案しているとか、営業トークがイマイチだとか、そんなわかりやすいことが原因ではありません。売れない人は「売れない空気」を身にまとっているのです。

おそらく、感度の高い人は理解できることでしょう。お店へ行き、「売れそうな店員」と「売れなさそうな店員」との区別が。売れない人は、相手に譲歩しようとします。必要以上に歩み寄るし、ヒドイ場合は媚びるのです。お客様を大切にすることは当然ですが、意味もなくへりくだる必要はありません。

それでは「売れない営業・販売員」の特徴を列挙しましょう。

● 自信なさそうな表情・態度

● 不必要な「過小評価」「譲歩」発言

● スキル不足の質問

まず、最初の「自信なさそうな表情・態度」は誰にでもわかることだと思います。しかし表情や態度といったものは、習慣化しているものですから、意識して修正していかないと変わりません。また、第一印象が悪い人は、「第三印象」をよくしよう!に書いたとおり、第一印象が悪くても「第三印象」で挽回できます。「表情」「態度」は変えづらくとも、その他の行動をメンテナンスしていくことはできます。

不必要な「過小評価」をする人がいます。「私は自信がありません」「私は売れない販売スタッフです」とお客様に伝えているようなものです。

「他社製品と比べると劣っていることはわかってるんですが……」

「性能の割に高いとは言われてるんです。まァ、私もそう思っているんですけれど、私にはどうしようもないことで」

などとわざわざ卑下してみたり、

「100万円ですが、赤字覚悟で80万円まで下げます」

「無料でオプションをつけることが多いですから、お客様もおつけしましょうか?」

などと、相手から要求されてもいないのに「譲歩」する営業がいます。業界の慣例となっているならともかく、他のお客様にもやっているかといって、要求もされていないうちから不必要な値引きをしたり、特典を付与するのはやめましょう。こうすることで、ますます売れなくなることを、本人は知らないのだと思います。

「譲歩の返報性」という言葉があります。「譲歩の返報性」とは、返報性の原理のひとつ。相手に譲歩することで、相手もこちら側に譲ってくれる可能性が高まる心理効果を指しています。つまり相手の譲歩を引き出すために実施しなければならないのです。にもかかわらず、こちらが一方的に「値引き」をしたり「特典」を付けたりすると、「そうでもしないと売れないのだろう」と相手に思い込ませるだけです。一方的な譲歩は「売れない空気」を醸し出すだけ。利幅が落ちるどころか、かえって売れなくなる可能性もあります。

さらに、「答え」を持っていないお客様にヘタな質問を繰り返す営業がいます。

「どういった旅行をお探しですか? 場所はどちらがいいですか? どんな食事がいいですか? どんなオプションを付けますか?」

営業は効果的な質問テクニックを使って相手の潜在的なニーズを顕在化させ、相手の言葉を持って頭の整理を促す必要があります。しかしこの質問スキルは、相当なトレーニングをしないと手に入りません。ヒドイ場合は「尋問」のようになり、お客様は嫌がります。「答え」のないお客様は、「どういうものがいいんでしょうね」と尋ねてくるかもしれません。営業にも「アイデア」がないと、「それはお客様次第ですね」「お客様が何を望むかによって変わってくると思います」と突き放してしまい、お客様の買う気は急減します。「空気」で人を動かすに書いたように、上司が部下に質問だけしておいて、「私はどうしたらいいでしょうか」と質問しても「それは君次第じゃないかな」「結局は君がどうしたいかだよね」と言って突き放すのと同じです。これでは相手を「その気」にさせることはできません。

次に「売れる営業・販売員」の特徴を列挙しましょう。

● 自信のある表情・態度

●「売れている空気」を利用したティーチング

● 効果的な相対比較

まず、「自信のある表情・態度」に関して異論はないと思います。売れる営業は、実績を着けることによって自信が芽生えていきます。ですから売れる営業は、さらに売れていきます。ただ、売れていないにも関わらず、やたらと自信のある人もいます。トークが下手でも、相手の話を聞かなくても、自信のある態度や表情といった「非言語データ」が相手に強いインパクトを与えるからです。

続いて、重要なことは「ティーチング」です。お客様と営業・販売員と比べて、どちらがその商材のプロフェッショナルなのでしょうか。当然のことながらお客様ではなく、商材を取り扱う側のほうです。ですから「答え」を持っていないお客様に対して質問ばかりしていないで「教える」という態度が重要です。

「ご予算がお一人10万円で、オーストラリアの旅行ですね。もし特段にこだわりがないのでしたら、私がぜひお勧めしたい現地ツアーがありますのでご紹介してもよろしいでしょうか?」

「担担麺の後にマンゴープリンはいかがでしょうか。担担麺を食べた後にマンゴープリンを食べますと、担担麺の美味しさが際立つからです。なぜかと言いますと、当店だけで扱っているマンゴープリンには、このような工夫がございまして……」

などと「教える」ことによって、お客様は「さすがプロだな」と思うことでしょう。さらに、「オーストラリアへ渡航されたお客様の72%の方がこのツアーに参加されますね」「なぜかと言いますと、最近の統計では、環境に配慮したツアーへの関心がとても高まっています。このデータを見ていただけますでしょうか。オーストラリアのみならず。他の観光地でもこのような傾向にあり……」などと言い、「世間の空気」を利用します。これは「社会証明の原理」という心理効果を使ったコミュニケーション技術です。より多くの支持を得るものに人は感化されるのです。この集団心理を効果的に利用するのです。

お客様のニーズがきわめて明確であり、よけいな提案はいっさい必要ないというなら逆効果でしょう。しかし、それならどんな営業でも販売員でも、売れるときは売れるし、売れないときは売れないのです。「答え」が曖昧なお客様にどう対応するかが、営業の腕の見せ所です。

最後に、「効果的な相対比較」について言及します。お客様はより多く得することを望んでいます。「値引き」や「特典」があることで購買欲が高まるのはそのせいです。しかし勘違いしてはいけません。絶対的な「利得」を手にしたいということではなく、相対的な「利得」があればいいのです。つまり「得する」のではなく「得した気分になる」ということが重要なのです。

「1000円」のものが「900円」になったり、「200円分」のプレゼントが付与されたら「得した気分」になるでしょう。最初に提示された価値と比較して得していると思えばよいのです。それならば別のものと比較してもよいのです。このときのポイントは、相手から「ちょっと高いな」などと感想を言われる前に先回りして「布石」を打つことです。

「今回のオーストラリア旅行、すべてオプションも利用するとお一人、21万円になりますね……。うーん、これはすごくお値打ちだと思います。先ほどのお話ですと、10年ぶりに同窓生の方々と行く海外旅行ですもの。今後の10年は思い出に残るような素敵な旅行がこのお値段でできるなんて、なかなかないと思います。私、先日軽自動車を買ったんですけど、今の軽自動車ってとても高いでしょう? いろいろと付属品をつけると200万円近くになってしまって……。こんなにお金がかかるとわかっていたら、新車にせず中古車にして、私も海外旅行へ行けばよかったと後悔しているんです」

このように、商材の比較対象を別のものへと振り向けます。そうすることで、「なるほど、そう考えるとリーズナブルかも」とお客様も思えてくるかもしれません。どうせ購入するなら誰でも「得した気分」を味わいたいもの。お客様にそう思い込んでいただく情報提供も営業の仕事です。人は意思決定をするときに、何らかの理由を求めたがるもの。その理由をどのように提供するかは、営業・販売員のアイデア次第ですね。

「言語データ」「非言語データ」、どちらもお客様は正確に認知していないもの。人は人によって感化されるものですから、何となくの「売れる空気」に影響を受けるものです。

※参考図書:「空気」で人を動かす

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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