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家系だけが豚骨醤油ではない! 福岡だから生まれた唯一無二のラーメンとは?

山路力也フードジャーナリスト
家系ラーメンだけが豚骨醤油ではない。

「豚骨しかない街で勝負がしたかった」

豚骨ラーメン一辺倒だった福岡に、2012年創業した『無邪氣 本店』。
豚骨ラーメン一辺倒だった福岡に、2012年創業した『無邪氣 本店』。

 福岡市城南区七隈。学生たちが多く暮らすこの街で、常に行列を作り続ける人気ラーメン店が『無邪氣』(本店:福岡県福岡市城南区七隈4-8-17)である。今から10年前の2012年に創業し、現在は市内に4店舗を展開している。

 看板に掲げられた「濃厚豚骨醤油ラーメン」の言葉通り、そのラーメンは濃厚な豚骨醤油スープに太麺で、白濁豚骨スープに細麺という一般的な博多ラーメンとは全く異なるラーメンで、創業時の福岡では珍しい存在のラーメンだった。

 博多ラーメンで知られる福岡は、言わずと知れた豚骨ラーメンの街だ。今でこそ「脱豚骨」のブームで、様々なスタイルのラーメンが楽しめるようになったが、10年前の福岡では、豚骨以外のラーメンはほとんど見向きもされなかった。

 「自分の好きなラーメンがどこまで通用するのか。自分でラーメン店をやるのなら、豚骨ラーメンしかない福岡の街で勝負がしたかったんです」(無邪氣 店主 新島康樹さん)

格闘家からラーメン屋への転身

創業してから10年で福岡市内に4店舗を構えるまで成長した。
創業してから10年で福岡市内に4店舗を構えるまで成長した。

 店主の新島康樹さんは山口県出身。10代の時に格闘技に魅せられ、格闘家を目指して上京した。その時にジムの近くで食べた一杯のラーメンに衝撃を受けた。その店は横浜家系ラーメンの人気店『武蔵家』(東京 新中野)。新島さんは家系ラーメンのとりことなった。

 「山口ではラーメンに興味が無かったのですが、東京でラーメンの美味しさを知りました。中でも特に家系ラーメン、豚骨醤油ラーメンの魅力に惹かれました」(新島さん)

 格闘家の夢からラーメン屋の夢へ。新島さんは自分が惚れ込んだ『武蔵家』の門を叩いた。そして4年にわたりラーメン修業を重ねて、独立することとなった。しかし店を開いた場所は東京でも地元の山口でもなく、縁もゆかりもない福岡だった。

 福岡は博多ラーメンが圧倒的な支持を集めている場所だが、自らが好きな濃厚でパンチのある豚骨醤油ラーメンも負けていないと思った。さらに多彩なラーメンがひしめき合う東京よりも、豚骨醤油ラーメンを出している店がほとんどない福岡の方がビジネス的にもチャンスがあると新島さんは考えたのだ。

 しかし博多ラーメンと家系ラーメンでは、見た目も味もまったく異なる。白い豚骨スープに極細麺という博多ラーメンに対して、家系ラーメンは茶褐色の豚骨醤油スープに太麺だ。

 「福岡の人たちは豚骨ラーメンがソウルフードですから、最初はなかなか受け入れて貰えませんでした。特に細麺文化の中で太麺の美味しさを認めて頂けるまでには随分と時間がかかりました」(新島さん)

福岡の人の味覚に合わせたオリジナル豚骨醤油

『無邪氣』のラーメンは家系ラーメンとは違う。
『無邪氣』のラーメンは家系ラーメンとは違う。

 新島さんのラーメンは修業先の家系ラーメンを基本にしてはいるが、福岡の人の舌に合うようにローカライズしている。味の決め手となる醤油は、地元福岡の老舗醤油蔵のものを使い、関東とは異なる甘さを上手に生かした。さらに麺も福岡の老舗製麺所と共同開発したものを使用。見た目こそ家系ラーメンのように見えるが、福岡ならではのオリジナル豚骨醤油ラーメンになっているのだ。

 「最近ようやく福岡でも家系ラーメンの店が出来てきましたが、無邪氣のラーメンは家系ラーメンではありません。家系で教わったことをベースにして自分の好きな味を追求して辿り着いた、オリジナルの豚骨醤油ラーメンなんです」(新島さん)

 家系ラーメンがほとんどなかった福岡で、どうしたら受け入れられるか。福岡の豚骨ラーメンの先駆として苦労すること10年。しっかりと福岡の人たちに愛されて、今では4店舗を構える人気ラーメン店にまで成長した。

 「創業当初からの夢であった東京に『無邪氣』を出して、福岡で出しているのと同じ味で東京のラーメンと勝負してみたいですね。そしていつかは地元の山口にもお店を出したいです」(新島さん)

※写真は筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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