福岡は「非豚骨」ラーメンが増殖中

2019年、南福岡にオープンした『らーめん陽八』。
2019年、南福岡にオープンした『らーめん陽八』。

 豚骨ラーメン一辺倒だった福岡の街に「非豚骨」「脱豚骨」のトレンドが興って久しい。醤油ラーメンや辛い麺、つけ麺など、従来の豚骨ラーメンとは違ったスタイルのラーメンが注目を集めている。そんな福岡で、新たに豚骨ラーメンを作るのは、逆に勇気が要ることであり、ある意味で流行への挑戦でもある。

 福岡市と春日市の境に近い南福岡。街の喧騒からは離れた、静かな住宅街の一角にある『らーめん 陽八』(福岡県福岡市博多区寿町3-2-1)は、2019年にオープンしたばかりのラーメン店。2019年の福岡では、すでに「非豚骨」のトレンドが始まっていたが、この店は昔ながらの豚骨ラーメンを提供している。

大の料理好きがラーメンの世界へ

メニューは至ってシンプル。チャーシュー麺すら置かれていない。
メニューは至ってシンプル。チャーシュー麺すら置かれていない。

 店主の伊藤陽一さんは、子供の時から大の料理好き。幼稚園の頃には卵焼きなどを自分で作り、小学生になるとうどんを打ち始めた。さらに調理クラブに所属して、料理マンガや料理雑誌のレシピなどを再現するなど、将来は自分で飲食店をやりたいという夢を持っていた。

 大学時代に『太宰府 八ちゃんラーメン』のアルバイトとしてラーメンに触れた伊藤さん。アルバイトに励む中で、いつしかラーメンが自分の生活の一部となり、飲食店をやりたいという夢とラーメンが繋がった。

 その後、社会経験を積むためにメーカーに就職し、6年間のサラリーマン生活を経て、『太宰府 八ちゃんラーメン』の流れを汲む久留米の『らーめん八』で本格的にラーメン修業に入り、4年間の修業を経て子供の頃からの夢であった自分の店をオープンさせた。店名は自分の名前と修行先から一文字ずつ入れて『陽八』とした。

「ラーメンは人々の生活の一部」

『らーめん 陽八』の「らーめん」は、古き良き福岡のラーメンを彷彿とさせる。
『らーめん 陽八』の「らーめん」は、古き良き福岡のラーメンを彷彿とさせる。

 メニューはシンプルにラーメンと餃子、そして焼飯、ご飯のみ。チャーシュー麺すら置かれていないのは、一人で全ての仕込みをしていることと、安く気軽に食べて欲しいという思いから。店も決して大きな店ではない。

 「ラーメンは人々の生活の一部になっている食べ物だと思うんです。お腹が空いていたり疲れていたり、無表情で入って来られたお客さんが、ラーメンを食べた瞬間に表情が変わり、笑顔で帰っていかれるのを見るのが嬉しくて。だから自分の店を作る時には、厨房からお客さんの顔が見える規模感の店にしようと。誰が作っているか、誰が食べているかが分からないのが嫌なんです」(らーめん 陽八 店主 伊藤陽一さん)

 ノスタルジックな豚骨ラーメンをブラッシュアップさせた一杯は、豚のゲンコツだけをじっくりと炊き上げて骨の旨味を抽出したスープに、甘みのある背脂を足すことでシンプルながらも奥深い味わいに仕上げた。伊藤さんが大好きな修業先の味を目指しつつ、日々改良を重ねて進化し続けている。

 「非豚骨」のトレンドの中で、敢えて豚骨ラーメン店をオープンさせた伊藤さん。福岡の人たちが慣れ親しんだ、生活の一部になっている豚骨ラーメン。自分が大好きな修業先の味を、自分の好きなラーメンをお客さんに食べてもらいたい。だから伊藤さんが作るのは豚骨ラーメンなのだ。

 「福岡には色々な豚骨ラーメンがありますが、僕は師匠の作る味が一番好きなんです。なので、世の中の流行にとらわれることはありませんが、味付けについてはその時代や年齢に合ったものがあるので、今の味が完成形とは思っていません。毎日試行錯誤を繰り返しながら、時代に合わせていかねばならないと思っています」(伊藤さん)

時代の流行り廃りに左右されないラーメン

「やきめし」と「ぎょうざ」も欠かせない名脇役。
「やきめし」と「ぎょうざ」も欠かせない名脇役。

 いつからだろう、ラーメンが「流行」に敏感になったのは。まるでファッションの世界のように、ラーメンの世界でも毎年のようにトレンドが移り変わる。世の中のトレンドを反映させたラーメンたちは、数年後には時代遅れになって見向きもされなくなり、いつしか淘汰されていく。

 「非豚骨」のトレンドによって、インパクトのあるビジュアルや濃厚な味のラーメンがもてはやされる中、伊藤さんが作るラーメンは見た目も派手ではないし、味わいも優しい。老若男女が好み、いつの時代にも愛されるであろうラーメンは、時代の流行り廃りには左右されない。これから十年先や二十年先に、今流行のラーメンが消えていたとしても、このラーメンは同じ味で存在しているだろう。

 「地元のお客さんが本当に良い方たちばかりで、ずっとこの街に根付いた店で在り続けたいと思っています。地元の方たちの日常の中で、食べてから二、三日後にまた食べたくなるようなラーメンをこれからも作っていきたいと思っています」(伊藤さん)

※写真は筆者によるものです。

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