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飲食店が悪いのか? 感染拡大を防ぐ「正しい飲食店の使い方」とは

山路力也フードジャーナリスト
「新しい生活様式」が形骸化してはいないか(写真:アフロ)

一年以上続いているコロナとの戦い

 新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、1月から続いている緊急事態宣言。ようやく東京、神奈川、千葉、埼玉の4都県も解除の見通しが立ってきた。2ヶ月半もの長きにわたる緊急事態宣言はいったん終わることとなる。

 緊急事態宣言が解除されたからといって、新型コロナウイルスとの戦いが終わったわけではない。2020年1月から徐々に世界中に拡大していった新型コロナウイルス感染症。気がつけばもう1年以上も人類と新型コロナウイルスの戦いは続いている。日本で感染者が急速に拡大して初の緊急事態宣言が発出されたのが2020年4月のこと。当時を振り返ってみると「身体的距離の確保」「3密(密集、密接、密閉)の回避」「新しい生活様式」という今までにない概念が一気に私たちの生活に入り込んできた。

 今月14日に放送されたテレビ番組で、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会会長の尾身茂さんは、新型コロナ感染拡大を防ぐため「これだけは守ってほしい」という点について、「三密、特にリスクの高い5つの場面(を避ける)。これで終わりです」と説明した。5つの場面とは「飲酒を伴う懇親会、大人数や長時間に及ぶ飲食、マスクなしでの会話、狭い空間での共同生活、居場所の切り替わり」のこと。つまり、一年前に提言されたことと根本は何一つ変わっていないということだ。

良くも悪くも「コロナ慣れ」してしまった私たち

 しかし、私たちは良くも悪くも「コロナ慣れ」してはいないだろうか。一年前と比べて日常生活の過ごし方が変化してはいないだろうか。上述したような新しい生活様式に慣れて習慣化しているのであれば問題ないが、危機感に乏しくなってコロナ以前の生活様式に戻っているところはないだろうか。仕事柄、日々飲食店に足を運ぶ生活を今も続けているが、平気で向かい合わせで大声を出しながら喋っていたり、お酒の回し飲みや料理の回し食いをし、まるでコロナが収束したかのような振る舞いをしている人も少なくない。昨年春と今を比べると明らかに今の方が緊張感に欠けた客が多いと感じている。

 その一方で、飲食店のコロナ対策は日々アップデートされている。テーブルや椅子を減らす、従業員も客もマスク着用を必須にする、ビニールシートやアクリル板で人と人の間に仕切りを作る、入退店時にアルコール消毒を義務付ける、ドアや窓などを開放して換気を良くしたりテラス席を設置するなどの対応は、飲食店にとっては完全に「当たり前」となった。さらに身体的接触を防ぐ意味合いでのキャッシュレスの導入なども加速度的に増えている。もちろん飲食店に対しては上記のような対策をする場合に補助金が出ているという理由もあるが、飲食店側はコロナ感染拡大防止に全力を尽くしているといって良いだろう。

 飲食店側のコロナ対策はこの一年で劇的に変わった。私たち客側がどう店の中で振る舞うかが問われている。飲食店と同じく感染拡大防止への高い意識を持って「うつらない、うつさない」という行動が必要だ。店と客で感染拡大を防ぐ協力体制を構築しなければならない。そのためにも今一度「安全な飲食店の使い方」を確認しておきたい。

飲食店の対応に任せず「自衛」の意識を持つ

「当たり前の徹底」が重要だ
「当たり前の徹底」が重要だ写真:アフロ

 今回の新型コロナウイルスによって、私たちは感染症の拡大防止への知見をいくつか得た。その中でも特に重要なものとして「身体的距離の確保」「3密の回避」があり、これらは新型コロナウイルス感染症専門家会議の提言から生まれた『新しい生活様式』にも取り入れられているほか、多くの人たちが意識している行動になりつつある。まずはこの行動原則を今一度徹底しておきたい(参考記事:新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」を公表しました/厚生労働省)。

 飲食店利用にかかわらず「他人との距離を確保する」「他人が触れたものへの接触を避ける」という2点が感染予防対策として最も重要となる。「手指の消毒」「こまめな手洗い」「手を目や口にやらない」ということを習慣化する。これらの行動指針でほとんどの感染リスクは抑えられることは知っておきたい。その上で、飲食店側が行っている対策にただ任せるのではなく、私たちも自分の身は自分で守るという「自衛」のスタンスで、飲食店を利用する時の注意点を挙げておきたい。

 一般的に気をつけるべきウィルスの感染経路は主に4つ。「接触感染(粘膜感染)」「飛沫感染」「空気感染(飛沫核感染)」「媒介物感染」である。もちろん店舗や業態によって差はあるが、一般的に飲食店は吸排気や換気に関してかなり神経を払った設計になっていることが多く、密閉空間にはなっていない店も少なくない。ラーメン店や蕎麦屋など、人数が少なく短時間で喫食が済む店の場合は飛沫感染や空気感染のリスクは低いと考えて良いだろう。また現実問題として媒介物感染のリスクも新型コロナウイルスに関しては決して高くはない。一番注意すべきは「接触感染」のリスクだ。

こまめな手洗いと消毒で「接触感染」リスクを減らす

 「接触感染」の防止策としては接触を避けることが大前提で、接触したらすぐに手洗いや消毒をすることが基本だ。今回の新型コロナウィルスの感染ルートは眼や鼻、口などの粘膜からであり、健常な皮膚からの感染はないと考えられている。つまり手にウィルスがついたとしても、その手を眼鼻口に触れさせなければ良いということだ。

 手指や物に付着したウィルスは4時間から72時間程度のあいだ感染力があると考えられている。不用意に手を首から上に触れさせないのは基本中の基本だ。その上で、入店時に消毒用のアルコールを設置したり消毒を義務付けていたり、こまめに卓上や券売機などのアルコール除菌を行っている飲食店はリスクが低いと考えて良いだろう。さらにスタッフや客の入店時における検温も実施している店であればより安心だ。

大声で喋らず少人数で「飛沫感染」リスクを避ける

 「飛沫感染」の防止策としては、理想はしっかりと席間が確保されている店を利用することだが、現実問題としてそういう店ばかりがあるわけではない。安全なソーシャルディスタンス(2m以上)が確保出来ない場合は、やはりマスクを着用する必要があるだろう。スタッフにマスク着用を義務付けていたり、客に対してのマスク着用を促している飲食店はリスクが低いと考えて良いだろう。店内であっても喫食時以外は原則としてマスクを着用していればより万全だ。

 ラーメン店などカウンターに横並びで喫食する場合はそこまでリスクは高くないが、注意すべきは向かい合わせで座るテーブル席などの場合だ。真正面に他人が座るような状態は間仕切りがない限りは極力避けた方が無難だろう。席を減らしたり飛ばしたりとソーシャルディスタンスを確保している飲食店はリスクが低いと考えて良いが、席間の確保がされていても行列時や会計時に密集することがあるので注意が必要だ。

 あとはやはり食べている時よりも会話をしている時に感染リスクは高まる。家族や友人で出かけた場合にはおしゃべりを一切せず、黙々とただ食事をするだけというのは現実的ではないが、不必要に大きな声で喋ったり騒いだりするのは避けておきたい。また利用する人数も大所帯は避けて、必要最低限の人数で利用したいところだ。

「正しい飲食店の利用法」は実にシンプル

店側だけではなく客側の意識、行動の変化が問われている
店側だけではなく客側の意識、行動の変化が問われている写真:アフロ

 上記を踏まえて「新しい生活様式」を加味した飲食店の利用法をまとめてみるが、結局のところ一年前から言われていることを遵守することが重要という事になる。くどいようだが、飲食店の対策はアップデートされている。変わらなければならないのは私たち客側の行動なのだ。

・体調不良、高熱の場合は外出しない。

・マスクを着用して入退店時には手指のアルコール消毒をする。

・喫食中も何かを触ったらこまめに手洗い、消毒をする。

・可能ならば安全なソーシャルディスタンス(2m以上)が確保出来ている店を選ぶ。

・大勢で行かずに少人数で利用する。

・行列時や会計時の密集に留意する。

・向かい合わせの席は極力避ける。

・おしゃべりは控えめにして、喫食時以外はマスクを着用する。

・料理やお酒の回し食い、回し呑み、大皿料理の取り分けはしない。

 悪いのは飲食店ではない。飲食店からすれば自分たちが防止策を徹底したとしても、感染拡大防止意識の低い客が入店することで水泡に帰すことを恐れている。飲食店側の対策と客側の利用法はセットでなければ感染拡大を防ぐことは出来ない。感染を拡げずに街に出て経済を回す。国民一人一人が感染拡大防止と経済活性化の両方を意識して、日々の生活をすることが求められている。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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