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新横浜ラーメン博物館が海外のラーメンを続々と「逆輸入」する理由とは?

山路力也フードジャーナリスト
日本初出店の「RYUS NOODLE BAR」(写真:新横浜ラーメン博物館)

2013年から始まった「逆輸入ラーメン」

新横浜ラーメン博物館に10月17日オープンした「RYUS NOODLE BAR」
新横浜ラーメン博物館に10月17日オープンした「RYUS NOODLE BAR」

 日本初のフードテーマパークとして、1994年にオープンした『新横浜ラーメン博物館』(横浜市港北区新横浜2-14-21)。「全国各地のラーメンを飛行機に乗らずに食べに行ける」をコンセプトに、昭和ノスタルジーを感じる作りの館内には全国各地の人気ラーメン店が9店舗集結。定期的に店舗を入れ替えて様々なラーメンを提供し続けることで、開業から24年経った今もラーメン好きや観光客が数多く訪れ続ける人気のスポットになっている。

 そんな新横浜ラーメン博物館に、10月17日から新たなラーメン店が登場している。『RYUS NOODLE BAR(リューズ ヌードル バー)』という聞き慣れない店の本店があるのはカナダ・トロント。新横浜ラーメン博物館では、2013年より海外で独自に誕生し地元で支持を得ているラーメン店を逆輸入する「逆輸入ラーメン」企画を展開。これまでアメリカ、ドイツ、イタリアなどの人気店を誘致してきたが、今回のRYUS NOODLE BARが逆輸入シリーズ第5弾の店舗となる。

第5弾はカナダ「RYUS NOODLE BAR」

カナダ・トロントにある「RYUS NOODLE BAR」本店(写真:新横浜ラーメン博物館)
カナダ・トロントにある「RYUS NOODLE BAR」本店(写真:新横浜ラーメン博物館)

 RYUS NOODLE BARは2013年、カナダで最も人口が多い都市トロントにオープンした人気ラーメン店。店主の高橋隆一郎さんは、日本の飲食店で6年間働いた後にカナダへ留学。バンクーバーの飲食店で経験を積んだ後に独立開業した人物。トロントはカナダの中でもバンクーバーと並んでラーメン店が多い街。豚骨ラーメン店が主流の中で、敢えて豚を使わずに鶏を使った鶏白湯(とりぱいたん)ラーメンやベジタブルラーメンを提供して人気を博している。

 現在トロントには60店舗ほどのラーメン店があると言われているが、その中でなぜ新横浜ラーメン博物館はRYUS NOODLE BARに白羽の矢を立てたのか。日本全国はもとより世界中のラーメン店を食べ歩いて出店のオファーをしている、新横浜ラーメン博物館の中野正博さんはその「オリジナリティ」がオファーの決め手になったと語る。

「カナダ人と日本人のどちらが食べても美味しいと思える味を目指した」と語る、店主の高橋隆一郎さん(写真:新横浜ラーメン博物館)
「カナダ人と日本人のどちらが食べても美味しいと思える味を目指した」と語る、店主の高橋隆一郎さん(写真:新横浜ラーメン博物館)

 「海外のラーメン事情を調査すべく、2011年頃から定期的に海外のラーメン店を食べ歩いていますが、RYUS NOODLE BARは2015年に初めて食べました。トロントではアメリカやバンクーバーで売れている豚骨ラーメンやスパイシー味噌ラーメンなどを提供する店が多いのですが、その中でトレンドに左右されることなく独自の考えで工夫されている点が決め手となりました。初めて食べた時にこれまで食べたラーメンの引き出しには無かった感覚があり、そのラーメンを通して店主の熱量が伝わってきました。何よりも店主が常にワクワクしていますし、お客様をラーメンで心を豊かにしたいという想いでやられていることもオファーする上で大きなポイントとなりました」(新横浜ラーメン博物館 プロジェクト課 中野正博さん)

 2015年9月にRYUS NOODLE BARと出会った中野さんは、翌2016年の4月に出店をオファー。トレンドに左右されないオリジナリティのある店を紹介したいという、新横浜ラーメン博物館の想いに共感してもらい日本初出店が実現した。海外店舗の場合は人員も含め準備期間がかかるため、初めてアプローチしてから出店まで2年半がかかったという。

斬新な「カナディアン鶏白湯」の味わい

「RYUS鶏白湯ラーメン」(写真:新横浜ラーメン博物館)
「RYUS鶏白湯ラーメン」(写真:新横浜ラーメン博物館)

 RYUS NOODLE BARのコンセプトは「本格的な日本のラーメン」と「カナダ人が好む味覚」の融合。「甘味は特にカナダ人に愛されている味覚です。しかし単純に砂糖などで甘さを出したのでは、カナディアンには受け入れられますが日本人が好む味ではありません。野菜を中心とした食材が持つ甘味を最大限に生かすことで、カナダ人、日本人のどちらが食べても美味しいと思える味わいを目指しました」(RYUS NOODLE BAR店主 高橋隆一郎さん)

 ラーメンは日本でもお馴染みの「鶏白湯ラーメン」。良質な鶏と野菜を長時間煮込み一晩熟成、翌日一気に強火で炊き上げて白濁したスープに仕上げたもの。鶏の旨味とともに野菜ポタージュの甘味、さらには凝縮した魚介出汁のコクが融合したスープは、日本の鶏白湯とは方向性や設計から異なるもので、まさに「カナディアン鶏白湯」という仕上がりになっている。看板メニューの「RYUS鶏白湯ラーメン」のほか、銀鱈の西京焼からヒントを得た「西京味噌薫る鶏白湯味噌ラーメン」も用意されている。

動物系不使用の「ベジ味噌ラーメン」の存在感

野菜を使った「カリフラワーポタージュのベジ味噌ラーメン」
野菜を使った「カリフラワーポタージュのベジ味噌ラーメン」

 鶏白湯のほかにもトロントでベジタリアンを中心に人気を集めているのが、野菜のみを使用した「カリフラワーポタージュのベジ味噌ラーメン」だ。ベースとなるスープはカリフラワー、ジャガイモを中心とした野菜をポタージュにして、和出汁と豆乳をブレンドして仕上げたもの。さらに酸味や旨味を持つローストトマトや、チコリに乗せられたスパイシーな椎茸などの具材がスープをより重厚で複雑な味わいへと昇華させ、動物系素材を使っていないとは思えない存在感のある味わいに仕上がっている。

 麺はミネラル豊富な全粒粉を使用したオリジナルの麺でベジタブルポタージュスープとの相性も良い。さらに味噌と相性の良いバターも、世界最大のメイプルシロップ生産国であるカナダにちなみ、カナダ産メイプルシロップを使った「自家製スモークメイプルバター」を新たに創作。食べ進めるうちに少しずつスープに香りとコク、甘味が加わっていき味の変化を楽しむことができる。

日本では生み出せないラーメンを紹介したい

2014年から出店中の「無垢ツヴァイテ」はドイツ・フランクフルトから誘致した
2014年から出店中の「無垢ツヴァイテ」はドイツ・フランクフルトから誘致した

 2013年の「IKEMEN HOLLYWOOD」(アメリカ・ハリウッド)を皮切りに、これまで数々の海外のラーメン店を「逆輸入」してきた新横浜ラーメン博物館。その背景には新横浜ラーメン博物館が開館以来貫き続けている「想い」がある。

「日本のラーメン店においては、オープンして1年以内に50%以上のお店が閉店しているという現状があります。さらに10年続くお店は20%、20年続くお店は3%と言われています。その中で長く続き今もなお繁盛しているお店には、トレンドに左右されない魅力があります。私たちには『新しいトレンドを作る』ことよりも『一杯のラーメンで感動する』お店を紹介したいと考えています」(中野さん)

 中国の麺料理が日本にわたり、先達の創意工夫や努力の積み重ねがあって、日本ならではの麺料理としてのラーメンが誕生した。今や国民食と認知されるほど、私たちの日本人には欠かせなくなったラーメンだが、黎明期や発展期に感じられたような革新的な進化が止まり、一過性のトレンドを追った同じような顔をしたラーメンが増えているのは紛れも無い事実だ。

「『海外のラーメンが日本のラーメンより美味しいわけがない』というお声も頂きますが、海外は日本と違ってラーメンを作る環境が整ってない中で知恵と工夫でラーメンを作っており、その結果として日本では生み出せないようなラーメンが誕生しています。それは日本におけるラーメンの黎明期も同じだったと思いますが、現在の日本では環境が整い過ぎており『情報を食べる時代』になってきています。トレンドに左右されるお店も多い、今の日本のラーメン業界に足りないものが海外にあるように感じています。私たちが『逆輸入ラーメン』を企画した理由は、そういう海外のラーメン店の味や志を紹介したいという想いからなのです」(中野さん)

 日本のラーメン店も、負けてはいられない。

※写真は筆者の撮影によるものです(出典があるものを除く)。

フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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