貴方の知らない「冷やし麺2.0」の世界

ラーメン専門店が創り出す「冷やし麺」は年々進化し続けている。

冷やし中華では冷やしきれない猛暑

「中華そば萬福」(東銀座)の「冷しそば(醤油味)」。夏だけではなく通年楽しめる人気メニュー。もちろんちゃんと冷たい。
「中華そば萬福」(東銀座)の「冷しそば(醤油味)」。夏だけではなく通年楽しめる人気メニュー。もちろんちゃんと冷たい。

 日本の夏と言えば「冷やし中華」は欠かせない、という人は少なくないだろう。私は個人的嗜好からもラーメン評論家的観点からも、冷やし中華に関しては否定的な立場を取っているが(関連記事:それでもまだ貴方は「冷やし中華」を許すのか?)、もちろん何を好んで何を食べるかは個人の自由であり、冷やし中華が好きという人の気持ちを否定するつもりは毛頭ない。

 冷房もなく扇風機で涼を取っていた昔と違い、今の中華店やラーメン店は冷房もしっかりと効いている。醤油や酢などの調味料の味しかせず、さほど冷たくもない冷やし中華を無理して食べなくても、普通に熱いラーメンを食べた方が良いのにとずっと思っていた。しかしながら、ここ数年の夏の暑さは異常である。いくら冷房が効いていたとしても熱いラーメンなど食べる気には到底ならない。やはり、冷たい麺が食べたい。

 元来、日本には蕎麦や素麺、冷や麦など、暑い夏に食べる冷たい麺料理はいくつもあった。さらに中華の涼拌麺や韓国の冷麺などの文化も融合して、ラーメン専門店でも冷たい麺メニューが次々と生み出されていった。蕎麦のつゆに中華麺をくぐらせる「ざる中華」や、戦後に山形や福島で生まれたと言われている「冷やしラーメン」は歴史的にも古く、今もご当地ラーメンとして長く愛されている。

 そんな中で、今ラーメン専門店が創り出す冷やしメニューが革新的な進化を続けている。従来の冷やし中華スタイルのものだけでなく、冷やしラーメンの発展型や、麺もつけダレも冷たい「冷やしつけ麺」なども登場。ラーメン店ならではの、その店の個性が活かされた「冷やし麺」のメニューが増えているのだ。

ラーメン店的発想から生まれた「冷やし麺」とは

 私が考える一般的な冷やし中華の弱点はいくつかあるが、その中でも「出汁感の弱さ」は致命的だと思っている。ラーメンの持つ力強い動物系の旨味に乏しく、かつ日本蕎麦などのような和出汁の旨味も稀薄だ。一方で、日々ラーメンと向き合っているラーメン店主たちは、いかに美味しいスープを作るかに命を懸けている。言い換えるならば旨味に対する意識が非常に高いということだ。そして熱々のラーメンを提供することを常に心がけている。つまり温度に関しても神経を注いでいるということだ。

「Noodle Stand Tokyo」(原宿)の「塩しょうが冷し中華」。昆布出汁の旨味と太麺で食べさせる新感覚の冷やし中華。
「Noodle Stand Tokyo」(原宿)の「塩しょうが冷し中華」。昆布出汁の旨味と太麺で食べさせる新感覚の冷やし中華。

 このようなラーメン店的視点とアプローチで創り出された冷やし麺は、新たなラーメンのジャンルに成り得るほどに革新的で面白い。冷やし麺が新たなフェーズに入ったと言ってもいいだろう。冷やし中華嫌いというスタンスは崩すつもりはないが、ラーメン店が作る冷やし麺に関しては別だ。今年はどんな新しい冷やし麺に出会えるだろうとワクワクする楽しさは、ラーメンの食べ歩きを始めた頃の興奮に近いものがある。

 「Noodle Stand Tokyo」(東京都渋谷区神宮前1-21-15 ナポレ原宿ビルB1)の「塩しょうが冷し中華」は、従来の冷やし中華のスタイルを踏襲しつつもラーメン店的アプローチで再構築した新感覚の次世代型冷やし中華。昆布出汁の旨味とリンゴ酢の爽やかな酸味が融合したタレに生姜が加わることで、複雑かつ夏らしい爽やかな味わいに仕上げてある。もっちりとした太麺をしっかりと水で締めて提供するのもラーメン店らしい。さらにチャーシューや卵の動物系素材は油揚げとキノコに変更が可能なので、ヴィーガン対応も可能なハイブリッドメニューだ。

冷たいスープの「冷やしラーメン」に「冷やしつけ麺」

「鯛塩そば 灯花」(曙橋)の「冷やし鯛塩そば」。真鯛で取った出汁の旨味が広がる一杯。
「鯛塩そば 灯花」(曙橋)の「冷やし鯛塩そば」。真鯛で取った出汁の旨味が広がる一杯。

 冷たいスープが張ってある「冷やしラーメン」は山形で生まれたメニューだが、最近では都内でもオリジナルの冷やしラーメンを出す店が増えている。「鯛塩そば 灯花」(東京都新宿区舟町12-13)の看板メニューは、愛媛県宇和島市の新鮮な真鯛を使った「宇和島鯛塩そば」だが、そのラーメンを冷やした夏ならではの一杯が「冷やし鯛塩そば」だ。驚くことにこの冷やしラーメンは、スープもタレも鯛の香味油も通常の鯛塩そばと同じ素材を使っているという。熱いラーメンと冷たいラーメンで、これほどまでに旨味の感じ方や麺の食感が変わるのかと驚くことだろう。

「九十九里煮干つけ麺 志奈田」(末広町)の「烏賊つゆ冷やしつけ麺」。冷や麦のような感覚で食べられる夏らしい逸品。
「九十九里煮干つけ麺 志奈田」(末広町)の「烏賊つゆ冷やしつけ麺」。冷や麦のような感覚で食べられる夏らしい逸品。

 池袋の人気店「志奈そば田なか」が手掛けるセカンドブランド店「九十九里煮干つけ麺 志奈田」(東京都千代田区外神田3-4-1)の冷やし麺は、冷たく締めた麺を冷たいつけダレにくぐらせる「烏賊つゆ冷やしつけ麺」。つけダレはイカの煮干しと腸入りのヤリイカで取った出汁を蕎麦つゆ仕立てにしたもの。日本蕎麦や冷や麦のようなスタイルでありながら、イカの力強い旨味が広がる新しい感覚を楽しめる。煮干しなど海産物をテーマにしたこの店ならではのアプローチだ。

「世界最氷」を謳う「フローズンつけ麺」

「麺屋武蔵 武骨外伝」(渋谷)の「フローズン外伝つけ麺」。アサリなどの出汁をマシーンでフローズン状態に。
「麺屋武蔵 武骨外伝」(渋谷)の「フローズン外伝つけ麺」。アサリなどの出汁をマシーンでフローズン状態に。

 1996年の創業以来、ラーメン界に革新的な刺激を与え続けている「麺屋武蔵」グループ。店舗ごとに異なる味、屋号、コンセプトを持つ麺屋武蔵の渋谷店である「武骨外伝」は、濃厚な豚骨魚介つけ麺が看板メニューの人気店だ。

 そんな麺屋武蔵が生み出した冷やしつけ麺「フローズン外伝つけ麺」は、その名の通りつけダレがフローズン状になった意欲作。動物系素材の濃厚なスープに、煮干しや鰹節、アサリの出汁をフローズンマシーンによってフローズン状にしたものを加えたつけダレに、製麺所と共同開発したオリジナルの「包丁切り麺」をしっかり締めたものをくぐらせる。麺にまとわりつくフローズンのシャリっとした食感が実に涼しげで心地よい。最初は別々に感じるベースのスープとフローズンの異なる旨味が、食べ進めるうちにどんどん混ざっていき、旨味の相乗効果で味わい深くなっていく設計にしてあるのもお見事だ。

イタリア製のフローズンマシーンをこのメニューのために導入。本気の度合いが伺える。
イタリア製のフローズンマシーンをこのメニューのために導入。本気の度合いが伺える。

 「私たち麺屋武蔵は『唯一無二』『革新にして上質』をテーマに、メニューの開発を各店の店主に任せています。フローズンマシーンを使って冷たいつけ麺を作りたいというのも武骨外伝店主のアイディアなのですが、せっかくマシーンを導入したので、これからも麺屋武蔵としてフローズンを生かしたメニューを出せたら良いなと考えています」(麺屋武蔵 代表取締役 矢都木二郎さん)

 従来の料理の枠にとらわれない自由さがラーメンの楽しさでもある。そんなラーメン専門店が本気で挑む冷やし麺は、創意工夫がなされていてどれも楽しいものばかりだ。従来の冷やし中華とは違った新しいスタイルを提案するラーメン専門店の冷やし麺。残り少ない夏を惜しみながら、ぜひ食べ歩いて身体をひんやりと冷やして頂きたい。

【関連記事:それでもまだ貴方は「冷やし中華」を許すのか?

※写真は筆者の撮影によるものです。