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『シン・仮面ライダー』の風力エネルギーシステムが画期的。ジャンプすると、なんと6.4倍も元気に!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

『シン・仮面ライダー』の素晴らしさは、昭和の『仮面ライダー』をベースにしながらも、世界観を独自に発展させていることだ。

敵の組織は、世界征服を狙う「ショッカー」ではなく、メンバーが自らの幸福を追求する「SHOCKER」。

ライダーは血みどろの戦いを繰り広げるが、それはマスクをかぶると、生存本能が増幅され、暴力の加減ができなくなるから。

ひとつひとつが心躍る設定になっている。

◆オーグメンテーションとは?

では、ライダーの根幹を成す「改造」についてはどうだろうか?

昭和ライダーは、ショッカー基地で外科手術を受け「バッタの改造人間」にされていた。

それに対して『シン・仮面ライダー』で、本郷猛を仮面ライダーにしたのはSHOCKERで働いていた緑川弘博士で、本人にこう言っている。

「君は組織の開発した昆虫合成型オーグメンテーションプロジェクトの最高傑作だ」。

オーグメンテーションとは、この作品内の改造法で、具体的な方法は不詳だが、昆虫などが持つ生命エネルギー「プラーナ」を人体に移植するらしい。

プラーナは作品内に登場する架空のエネルギーだが、『シン』の世界観の基本である。

緑川博士は、本郷にこう説明した。

プラーナは、君の生命力そのものを直接支えていく。

君を超人に変えたのも、圧縮されたプラーナの力だ。

君の体に施されたプラーナの吸収増幅システムが、その源。

防護服のコンバーターラング、そしてベルトとマスクに連動している。

おお、これは興味深いシステムだ。

昭和版でも『シン』でも、仮面ライダーは風を受けて活動する。

しかし風力発電はエネルギー効率が低く、理論的な最大値は59.3%。

昭和ライダーの直径10cmほどの風車で、風速10mの風を受けた場合、最大出力は2.8Wにすぎない。

筆者はかつて『空想科学読本』に「そんな微弱な力でショッカーと戦えるかなあ?」などと書いて、ファンから叱られたものだった。

ところが『シン』において本郷猛が風を受けるのは、単に「風力エネルギー」を得るためではなく、空気中に存在するプラーナを吸収し、増幅して、圧縮するためなのだ!

こうなると、話はぜんぜん変わってくる。

プラーナは、どれほどのエネルギーになるのだろうか?

劇中、本郷猛は普段も空気中のプラーナを吸収しているので、食事をする必要がない、と明かされていた。

ということは、普段は呼吸によってプラーナを吸収しているが、仮面ライダーとして戦うには、防護服やベルトなどから大量のプラーナを吸収する必要がある……というシステムなのだろうか。

◆ジャンプすればどんどん元気に!

ここでは、その前提で計算してみよう。

本郷猛の体重を75kgと仮定すると、この体重でよく運動する20代男性が1日に消費するエネルギーは3600kcalだ。そして、成人が1回の呼吸で取り込む空気は0.5Lで、1分間の呼吸数は平均14回。

すると1分に7L、1日(=1440分)に1万100Lの空気を吸い込むことになる。

それに3600kcalのプラーナが含まれているとしたら、1Lの空気に含まれるプラーナは0.357kcalという計算になる。

劇中、本郷猛はバイクに乗って風を受けていたが、ではその場合は?

『シン』のサイクロン号のスピードを、昭和1号の新サイクロンと同じ時速500kmと仮定しよう。

仮にベルトのバックルからプラーナを吸収するとしたら、その直径が10cmしかなくても、時速500kmで走るときに吸収できる空気の量は、1秒あたり1090Lだ。

10秒走れば1万900L。

これは1日の呼吸量1万100Lより多く、たった10秒で1日分のエネルギーが手に入るということだ! めちゃくちゃ効率がいい。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

これならバイクに乗らなくても、自らジャンプすることでベルトに風を受け、充分なプラーナを吸収できるのではないだろうか?

昭和のライダーたちは、まさにそうやって変身したが、筆者は「エネルギーを得るために大ジャンプしたら、それでエネルギーを使ってしまうのでは?」などと心配したものだった。

シン・仮面ライダーのジャンプ力はすごくて、対戦したコウモリオーグによれば、跳躍力は66m30cm。

完全装備した1号の体重が80kg(本郷猛の体重75kg+防護服など5kgと想定)なら、高度66m30cmのライダージャンプをするとき、体内で消費されるエネルギーは58kcal。

一方、このジャンプで体に受ける空気は1040Lで、手に入るプラーナは372kcal。

なんと、58kcalを消費して、その6.4倍が返ってくる!

ジャンプすればするほど元気になる!

あまりにスバラシイ昆虫合成型オーグメンテーションプロジェクトだ。

1号ライダーでこれなのだから、バージョンアップした2号だと、もっと効率的なのではないだろうか。

『シン・仮面ライダー』の続編が制作されるどうかは不明だが、もし作られた場合は、SHOCKERあるいはそれに替わる悪の組織は相当がんばらないと、仮面ライダーに勝つのは難しいかもしれません。

それはそれでモーレツに楽しみだ。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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