『名探偵コナン 紺青の拳』で、怪盗キッドが京極真に放ったトランプ銃の超絶技巧。どれほどすごいことか?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメや特撮番組の世界を、空想科学の視点から考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
劇場版アニメ『名探偵コナン 紺青の拳(こんじょうのフィスト)』は、怪盗キッドと京極真が重要な役割を果たす傑作だ。
京極は空手の世界大会に出場するために、キッドは大会の優勝賞品のブルーサファイア「紺青の拳」を手に入れるために、それぞれシンガポール入りした。
京極にとっては、恋人の鈴木園子がキッドのファンなのが腹立たしくもあり、キッドを捕らえようと意欲を燃やしている。
劇中では2人の直接対決もあり、それも嬉しいのだが、何より盛り上がるのはクライマックスの超重要場面。
そこでは、キッドがトランプ銃で離れ業を見せ、それによって京極の実力が発揮されるのだ!
本稿では、まず京極真の強さを確認し、続いてキッドのトランプ銃のナゾと、劇中で見せた超絶テクニックを考えてみたい。
◆京極真の「400戦無敗」とは!?
京極は空手がモーレツに強くて、「世界大会400戦無敗」だ。
ただの1度も負けることなく、400回勝つ。いったいどれほどすごいことだろうか?
現実の空手の大会では、たとえば世界空手連盟(WKF)が主催する世界空手道選手権大会は、体重別階級に分かれ、1種目24人の選手で争われる。
優勝するには、シード選手でも5回勝たねばならない。
劇中の世界大会が、これと同じ規模&システムだとしよう。
京極は当然シードされるだろうから、400戦無敗なら400÷5=80で、つまり80大会連続優勝したことになる。
現在18歳の京極の連勝記録が、ここ5年間で打ち立てられたものだとすると、年に16回ずつ優勝!
月1以上のペースで大会が開かれ、京極はそれに出場し続けたのだろう。
実際、空手の修行のために世界中を旅しているようで、本当にすごい人だ。
なお『紺青の拳』において京極は、キック力増強シューズで放たれたコナンのボールを正拳で受け、四散させる。
生身の体であれに対抗できたのは、この人くらいではなかろうか。
◆怪盗キッドとトランプ銃
一方、怪盗キッドは?
いまや『名探偵コナン』に欠かせない重要人物だが、そもそもは1987年にスタートした『まじっく快斗』というマンガの主人公である。
『コナン』の連載開始が94年だから、怪盗キッドのほうが歴史は古いのだ。
その正体は、17歳の黒羽快斗で、8年前に不慮の死を遂げた父の盗一の遺志を継いで「2代目の怪盗キッド」になった。
キッドと快斗の関係は、一部の協力者にしか知られておらず、『まじっく快斗』を読むと、普段の快斗はノリのいい高校2年生だ。
そして驚いたことに、快斗は学校の授業中や休み時間にトランプ銃をポンポン撃っている!
そんなことをしたら正体がバレるのでは……と心配になるが、先生も友達も気にしている様子はない。
怪盗キッドのシルクハットとマントは、父親から譲られたものだが、トランプ銃は2代目になる前から快斗自身が作って持ち歩いていたようだ。
◆トランプ銃のナゾ
そのトランプ銃について考えてみよう。
前述のとおり授業中に撃っているくらいだから、殺傷能力は低いようで、マンガやアニメでもこれで人を傷つけることはない。
もっぱら窓を割ったり、壁を壊したり、ワイヤーを切断したり……って、待て待て、本当に殺傷能力が低いのか、これ!?
そういえば授業中に撃ったときも、トランプが黒板に刺さっていたし、実はかなりの威力があるのでは……!?
筆者は、文房具屋に行って、プラスチック製のトランプを買ってきた。
大きさを測ると59mm×89mm。重さは1枚1.9g
一般にトランプに使われるのは、ポリエチレンテレフタラート(PET)というポリエステルの一種で、ペットボトルなどの素材と同じだ。
劇中のトランプ銃は、銃口が直径1cmほどの円形になっており、引き金を引くと、そこからトランプがポンッと飛び出す。
トランプが筒のように丸めてセットされていて、発射後に元の形に戻るのだろう。
しかし、丸めたトランプをどうやって撃ち出すのかはナゾである。
空気圧だろうかと思うが、筒状に丸めたトランプに圧縮空気を送っても、筒の穴を抜けていくだけで力は伝わらない……。
◆『紺青の拳』の超絶技巧を考える!
トランプ銃の威力を確かめるためにも、『紺青の拳』クライマックスシーンのキッドの離れ業を考察してみよう。
ちょっとネタバレになってしまうので、まだ展開を知りたくない方は、ここから先は、放送を見た後にお読みください。
このとき京極真は、ある事情から「ミサンガが切れるまで拳を振るわない」という誓いを立てていた。
絶体絶命の危機ながら、ミサンガが気になって実力を発揮できない京極……。
この状況を打開するために、怪盗キッドは、ハンググライダーに乗ったまま、京極の腕に巻かれたミサンガを狙ってトランプ銃を撃って、見事に切断する!
距離はハッキリしないが、劇中の印象では10mくらいだろうか。
それだけ離れた幅1cmほどのミサンガを、飛行中のハンググライダーから狙い撃つ!
モノスゴイ腕である。
ミサンガと同じくらいの太さの綿の紐で実験したところ、これを切断するのに必要な力は5.2kgだった。
京極のミサンガも、同じ力で切れたと考えよう。
キッドのトランプの重さが、筆者が購入したトランプと同じなら、1枚1.9g。
この軽い物体が当たって5.2kgの力を出すための速度を計算すると、詳細は省くけど、時速156kmだ。
しかもこれは、ミサンガに当たった瞬間の速度。
トランプのような薄いものにも空気抵抗は働くから、撃った直後はもっと速かったはずだ。
「10m飛んで時速156kmに落ちた」との仮定で計算すると、時速6590km=マッハ5.4!
トランプとはいえ、こんなスピードで当たったら、命にかかわるのでは……。
やはり、トランプ銃はすごい威力を秘めている。
それを操って決して人を殺めない怪盗キッドのテクニックにも、目を見張るものがある。
何よりも、対立する関係ながら、京極の実力を信じて超絶ワザを披露したその心意気がスバラシイ。