『シティーハンター』といえば、槇村香の100tハンマー! どんなトンカチだったのか、科学的に考える。
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメや特撮番組の世界を、空想科学の視点から楽しく考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
Netflixの実写版『シティーハンター』が、「鈴木亮平がみごとに冴羽獠(さえばりょう)になり切っている!」と評判である。
無類の女好きなのにカッコイイ、という難しいキャラを実写で成立させるのだから大変なことだ。
『シティーハンター』といえば、冴羽獠のカッコよさと、もっこりと、100tハンマーを思い出さずにはいられない。
獠は、超一流の「始末屋(スイーパー)」だが、好みの女性を見ると、ただちに股間をもっこりさせる。
すると相棒の槇村香が「100tハンマー」を振り下ろす。
そんな「お約束」がとっても楽しい作品であった。
そして、ずっと気になっていたのだが、香さんの100tハンマーとはいったい何だったのだろうか?
「ハンマー」は、物を打ちつけたり、潰したりする道具の総称で、日本語では「つち」という。
「つち」は、ヘッド部分が金属なら「鎚」、木製なら「槌」と書く(金鎚、木槌)。
木槌のなかでも、建築や解体に用いられる大型のものは「掛矢(かけや)」というから、おそらく香さんが持っているのは掛矢だろう。
とはいえ、実際の掛矢はそんなに大きなものではない。
トンボ工業株式会社の「丸型掛矢(金輪付)150mm」の場合、ヘッドは直径15cm×長さ24cm、持ち手は直径2.5cm×長さ90cm。
材質は国産の樫で、重量は4.4kg。
これに対して、香さんの100tハンマーはデカイ。
サイズはエピソードによってさまざまだが、小さなものでも、ヘッドが直径20cm×長さ40cm、巨大なものだと、直径85cm×長さ1mほどもあるようだ。
これらが樫でできていた場合、前者(小ハンマー)は11kg、後者(大ハンマー)は516kgとビックリするほど重くなるが、もちろん、作中のハンマーはそんな軽量ではなく、100tである。
すると、気になるのは、このハンマーは何でできているのか、という問題だ。
金(きん)は、密度が鉄の2.45倍もある重い金属だが、これで小ハンマーを作っても243kg、大ハンマーでも11.7tにしかならない。
地球でいちばん密度の高い物質はオスミウムという金属で、野球ボールの大きさで4.6kgにもなるのだが、それでも小ハンマー284kg、大ハンマー13.7tにしかならない。
香さんの100tハンマーは、大ハンマーと比べてさえ7.3倍も重く、小ハンマーに至っては350倍も重い。
つまり、地球上の物質では、これを作ることはできない。
では、宇宙には、100tハンマーの材料があるのか?
太陽系最大の惑星である木星は、中心部の密度がオスミウムの1.8倍。
太陽系の外には、もっと大きな惑星もあるから、その中心部に行けば、大ハンマーの材料は見つかるかもしれない。
恒星が燃え尽きた後に残る白色矮星は、表面から中心部までの平均密度が、オスミウムの450倍。
ということは、そこまで行けば小ハンマーも作れる可能性があるということだが、いずれにしても宇宙レベルということだ。
こんなハンマーで、天誅を下される獠がお気の毒である。
「叩かれるなら、せめて小さいほうにしてあげて」と言いたくなるが、それは心理的な錯覚というもので、小さくても大きくても重さは同じ100t。
むしろ、狭い面積にエネルギーが集中する分だけ、小さなほうが破壊力は上回る。
100tハンマーは見かけによらないのだった。
『シティーハンター』恐るべし!