こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

『ドラゴンボール』に登場した界王星は、小さい。びっくりするほど小さい星だった。

星の表面に見えるのは、界王さまの家、倉庫、ベンチ、井戸、樹木が数本、星を一周する石畳の道路、そこに停めてある車が1台、――以上。

星の直径は、その道路の道幅の10倍に満たない! ところが、重力は地球の10倍も強いという……!

孫悟空は、猛烈に強いサイヤ人・ラディッツと戦い、何とか倒したが、自分も死んでしまった。ところが1年後にもっと強いサイヤ人が来るという。

そこで悟空は、ドラゴンボールで生き返る前に、あの世で界王さまを訪ね、修業を積んだのだ。

とても小さな星なのに、重力だけは地球の10倍。そんな環境で、いったいどんな修業ができるのか?

◆ドライブは5秒だけ!

界王星の大きさは、どれほどなのか?

全景を捕らえたコマで正確に測ると、星の直径は、星を一周する道路の道幅の9.142倍である。悟空(身長1m75cm)と比較すると、道幅は2.04mだから、星の直径は18.66mとなる。小さめのガスタンクほどしかない!

こんな小さな星に、なぜ車が必要なのか?

それは、界王さまの趣味がドライブだからだという。

しかし星の周囲は、直径×円周率3.14=58.6m。時速4kmで歩いても、一周するのに53秒しかかからない。

車で時速40kmなど出そうものなら、5.3秒で一周してしまうのだ。界王さまがその速度で1時間のドライブを楽しもうと思ったら、星を682周することになる!

星の表面積、つまり界王さまが使える広さは1090m²。野球のダイヤモンドの1.5倍ほどだ。

1人で暮らすには充分という気もするが、『ドラゴンボール』の世界では、神様より閻魔大王が偉く、界王さまはそれより偉い。この時点では、全宇宙の神様の頂点に立っていたヒトなのだ。

そんな高貴な方が、こんな狭い星にお住まいとは、慎み深さに頭が下がります。

◆よい修業ができそうだ

この小さな星が、地球の10倍もの重力を持つというのだから驚きだ。

星の表面の重力は半径と密度に比例する。

界王星の半径9.33mとは、地球の半径6378の68万分の1。それで重力が10倍なら、密度が680万倍もあるわけだ。質量は1300億t。

地球の平均密度は、1cm³あたり5.52gだから、界王星の密度は1cm³あたり3800万g=38tもあることになる。

太陽のような恒星が燃えつきたあとにできる白色矮星レベルの密度だ。とても人が住める環境ではない。

しかし、これは悟空にとって、いい修業場になっただろう。

この星を作る岩石は、密度が地球の岩石の680万倍も大きいはずだからだ。

たとえば、その辺の石ころを拾ったとする。地球のものなら100gくらいの石ころが、界王さまでは68万=680tの重さ!

そのうえ重力が10倍だから、6800tに感じられる!

地球で同じトレーニングをしようと思ったら、直径36mの岩を投げたり持ち上げたりする必要があるから、修業の場として界王星を選んだのは、大正解。

界王星で石を拾って投げられるようになれば、もはや無敵なのだ。

ただし、投げる速度には気をつけてもらいたい。

悟空は身長1m75cmなので、高さ1.5mで投げると考えよう。この高さから石を水平に投げた場合、時速97km以下なら、星のどこかに落下する。時速143km以上なら、重力を振り切って宇宙の果てへ飛んでいく。

しかし、そのあいだの速度で投げてしまうと、星をぐるっと一周して、自分の後ろから返ってくる!

それが時速120kmだったら、帰ってくるのは2.04秒後。

危ない! こんなモノが後頭部を直撃したら、爆薬96分の破壊力。かめはめ波を食らうよりダメージが大きいんじゃないか。

また、あまりに星が小さいために、異常な事態にも直面する。たとえば、前述の「石を持ち上げるとき」だ。

重力は、星の中心からの距離の2乗に反比例する。持ち上げると中心からの距離が遠くなるから、重力は弱くなる。すなわち石は軽くなる。

6800tの石が、1m持ち上げると5600tに! 2m持ち上げると4600tに!

通常、荷物というものは高く持ち上げるほど大変だが、この星ではまったく逆なのだ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

この恐るべき環境の界王星で、悟空は158日間、界王さまの手ほどきを受けて、修業に明け暮れた。

界王さまは「この星でわしが158日もきたえてやりゃあ おまえが地球で数千年も修業をした価値がある!」と言っていたが、実際、修業を終えて地球へ向かう悟空は「うひゃ―― 軽い軽い!! カラダが綿毛のように軽いぞ――っ!!!」と跳びハネていた。

元気玉を会得したのも、この修業のときだったし、その後の悟空の活躍は、界王星と界王さま抜きには語れない。スゴイ星であった。