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ちゃぶ台を素手で引き裂くなど、朝メシ前。『刃牙』シリーズ・範馬勇次郎の強さは、科学を超越している!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の研究レポートは……。

マンガにはしばしば「とんでもなく強い人」が登場するけど、「素手で強い」という条件で考えるなら、最強は範馬勇次郎ではないだろうか。

『刃牙』シリーズに登場するこの人は、主人公ではなく、主人公・刃牙の父親である。身長190cm、体重120kg強。ホッキョクグマを素手で倒し、厚さ20cmの鉄扉を拳でぶち破り、100人の機動隊をなぎ倒して……いや、こんな事例を並べても、勇次郎の強さの真髄は伝わらない!

勇次郎が「地上最強の生物」と呼ばれるまでになったのは、ひたすら己に強さを求め続けたからだ。その結果、本当に無敵となり、彼と戦おうとする者はいなくなった。

ここに至って、勇次郎はどうしたか? わが子・刃牙を徹底的に鍛え上げ、自分の敵とすることにした! 刃牙もこれに応え、父を乗り越えんと修羅の道をゆく――というのが『刃牙』シリーズの大枠だ。

ここでは印象的なエピソードをいくつか紹介したい。もう笑ってしまうような強さである。

◆ちゃぶ台を手で引き裂く!

実際どれほどすごいのか。その強さを示すエピソードの一つが、ちゃぶ台を引き裂いたこと。しかも素手で!

これだけでもビックリだが、それだけで終わらないのが勇次郎だ。まず木目に沿って二つに引き裂いた後、二つになったちゃぶ台を重ね合わせ、今度は木目に垂直に引きちぎった!

すごい。木というものは、木目に沿うか沿わないかで強度が極端に変わる。作中のちゃぶ台は直径80cm、厚さ3cmほどと思われた。杉材だとすれば、木目に沿って引き裂いた力は6.5t。それだけでも驚異的だが、木目に垂直に引きちぎった力は110tなのだ!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

とはいえ、これくらいのことは、勇次郎にとっては朝メシ前である。

勇次郎は、巨大なゾウを素手で倒したこともある。

それも、そこらの凡ゾウではない。これまでに動物977頭、人間41人が犠牲になり、殺処分のために投入された武装レンジャー部隊も壊滅したという凶暴なゾウだ。

サイズも規格外れで、横たわった足の裏の直径が、取材する記者の身長の2倍もある。ここから推定される体高は24m、なんと8建てのビルの高さと同じ。

すると体重は推定1600t。勇次郎の体重は120kgだから、なんと1万3千倍である。これに勇次郎が立ち向かうのは、体重5.3gのカマキリが体重70kgの人間に挑むも同然。「蟷螂(とうろう)の斧」という言葉は「弱い者が無謀な挑戦をする」という意味だが、勇次郎はその言葉を実践し、圧勝した。

◆自分で自分を殴ったほうが幸せ!

勇次郎の超人性は、体力だけではない。ただそこにいるだけで、周囲を圧倒する。

たとえば道を歩いているだけなのに、すれ違う人々が一瞬、動きを止めてしまう。劇中のナレーションは、「サバンナでチータに出くわしたインパラが、絶望的状況に全身がすくみ、動けなくなるのと同じ」と説明していた。生物学では「擬死(ぎし)」と呼ばれる状況に、周囲の人々を陥れるのだ。

その極端なエピソードがある。

4人の兵士が小銃を持って門を固めている。勇次郎が近づくと、1人の兵士が銃を横にして遮った。勇次郎はその兵士を突き飛ばし、怒りの形相に。その髪は逆立ち、全身からオーラのようなものが発散される。すると――残る3人の兵士のうち、2人が殴り合いを始め、1人が自分自身を殴り始めたではないか!

これ、何が起こったのか。勇次郎の解説を要約すると「立ち向かうと殺される。逃げても殺される。ならば自分たちで殴り合い、自分で自分を殴ったほうが幸せ」ということらしい。

自然界の動物も、強いストレスを受けると、自分の体を噛んだり、羽毛をむしったりするなどの自傷行動に走る。兵士たちにとって、勇次郎の接近が猛烈なストレスになったのだろう。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

このように肉体的にも精神的にも人間を超越している勇次郎だが、間違いなく人間だ。作品のなかで、勇次郎の誕生の場面が描かれている。

それは195X年4月X日。周囲の状況から、彼は確かに人間の母親から生まれている。ただし、生まれる途中で驚くべき行動に出た。

「俺を取り上げろ!!!」「失敗は許さないッッッ」「無事に取り出せッッ」

 生み落とされながら、助産師に命令したのである。こんなコトをした人物は、マンガですら史上初だろう。

もちろん、初乳を与えようとした母親にも命じた。

「なにをしているッッ」「早く飲ませろッッッ」。

2人の述懐によれば、これらの命令は、言葉ではなく脳に直に届いたという。

その日、複数の国の首脳がこう直感した。

「何処か……たとえば東洋の何処か そんなちっぽけな小国で 恐るべき兵器が生まれるッッ」。

それゆえ彼らは、核兵器の保有を決意したという……! 

ええっ、ホントですか!? これはもう科学では説明できません。殺気というか、覇気というか、そういう科学を超えたナニモノかが全世界に伝播したのだろう。筆者はもうお手上げで、あとはただ、『刃牙』シリーズで勇次郎の強さを堪能するしかないッッッ。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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