小林亜星先生が亡くなられてしまった……!

『北の宿から』『ピンポンパン体操』『この木なんの木』『ひみつのアッコちゃん』『快傑ライオン丸』など、先生の代表作を挙げていくと、キリがない。演歌からCM、アニメまで、驚くほどの守備範囲の広さだ。われわれは、そんな異才が主役を演じたテレビドラマまで楽しんでいたのだから、しみじみ幸せな時代であった。

そして個人的な思いを綴らせていただけば、忘れられないのは『科学忍者隊ガッチャマン』のオープニングとエンディングの曲である。

幼い頃から科学者になりたいと思っていた筆者は、『ガッチャマン』劇中の南部孝三郎博士に憧れていた。でも、チョビ髭で銀ブチ眼鏡という風貌に「詐欺師みたい…」と、うっすら怪しさも感じていた。

それを打ち消して、シンプルに「科学はカッコいい」と妄信できたのは、『ガッチャマン』の2曲があったからこそ。そして、そのまま理科好きなった。小林先生の曲がなければ、筆者が『空想科学読本』を書くこともなかっただろう。心から感謝します。

そこで今回は、小林亜星先生へ追悼の気持ちを込めて『ガッチャマン』に関する考察を綴らせていただきたい。題材はもちろん、科学忍者隊の最強ワザともいえる「科学忍法火の鳥」だ!

◆「科学忍法火の鳥」の科学

リーダーの大鷲の健が「科学忍法火の鳥!」と叫ぶと、科学忍者隊が乗るゴッドフェニックス号はビカーッと輝き、火の鳥に姿を変える。オレンジ色に燃える火の鳥は「クェ~ッ」と鳴いて、翼をはためかせ、敵に体当たり! ひょ~っ、かっこいい。

とは思うのだが、せっかくのマシンが鳥に姿を変えて体当たり……って、科学というより、原始の香りのような気がしないでもない。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

注目は、ゴッドフェニックスが炎に包まれるや、全体のフォルムが変わることだ。

太い機首がグ~ッと細くなって鳥の首になり、小ぶりな主翼が大きく広がって鳥の翼になる。おそらくは金属製であろう飛行機が、なぜそんなに自由自在に変形できるのか?

考えられるのは、形状記憶合金である。どのような変形を受けても、一定の温度以上になると元の形に戻る合金。ゴッドフェニックスがこれでできていれば、自ら発した高温で大胆に変形するのも不思議ではない。

その場合、重要なのは温度である。

画面で確認すると、火の鳥はオレンジ色に赤熱している。『理科年表』によれば、金属がオレンジ色に輝く温度は1200度。ゴッドフェニックスが鳥形になるには、そこまで加熱する必要があるのだろう。

このマシンが空気との衝突によって1200度を達成しているとしたら、それに必要な速度はマッハ5.1。ゴッドフェニックスの最高速度はマッハ5という設定だから、おお、ほぼ同じ。さすが科学忍者隊は、科学的にもナットクできるではないですか。

◆上空でもがき苦しむ人たち

と思う反面、ちょっと不安なところもある。

アニメの第1話で「科学忍法火の鳥」を初めて使用する際に、大鷲の健はオソロシイことを口にしていた。

「(われわれは)かなりの重圧に耐えなければならないし、ゴッドフェニックスはバラバラに空中分解するかもしれない」。ぬえっ、バラバラに空中分解!?

実際、すごい重圧がかかったらしく、大鷲の健も白鳥のジュンも、そしてニヒルなコンドルのジョーまでもが大きく顔を歪め、「ぐわわ……」ともがき苦しんでいた。

一市民として、心からお願いしたい。飛行中に搭乗員が悶絶するようなワザなど、絶対に使わないでもらいたい! 上空を行く旅客機のコックピットで、機長や副操縦士が「ぐわわ……」などと苦しんでいたら、乗客は言うに及ばず、地上の人々もとても平穏には暮らせません。

そして、ここまでの苦痛に耐えた5人が乗る火の鳥は、そのまま敵のメカなどに体当たりするのである。そんなことをしたら、どんなことが起こるのか?

燃え盛る火の鳥が敵のメカを瞬時に溶かし、貫通したと考えよう。それでも、体当たりの衝撃によって、ゴッドフェニックスの速度は多少なりとも落ちるはずだ。

その結果、コクピットの内部にいる科学忍者隊は、車が急ブレーキをかけたときのように、前方につんのめることになる。

ゴッドフェニックスの全長は不明だが、ここでは100mとしよう。体当たりによって、全長分を進むあいだに速度がマッハ5から5%だけ落ちたとすると、そのスピードはマッハ4.75に減速。一方、乗っている人々は、マッハ0.25で前方につんのめることになる。このとき彼らが受けるブレーキ力は、重力の140倍=140G!

これはモーレツだ。ワザの発動時には「ぐわわ……」で耐え切った5人も、今度こそ失神するに違いない。はたして、操縦者のいない火の鳥の運命は……?

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

発動時には強力な重圧にさいなまれ、敵に体当たりしたら気を失う。「科学忍法火の鳥」とは、敵にもダメージを与えるが、自分もヒドイ目に遭ってしまうキビシイ必殺技のようだ。やはり原始の香りが漂うような……。

――などと、科学的に考えると、ちょっと怪しさも出てきてしまうのだが、小林亜星先生の主題歌がカッコよくて、筆者はそれらをあまり気にせぬまま、科学の道に憧れ続けたのだった。歌の力はすごいなあと、いましみじみ思う。