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すぐ死ぬので有名だったゲーム『スペランカー』。いったいどれほど死にやすいのか⁉

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の研究レポートは……。

ゲームに疎い筆者は『スペランカー』というゲームをまったく知らなかった。1980年代に少し流行ったアクションゲームらしいのだが、初めて教えてもらったときには、ものすごくビックリした。

ひと言でいえば、それは「ものすごく死にやすいゲーム」。プレイヤーがすぐに死んでしまうことで有名で、それゆえにいまでも人気があるのだという。何が人気になるかわかりませんなあ。

「死にやすい」とは、どういうことか? 具体例を知ってもらえば納得していただけるだろう。『スペランカー』の主人公は、次のようなことであっさり死んでしまうのだ。

・小さな窪みに落ちたら死ぬ!

・縄や梯子やエレベーターから降りるとき、ちょっと落差があったら死ぬ!

・下り坂でジャンプすると死ぬ!

・自分が仕掛けた爆弾の爆風で死ぬ!

・マシンガンを撃ち過ぎると、エネルギーが切れて死ぬ!

・コウモリの糞が当たっただけで死ぬ!

――こんな具合に、ホントにカンタンに死んでしまうのである。これには本当に驚いた。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

◆「スペランカー」とはどんな意味?

こういうことになったのは、もともと83年にアメリカで作られた『スペランカー』を、85年に日本のファミコン用に作り直したとき、ゲームの難易度を上げようとした結果……らしい。

「難しい」⇒「すぐ死ぬ」。うははっ、まっすぐな発想をしたものですなあ。

そもそも「スペランカー」とはどういう意味だろうか。

英和辞典を引くと、綴りは“spelunker”で「⦅アマチュアの⦆洞窟探検家」とある。

ところが、このゲームの浸透によって「スペランカー=虚弱体質」というイメージが定着してしまった。2016年に引退したプロ野球の多村仁志選手など、ケガが多かったことから「スペランカー多村」というあんまりなニックネームをつけられていた。英語圏の人が聞いたら「趣味で洞窟の探検をしている選手」と思ったのではなかろうか。

だが、いくらゲームとはいえ、人間がここまでたやすく死んでしまうのは、いかがなものか。

ここでは主人公キャラを「Mr.スペランカー」と呼ぶことにして、彼の死亡まみれの人生について考えてみよう。

◆車の屋根から飛んだら死ぬ!?

まず、落下による死亡から。ゲーム画面において、Mr.スペランカーは身長が16ドットで、落下高度が14ドットを超えると、死ぬように設定されていたという。

死にやすいにもホドがある! 16ドットの身長を、現実の人間の160cmに置き換えると、死亡高度の14ドットとは140cmだ。そこから飛び降りた程度で、いちいち律儀に死んでいたら、文字どおり身がもたないだろう。

そもそも人間という生物は、どのくらいの高さから落ちたら死ぬものなのか。

もちろんそれは、打ちどころや、落下地点の状況にもよる。転んだだけでも頭を打てば死ぬことがあるし、アメリカには、39階から落ちたにもかかわらず、車の屋根に足から着地したおかげで、両足の骨折だけで済んだ例があるという。

アメリカの医師が「ニューヨークポスト」紙において「4階か5階からの落下で50%の人が死亡する。10階、11階の高さになれば、ほぼ100%助からない」と発言している。

医者の言うことは聞いたほうがいいから、ここは10階から落ちたら死ぬと仮定しよう。1階あたりの高さを3mとすれば、人間は高度30mから落ちたら、よほど運がよくない限り、死ぬということだ。

それに対して、Mr.スペランカーの100%致死高度は、たったの1.4m。このヒト、通常の人間の21倍も死にやすい!

◆卵より虚弱だった!

死にやすさ21倍とは、由々しき事態である。

1972年の日米大学野球で、二塁に滑り込んだ選手が、ショートからの送球を頭部に受けて死亡する、という痛ましい事故が起きた。これを元にMr.スペランカーの死にやすさについて考えると、どうなるか? 

ボールのエネルギーは「速度の2乗」に比例するから、エネルギーが21分の1なら、速度は4.6分の1になる(4.6×4.6=21.16)。送球のスピードが時速80kmだったとすれば、その4.6分の1とは時速17km。

これは「どんなにうまく投げても、2.3m以上は飛ばない」という、もうメチャメチャ緩いボールだ。それが頭にコン、と当たっただけで、Mr.スペランカーはお亡くなりになる!

こういう人の日常生活は、モーレツに危険に満ちているだろう。

たとえば、一般的な住宅の階段は一段あたりの高さが20cm程度だが、Mr.スペランカーがそこをトン、と下りると、一般人が高さ4.2mからドスン!と落ちるのと同じダメージを負う。大ケガするだろうなあ。

いったい、どれほどの虚弱さなのか。

筆者は、豆腐、プリン、卵を、それぞれの厚さや長いほうの直径の16分の14という高度からテーブルに落とす実験をしてみた。例えば、厚さ5cmの豆腐なら、高さ4.4cmから……という具合だ。

やってみると、驚いたことに豆腐もプリンもまったく平気だった。Mr.スペランカーは、この柔弱な食品群より虚弱ということだ!

卵は、パチッと音がして底の部分が小さく陥没し、テーブルの上に立った。これぞ、まさに「コロンブスの卵」状態。しかし、殻の内側の卵膜に損傷はない模様で、白身が漏れ出したりはしていない。有精卵だったら、このまま温めればヒヨコに孵りそうだ。これは、卵としては「死んだ」とはいえず、「軽傷」と診断したいレベル。

同様の衝撃でアッサリ死んじゃうMr.スペランカーは、卵より虚弱なのだ!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

ここまで虚弱な体質だと、たぶんドアに頭をぶつけたり、人とぶつかったりしただけで、死んで死んで死にまくるだろう。幸いゲームのキャラなので、何度死んでも生き返るけれど、生きているヒマなどまったくない。

いやあ、ここまで死にやすいと、逆にやりたくなりますね、『スペランカー』。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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