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バロネス『ストーン』発売/ジョン・ダイヤー・ベイズリーの音楽と美術への造詣【後編】

山崎智之音楽ライター
Baroness / courtesy of Sony Music

2023年9月15日にニュー・アルバム『ストーン』を発表した現代アート・メタルの旗手バロネスのヴォーカリスト/ギタリスト、ジョン・ダイヤー・ベイズリーへの最新インタビューの後編。

前編記事では『ストーン』の世界観について話してもらったが、今回はバンドの音楽性の背景にあるジョンのフォーク/カントリーやアンダーグラウンド・ミュージック、そして美術への傾倒について訊いてみよう。

筆者(山﨑)が初めてジョンと会話したのは2009年11月のインタビューだった(アーカイヴとして再掲載)。このとき彼の絵画やグラフィック・アートに対する造詣の深さを知り2010年3月、初めての、そして現時点で唯一の来日公演時に改めて対面インタビューを行っている。今回、彼にそのことを話すと「もちろん覚えているよ。この本をもらったんだよね」と、そのとき渡した山本タカトの画集を取り出してきた(来日前に彼が「買っておいて欲しい」と言っていたもの)。

そんなジョンのアートに対する情熱がいささかも冷めていないことが、この日のインタビューからも伝わってきた。

Baroness『Stone』ジャケット(2023年9月15日発売/ソニーミュージック)
Baroness『Stone』ジャケット(2023年9月15日発売/ソニーミュージック)

<ミュージシャンは絵画から学ぶことが出来る>

●『ストーン』にはフォークやカントリーの要素があると語っていましたが、どんなアーティストから影響を受けてきたのですか?

十代の頃からフォーク/カントリーを聴いて育ったんだ。メタルやパンクよりも長く聴いてきたぐらいだ。サイモン&ガーファンクルのレコードは中古盤店でいつも25セントのコーナーにあったし、何枚も買って聴き込んだよ。ウィリー・ネルソンも好きだったけど、フェイヴァリットは『赤毛のよそもの Red Headed Stranger』(1976)だ。奇妙に美しいロック・オペラ的な作品で、彼のよく知られていない側面が表れている。もちろんエミルー・ハリスはオールタイム・ベストの1人だよ。ジャンルを問わず、アメリカン・ミュージックのダークで陰鬱な側面を好む傾向があるんだ。その影響が自分の音楽にも染み込んでいると思うね。ジョン・フェイヒーの影響でフィンガースタイル・ピッキングで弾くようになったんだ。『レッド・アルバム』(2007)では彼に近づこうとしたアコースティック曲があるし、どのアルバムでもチャレンジしている。未だにマスターしたとは言えないけど、やり続けているんだ。それからギリアン・ウェルチ&デイヴ・ロウリンのコンビからは様々なインスピレーションを得てきたし、俺にとって重要なアーティストだ。彼らの『The Harrow & The Harvest』(2011)ジャケット・アートを手がけている。“自分のヒーローに関わった瞬間”に酔うことが出来たよ!最近のアーティストではコルター・ウォールが素晴らしいソングライターだし、カントリーからはいつだって刺激を受けてきた。

●『ゴールド・アンド・グレイ』(2019)発表のタイミングであなたにインタビューしたとき、ノルウェーのオッド・ネルドルムやドイツのアンゼルム・キーファーをお気に入りに挙げていましたが、最近お気に入りの画家はいますか?

最近ではクロード・モネの魅力を再発見しているんだ。何を今更...という感じだけどね(笑)。フィラデルフィア美術館の年会員になっていて、ツアーに出ていないときはいつでも見に行くことが出来る、正面玄関の階段は映画『ロッキー』で有名だけど、所蔵しているモネのコレクションも素晴らしい。質・量ともに間違いなくアメリカではトップだよ。『ストーン』の曲を書くときに彼の絵がひとつの基準だったんだ。彼の絵画のように光を捉え、エネルギーを捉えることがアルバムのテーマだった。それと日本の浮世絵師、月岡芳年の展覧会に感銘を受けた(2019年にフィラデルフィア美術館で開催)。北斎や広重より後の世代の異なったスタイルで、腕の産毛が逆立つような興奮を感じたよ。残酷な作品もあるけど、それすらも美しいんだ。俺はそんな感情を音楽にしようとしている。ギターとヴォーカルを自分の絵筆にしてね。キーが少しばかり外れていても大きな問題ではない。数値的にピッタリ正確であるよりも、美的な効果を重視するんだ。『ストーン』のアートワークでも、色彩の使い方で浮世絵からの影響があるよ。

●ツアー中にも世界各地の美術館を訪れたりしますか?

うん、ツアーでオフ日があるとその都市の美術館を調べて行くようにしている。ウィーンのレオポルド美術館にはグスタフ・クリムトなどのアール・ヌーヴォーの名画がたくさんあるし、美術史美術館も最高だ。世界でフェイヴァリットな都市のひとつだよ。ミュージシャンは絵画から学ぶことが出来るんだ。相違点があるとしたら、音楽は視覚芸術よりも本能に訴えかけるものがあることかな。善し悪しを評価する前に、音楽はまず身体が反応するからね。

●フィラデルフィアといえば人体標本やアインシュタインの脳などで知られるムター博物館もありますが、あなたの画風やダークな世界観に影響はあるでしょうか?

ムター博物館はいわゆる“美術館”ではないけど、アート的な視点から見ても素晴らしいね。自分に影響があるかは判らないな。でもあの世界観には魅了されるよ。世界的にも稀な博物館だし、フィラデルフィアに来たらぜひ訪れるべきだと思う。

Baroness / photo by Ebru Yildiz
Baroness / photo by Ebru Yildiz

<日本で過ごした5、6日は人間として最高の経験だった>

●『ストーン』に伴う“スウィート・オブリヴィオン”北米ツアーが10月からスタートしますが、オープニング・アクトとしてプリミティヴ・マン、ユニフォーム、ジーザス・ピース、エスクエラ・グラインドなど、絶妙にツボを突くエクストリームなバンドが起用されています。それらの選出はどのような基準で、誰が行っているのですか?

オープニング・アクトはすべて俺が選んでいる。基準はただひとつ、俺がクールだと思うバンドということだ。まあ、バロネスとは異なったタイプのバンドを起用しようとは考えているけど、元々俺たちと似ているバンドはそんなにいないし、あまり気にする必要はない。アンダーグラウンドのバンドも多くて、別の仕事をしていることも多いから、地域ごとに数公演ずつ分けて出てもらうことにしたんだ。

●どのようにして新しいバンドを見つけるのですか?

オフ時には週3,4回はアンダーグラウンドのライヴを見に行くんだ。最近はターンスタイルやドレインなどの活躍もあって、従来はコアとされてきた音楽性のバンドが目立つようになってきた。今のアメリカのハードコア・シーンは視野が広いオープンなバンドがたくさんいて、すごく良い状況だ。個性的なバンドが多いし、若いキッズからも支持を得ている。「ショック・ミー」でバロネスを知った音楽リスナーにも、そんな素晴らしいバンドを知ってもらいたいんだ。最近のバンドで俺が気に入っているのはニュージャージーのジェル(GEL)かな。5年前に“一緒にツアーしたいバンド”をリストアップしたら5バンドぐらいだっただろうけど、今だったら30から40ぐらいパッと思いつく。すごく良い時期だね。いつまでもこんな良い状況が続くとは考えられないし、今のうちにたっぷり楽しんでおくよ。

●バロネスの音楽はメタルと呼ばれることもありますが、メタル・ミュージックはよく聴いていますか?

もちろん!メタルのライヴに行くのも楽しいよ。こないだオビチュアリー、イモレイション、ブラッド・インカンテイション、それからアイダホ州ボイジ出身のイングロウンのショーを見に行ったんだ。人生最高のショーのひとつだった!ただメタルでも、あまりテクニカルなバンドは好きではないんだ。超絶プレイと良い曲を両立させるのは難しいからね、それよりメロディを口ずさめるタイプが好みかな。ラモーンズは3つか4つしかコードがなくても、最高に“音楽的”だよ。

●2010年3月以来となる日本公演が実現するのを楽しみにしています。

うん、日本で過ごした5、6日はミュージシャンとしてでなく、人間として素晴らしい経験だった。アイシスと一緒にツアー出来たのも最高だったし、何より日本のファンから受け取るエネルギーは今でも身体に残っているよ。アメリカに生まれ育った俺にとって、日本の文化は知っているものとまったく異なっていて、街を歩いて角を曲がるだけでも冒険だった。ピュアなマジックを感じたね。その後、何度か日本に行く話があったんだ。フジロックだったか、他のフェスだったかな?一度日本のフェスに招かれたことがあったけど、スケジュールの件か何かで実現しなかった。2020年3月には“ダウンロード・ジャパン”フェスに出演することが決まっていたんだ。久しぶりの日本だ!と意気込んでいたら、出発する4日前にコロナ禍のせいでキャンセルになってしまった。それからすべてのツアー日程が白紙になって、目の前が真っ暗になったよ。『ストーン』が出たら、今度こそ日本に戻りたい。そのときは日本のアンダーグラウンドなバンドと共演したいね。いろんな音楽から刺激を受けたいんだ。もし呼んでもらえなくても、ただ観光だけのために日本に行くことも考えている。いろんな都市を歩き回って、日本のファンから文化や芸術を吸収したいんだ。バロネスを始めてもう20年が経つけど、学ぶことばかりだよ。

さらに次回は2009年に筆者が行った、ジョンとの日本向け初インタビューをアーカイヴ記事として再掲載。そのメタル・ミュージックと美術がクロスオーヴァーする原点を遡ってみよう。

【ソニーミュージックオフィシャルサイト/バロネス】

https://www.sonymusic.co.jp/artist/baroness/

【バンド公式サイト】

https://yourbaroness.com/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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