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【インタビュー後編】ザ・ワイルドハーツ/ジンジャーが語る音楽と愛犬との日々

山崎智之音楽ライター
THE WiLDHEARTS / Vinyl Junkie Recordings

黄金期“クラシック・ラインアップ”によるニュー・アルバム『ルネサンス・メン』を発表、2019年6月から7月にかけて日本公演を行うザ・ワイルドハーツのジンジャーへのインタビュー後編。

前編記事に続いて、バンドとしての活動とソロ・キャリア、日本公演への展望など、ジンジャーが雄弁に語った。

なお、インタビューは電話で行われたが、受話器の向こうからしばしば「ワン、ワン!」という声が漏れ聞こえた。誰かがそばにいるらしい。

<ロックのダークな物語が好きだ>

●『ルネサンス・メン』の「マイ・カインド・オブ・ムーヴィー」の歌詞には“Cronenberg meets Ingmar Bergman, with Takashi Miike on the side”という一節がありますが、デヴィッド・クローネンバーグ、イングマル・ベルイマン、三池崇史という方向性の異なる3人の映画監督が同じ一節に登場するのが興味深いです。

『Renaissance Men』ジャケット(Vinyl Junkie Recordings / 現在発売中)
『Renaissance Men』ジャケット(Vinyl Junkie Recordings / 現在発売中)

クローネンバーグ、ベルイマン、ミイケはそれぞれまったく異なる才能を持った映画監督だけど、3人とも天才で、誰とも似ていない作風を持っているという共通点がある。3人それぞれが世界に対する異なった観点を持っているんだ。彼らの映画は、いかにエクストリームでクレイジーであってもリアリティを感じる。完璧なカップルが素敵なロマンスを成就させる映画なんて、ファンタジーに過ぎない。俺はリアルな現実を見たいんだ。人生は退屈じゃないし、ハッピーでないこともある。甘ったるくはないし、時にショッキングでもある。人間が死ぬとき、人生の思い出が走馬灯のように巡る。それが1本の映画なんだ。3人の映画には、そんな人生が描かれているよ。

●映画といえば、『ザ・ダート:モトリー・クルー自伝』は見ましたか?

みんなその映画の話を訊きたがるなあ(苦笑)。原作本は面白かったよ。よく出来たフィクション小説だ。ニッキー・シックス本人に聞いたけど、あの本のかなりの部分は脚色されたものだそうだ。映画も面白かった。『ザ・ダート〜』のことをしょっちゅうインタビューで訊かれるから、もう1回見ようと思っているんだ。クイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』も楽しかったし、映画業界がロック・ミュージシャンのバイオピック映画をシリアスに捉えるようになったと感じるね。ただ、俺が好きな映画はもっとダークなやつだな。最近流行のバイオピック映画は楽しくても、それ以上のものではない。『ラトルズ 4人もアイドル』『スパイナル・タップ』なんかは最高だけどね。ロック・ミュージシャンの映画を見るよりも、伝記を読む方が好きなんだ。最近読んで良かったのは、ミニストリーのアル・ジュールゲンセンが書いた『The Lost Gospel According To Al』だった。あと良かったのはスティーヴ・ジョーンズの『Lonely Boy: Tales from a Sex Pistol』、ディスチャージのテズ・ロバーツが書いた『But After The Gig...』、アグノスティック・フロントのロジャー・ミレットが書いた『My Riot』...どれもダークな内容だし、ハリウッド映画みたいなハッピーエンドではないけど、リアルな人生が描かれている。

THE WiLDHEARTS / courtesy of Vinyl Junkie Recordings
THE WiLDHEARTS / courtesy of Vinyl Junkie Recordings

<『ザ・ペシミスツ・コンパニオン』は愛犬マギーと作ったアルバムだ>

●ザ・ワイルドハーツとしての『ルネサンス・メン』に続いてソロ・アルバム『ザ・ペシミスツ・コンパニオン』も完成させましたが、どんなアルバムだといえるでしょうか?

『The Pessimists's Companion』ジャケット(Round Records)
『The Pessimists's Companion』ジャケット(Round Records)

『ザ・ペシミスツ・コンパニオン』は俺のパートナーとの別れからインスピレーションを受けたアルバムだ。彼女は俺の子供の母親で、別れても親友であり続けて、一緒に俺のレーベル“ラウンド・レコーズ”の運営をやってくれている。でも別れは心底辛い経験だった。そんな苦痛が描かれている、“告白的”なアルバムなんだ。それでも人生を嘆くだけではなく、救いと希望が描かれている。俺が暗闇から抜け出る手助けをしてくれたのは、犬のマギーだった。『ザ・ペシミスツ・コンパニオン』の曲はキャンピングカーで、マギーと共作したものだよ。彼女とは強い絆で結ばれている。今では俺にとって一番の親友だし、クリエイティヴ面でのインスピレーションだ。

●あなたのような40代〜50代のイギリス人にとって、マギーといえばマーガレット・サッチャーを連想させると思いますが、サッチャーのことは頭にありましたか?

冗談じゃない、まったくなかったよ!俺の知っている人間は誰もマーガレット・サッチャーを“マギー”なんて呼んだりしない。良くて“サッチャー”、普段はもっと酷い名前で呼んでいる。俺ぐらいの年齢のイギリス人の多くはサッチャーに酷い目に遭ってきたんだ。サッチャーとジョージ・W・ブッシュはアドルフ・ヒトラーと肩を並べる最悪の政治家だった。サッチャーが死んだときはパーティーで祝ったぐらい嫌いだった。テレサ・メイと同じぐらい嫌いだよ!うちの犬はコミック『ラブ・アンド・ロケッツ』の登場人物マギーから取ったんだ。ついこないだコミックの最新単行本『Is This How You See Me?: A Locas Story』が出たばかりだ。すぐ読んだけど、最高にビューティフルだった。作画もストーリーもパーフェクトだよ。それともうひとつ、magpie(カササギ)みたいに毛色が白黒だからマギーにしたんだ。当初はアルバムのタイトルを『Magpie』にしようと考えていたぐらいだよ。とにかくサッチャーとはまったく関係ない!

●レコード・ストア・デイ向けにマギー形シェイプド・ピクチャー・シングル「I Wanna Be Yours / No Regrets」をリリースしましたが、何故『ザ・ペシミスツ・コンパニオン』に収録しなかったのですか?

レコード・ストア・デイ向けに特別な作品をリリースしたかったんだ。俺みたいなミュージシャンにとって、インディペンデントなレコード店は重要な存在だし、音楽文化を受け継いでいくのに必要だと考えている。小規模のレコード店はかつて大手チェーンに壊滅的な打撃を食らった。大手チェーンは投資企業の経営方針が変わって消えていったけど、レコード店は今でもサバイバルしてきたんだ。レコード店の店員にはクソみたいな奴もいたけど、ロックが大好きでクールな人間もたくさんいたし、レコード店で最高にクールなレコードを発見するのは人生で最大のスリルだった。1年に1日、レコード店のセレブレーションがあるのは良いことだと思うし、俺も協力したいと考えている。

●ウォーカー・ブラザーズの「ノー・リグレッツ」をカヴァーしたのは何故ですか?

パートナーと別れたとき、ずっとこの曲を口ずさんでいたんだ。“後悔なんてしない、さよならの涙なんてない...”ってね。俺の別離のサウンドトラックだったんだよ。もうひとつ、スコット・ウォーカーへのトリビュートという意味合いもあった。そのときスコット・ウォーカーはまだ生きていたけど、レコーディングして1ヶ月ぐらいで亡くなってしまったんだ(2019年3月22日)。彼はレナード・コーエンと並ぶ最高のソングライターでありながら、正しい評価を得ることがなかった。とても残念だよ。

●スコット・ウォーカーがSUNN O)))というバンドと共演したアルバム『サウスド』(2014)はご存じですか?

知っているよ!あのアルバムはクレイジーだ。ミューテイションでマーク・E・スミスと共演したのも、あんな感じの“混沌”を出したかったんだ。SUNN O)))のレコードには圧倒されるね。モグワイやメルツバウともかなり異なるし、比較不能の独自のスタイルを持っているよ。

●日曜の朝に聴くタイプの音楽ではないですか?

いやあ、俺は日曜の朝でもディスチャージを聴いて、近所の人達から顰蹙を買っているからね。時間帯や曜日は関係なく、いろんな音楽を聴いているよ。

<ザ・ワイルドハーツのクラシック・ラインアップ にはマジックと錬金術がある>

●あなたはクラウドファンディング・サイト“プレッジミュージック”経由で『555%』(2012)、『Albion』(2013)、『ゴースト・イン・ザ・タングルウッド』(2018)などを発表しましたが、その関係は今でも続いていますか?

いや、“プレッジミュージック”とは今では縁が切れたよ。“プレッジミュージック”の創始者ベンジー・ロジャースはすごく良い奴だった。彼はミュージシャンの権利を守るためのプラットフォームとして、高い志をもって“プレッジミュージック”を始めたんだ。でも間もなくクラウドファンディングでアルバムを出すことが“クール”になって、ロビー・ウィリアムスが“プレッジミュージック”経由でアルバムを出したり、元レコード会社のA&Rが何人も雇われるようになった。そうして“プレッジミュージック”は仲間が集まる秘密のクラブでなく、どこにでもある営利企業になってしまったんだ。音楽そのものとリスナーが主役の筈だったのに、ビジネスメンが自分が主役だと思い込むようになった。楽しかったけど、どんなパーティーでも終わりが来るということだ。それでも俺は音楽をやり続けるし、それは誰にも止めることは出来ないけどね。幸い、日本市場では“ヴィニール・ジャンキー・レコーディングス”が最高にビューティフルな仕事をしてくれる。彼らが日本でワイルドハーツと俺のソロをプッシュしてくれるおかげで、俺は1年に2回も日本をツアーすることが出来るんだ。ザ・ワイルドハーツとしてのジャパン・ツアーはもちろん、年内には『ザ・ペシミスツ・コンパニオン』に伴う日本ツアーもやるつもりだよ。

●ザ・ワイルドハーツのライヴをまだ見たことがない音楽リスナーに、どのように説明しますか?

説明出来ない!ザ・ワイルドハーツのショーは常に予想不能だよ。俺たち自身、どんなライヴになるか想像出来ない。ただ言えるのは、今の俺は心身共に健康だし、ありったけの情熱を込めてベストなステージ・パフォーマンスを見せる努力をすることだ。“クラシック・ラインアップ”の4人にはマジックがある。錬金術があるんだ。

●どんな曲をライヴで演奏するでしょうか?

俺は『ルネサンス・メン』の全曲をライヴで演りたいぐらいなんだ。でも昔の曲を聴きたいファンもいるだろうし、新旧のバランスを取ったショーにするよ。ザ・ワイルドハーツは民主的なバンドだし、全員の意見を聞きながら演奏曲目を決めるんだ。まとめ役はリッチ(バターズビー/ドラムス)なんだよ。ダニー(マコーマック/ベース)がちゃんと弾ける曲、お客さんが知っている曲、ニュー・アルバムからの曲など、いろんなタイプの曲をプレイする。ただ、計算されたライヴにはしたくないんだ。次の瞬間、何が起こるか判らないショーになるだろう。ひとつ約束出来るのは、とにかくデカい音量をぶちかますライヴになるということだ。日本でプレイするのを最高に楽しみにしているよ。

【アルバム情報】

THE WiLDHEARTS(ザ・ワイルドハーツ)

タイトル : RENAISSANCE MEN(ルネサンス・メン)

現在発売中

Vinyl Junkie Recordings VJR- 3219

日本盤ボーナストラック収録、歌詞、対訳、解説付

日本公式レーベルサイト:http://vinyl-junkie.com/label/wildhearts/

【THE RENAISSANCE JAPAN TOUR 2019】

- 6月30日(日) 大阪 246 GABU

OPEN 18:30 / START 19:30

- 7月1日(月) 名古屋APOLLO BASE

OPEN 18:30 / START 19:30

- 7月2日(火) 東京 渋谷TSUTAYA O-EAST

OPEN 18:30 / START 19:30

主催・企画・制作:Vinyl Junkie Recordings

協力:クリエイティブマン

公演ウェブサイト

https://www.creativeman.co.jp/event/the-wildhearts19/

『THE RENAISSANCE JAPAN TOUR 2019』公演ポスター (Creativeman / Vinyl Junkie Recordings)
『THE RENAISSANCE JAPAN TOUR 2019』公演ポスター (Creativeman / Vinyl Junkie Recordings)

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音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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