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【ライヴ・レビュー】ミューテイション 2017年11月15日/東京・渋谷O-NEST

山崎智之音楽ライター
Mutation / photo by Akihiro Kinoshita

ジンジャー・ワイルドハート率いるエクストリーム・メタル・プロジェクト、ミューテイションが2017年11月に来日公演を行った。

2017年1月から2月にかけて行われたワイルドハーツとしての来日公演(+ソロ・アコースティック・ライヴ)では精神的に疲弊しているところを見せ、8月にも入院するなど、 ファンを心配させたが、10月下旬から11月初めのミューテイションのUKツアーを完遂して、日本に無事上陸。大阪、名古屋での公演を経て、東京2デイズのライヴが行われることになった。

東京公演初日。スペシャル・ゲスト、DISGUNDERにほどよく鼓膜を損傷させられ脳漿を攪拌された後、ジンジャー(ギター、ヴォーカル)、スコット・リー・アンドリューズ(ギター、ベース)、デンゼル(ドラムス)がステージに上がる。

『DARK BLACK』 (VINYL JUNKIE/2017:VJR-3213) 現在発売中
『DARK BLACK』 (VINYL JUNKIE/2017:VJR-3213) 現在発売中

“ギターはブルドーザー、ドラムスは地震。非人間的なまでにアグレッシヴでファックド・アップされた不適切な音楽”とジンジャーが表現するとおり、最新アルバム『ダーク・ブラック』の「オーセンティシティ」からいきなり爆裂。明らかに会場の規模と合わないデカさの轟音が観衆を襲う。

壁を触るとブルブルするほどの震動に精神が揺さぶられ凶暴化したのか、ワイルドハーツやソロなどのライヴの暖かいムードはなく、会場全体が殺気だって目を血走らせている。ミュージック・ビデオが作られた「ヘイト」「イリタント」なども(普段と較べて男性客が多いせいか?)「ヴオオオッ!」という怒号に近い声援で迎えられた。

そんな暴力性の波動は、ステージの上にも伝播していく。この日はスコットの演奏がベストといえるものではなく、ジンジャーは何度となく叱責の声を上げていた(スコット自身は公演後、“時差ボケとSTRONG ZEROのせい”と語っている)。しまいにはジンジャーがステージ上で「えー、ステージ上に糞ド素人がいる件についてー(意訳)」と非難、スコットが「あぁン?」と詰め寄るなど、不穏な空気が垂れ込めた。

(ジンジャーのソロ・バンドでもドラマーを務めるデンゼルは何事もなかったかのようにプレイを続けていた)

photo by Momoyo Tsuda
photo by Momoyo Tsuda

実際のところ、この日のライヴがジンジャーの言うほど酷かったわけでは決してなかった。確かにトチリはあったものの、激爆音の中ではそれどころではなかったことも事実。バンドは基本的にベースレスのギター×2+ドラムスという編成だが、ふと気付くとスコットがベースを弾いていたりする。目の前のアーティストが担当楽器を替えているのに気付かないなど通常あり得ないのだが、まあそれほどの大音量だったわけで、そんな状況下で少しばかりミスがあっても気にならないというものだ。

さらにいえば、PAからフィードバック・ノイズが盛大に出て耳をつんざくばかりだったが、筆者(山崎)はバンドの性質上、そういう“仕様”なのだと考えていた。

ステージ上で揉めたりしたあたりはちょっとどうかとも思えたものの、ラストの「デテリオレイション」まで1時間ちょっと、ちゃんと最後までやってくれたし、不満はなかったというのが本音のところだ。「29×ザ・ペイン」や「ジョーディ・イン・ワンダーランド」など“定番”のワイルドハーツ・ナンバーは演らないことが初めから判っていたし、楽しめるショーだった。

とはいえジンジャー自身はこの日のライヴを「過去最悪のショー」と一刀両断、終演後に予定されていたバンド全員のファンとの打ち上げにも1人だけ欠席。同日夜にツイッターで「東京のみんな、今晩の演奏については申し訳ない。アルコールを飲むべきでない人間がいるものだ。バンド仲間のパフォーマンスについては大変恥ずかしく思っている」と謝罪した。

だが、きわめて良い意味で豹変するのがジンジャーの凄いところだ。東京初日がこの荒れぶりで、開催すら危ぶまれた2日目の公演だが、無事行われたばかりか、見事にリカバリー。たいへん素晴らしいものだったという。筆者はその日、新木場スタジオコーストにテンプルズのライヴを見に行ったので、見られない悔しさに臍を噛むばかりであった(テンプルズも素晴らしかったのであるが)。

ジンジャーの豹変ぶりはそれに留まることなく、まだ1年も経たない前に「お前なんぞが“ワイルドハート”を名乗るんじゃねえ」と公にディスしていたCJワイルドハートと再合体。12月には仲良くアコースティック・デュオとしてワイルドハーツ名義でイギリスをツアーすることが発表されている。

さらに2018年5月にはリーフ、テラーヴィジョン、ワイルドハーツの3バンドでの“ブリットロック・マスト・ビー・デストロイド”UKツアーも予定。ソロとしてもアルバム『ゴースト・イン・ザ・タングルウッド』をリリースするなど、相変わらずのハード・ワーキングぶりだ。

自分自身を追い詰める傾向のあるジンジャーだが、ファンが望むのは、彼がハッピーであり続け、その音楽でハッピーにしてくれることだ。2018年もジンジャー・ワイルドハートの活動を楽しみにしたい。

当日アーティストの足下に置かれたセットリスト
当日アーティストの足下に置かれたセットリスト

【ミューテイション アルバム3作 発売中】

- 『DARK BLACK』 (VINYL JUNKIE/2017:VJR-3213)

- 『ERROR 500-REMASTERED-』 (VINYL JUNKIE/2017:VJR-3212)

- 『THE FRANKENSTEIN EFFECT-REMASTERED-』 (VINYL JUNKIE/2017:VJR-3211)

レーベル公式サイト:Vinyl Junkie Recordings

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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