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【ライヴ・レビュー】ザ・ワイルドハーツ/2018年7月“TOKYO 2018”

山崎智之音楽ライター
THE WiLDHEARTS photo by NAOKI TAMURA

2018年7月、ザ・ワイルドハーツが日本公演を行った。

2017年11月には別プロジェクトのミューテイション、2018年4月にはソロ・アーティストとして来日するなど、ジンジャー・ワイルドハートは頻繁に日本のステージに立ってきた。ザ・ワイルドハーツとしてのライヴは彼にとって約3ヶ月ぶりという、ほとんど間を置かない再上陸。東京オンリーながらバンド形式で2公演、ジンジャーとCJのアコースティック・デュオ形式で2公演という、ワイルドハーツ漬けの至福の4日間だった。今回、地方公演はなかったが、ちょっと早めの夏休みを取ったのか、日本全国から集まってきたファンの熱気で各会場ははち切れんばかりだった。

東京4デイズの全公演が異なるライヴ会場で行われるという趣向もまた、それぞれのショーを鮮度の高いものにしていた。

THE WiLDHEARTS photo by NAOKI TAMURA
THE WiLDHEARTS photo by NAOKI TAMURA

<TOKYO 2018 (Classic Lineup)>

- 7月4日(水)渋谷TSUTAYA O-EAST

- 7月5日(木)渋谷WOMB

5月、“ブリットロック・マスト・ビー・デストロイド”UKツアーに参戦したワイルドハーツ。1990年代イギリスの“ブリットロック”を代表するリーフ、テラーヴィジョン、ドッジー(ドッジーのみ若干毛色が異なるが)とのパッケージ・ツアーから雪崩れ込む形で日本上陸を果たすことになった。

今回のメンバー構成はジンジャー(ヴォーカル、ギター)に加えてCJ(ギター、ヴォーカル)、リッチ・バターズビー(ドラムス)、そしてダニー・マコーマック(ベース、ヴォーカル)という“クラシック・ラインアップ”だ。

「このバンドで最高の音を出せるのはこの4人だと断言出来るベスト・ラインアップ」とジンジャーが語る布陣であり、ダニーにとって久々の来日となる。片脚を膝下から切断したというニュースに多くのファンが心を痛めたが、人なつっこいダニー・スマイルは健在だ。彼は序盤のみ立って演奏、それから椅子に座って全編プレイしていた。

Danny McCormack photo by NAOKI TAMURA
Danny McCormack photo by NAOKI TAMURA

「みんながお馴染みの、ワイルドハーツの音楽のセレブレーションをする」とジンジャーが宣言していたとおり、この2公演は全曲ワイルドハーツ・クラシックスの連打に次ぐ連打だ。

バンドの4人がステージに上がり、「シック・オブ・ドラッグス」のイントロが奏でられると、場内は早くも沸点に達する。ライヴへの期待を高めるイントロから、一気にコーラスが炸裂。日本のファンの熱狂には慣れている筈のジンジャーだが、一瞬驚いたような表情を浮かべ、それはすぐにスマイルに変わる。

「TVタン」「マイ・ベイビー・イズ・ア・ヘッドファック」「サッカーパンチ」「カフェイン・ボム」と、名曲の数々が惜しげもなく披露されるショー。バンドの音楽には、1990年代を共に過ごしたファンはもちろん、おそらくその頃まだ生まれていなかったリスナーすらも魅了するタイムレスなマジックがある。

この2公演では、ジンジャーのステージMCは少なめだ。だがそれは決してご機嫌斜めというわけではなく、持ち時間で可能な限り多くの曲をプレイするためだったと思われる。

バンドの歴史がこの曲から始まった「ナッシング・エヴァー・チェンジス・バット・マイ・シューズ」(1992)から最初の活動休止からの再始動を彩った「ヴァニラ・レディオ」(2002)まで、新旧取り混ぜたライヴはノンストップで突っ走る。そんな中でひときわ大きな声援が沸き起こったのは久しぶりとなる「レッド・ライト・グリーン・ライト」、そしてダニーの歌う「アンセム」だった。ラフでパンキッシュな彼のヴォーカルが戻るべきところに戻ってきたことを、日本のファンは温かく迎え入れていた。

CJ Wildheart & Ginger Wildheart photo by NAOKI TAMURA
CJ Wildheart & Ginger Wildheart photo by NAOKI TAMURA

昨年、SNS上で揉めたこともあったジンジャーとCJだが、2人は最高の音楽的スパーリング・パートナーであり、そのギターとヴォーカルの押し引きの妙味はワイルドハーツの魅力のひとつだ。流麗なハーモニーなどは望むべくもないが、ゴツゴツとした個性のぶつかり合いはバンドのサウンドに鋭いエッジをもたらしている。

本編ラスト「ラヴ・ユー・ティル・アイ・ドント」でいったんステージを下りた彼らだが、すぐに戻ってきてアンコールに応える。「グリーティングス・フロム・シッツヴィル」に続いて、ファンの意表を突いたのが「ザ・レヴォリューション・ウィル・ビー・テレヴァイズド」だ。1990年代のグレイテスト・ヒッツを中心とした今回のステージにおいて、『ザ・ワイルドハーツ2007』(2007)からのこのナンバーは若干のサプライズ感を伴っていたが、もちろん文句があろうわけがない。観客はイントロですぐに察知し、「おおっ」というどよめきでこの曲を迎えた。

若き日のジンジャーが敬愛したアーティスト達を引用する「29xザ・ペイン」は長年ファンに愛され、歌われてきたが、今回もシンガロングが会場全体を包み込む。リッチが復帰したことで、彼の歌う終盤パート(通称「ダック・ソング」)が復活するか?...と期待させたが、それは実現しなかった。

「アイ・ワナ・ゴー・ホェア・ザ・ピープル・ゴー」は1995年の初来日公演以来、常にファンのハートに深く刻み込まれてきたナンバーだ。ジンジャーが「自動的に書かれてしまった、完成された曲」と表現するこの曲はもはやワイルドハーツのライヴにおいて不可欠な存在であり、まさにショーのクライマックスだった。

Rich Battersby photo by NAOKI TAMURA
Rich Battersby photo by NAOKI TAMURA

初日の渋谷TSUTAYA O-EASTから歩いて数分、渋谷WOMBで2日目の公演は行われた。

洋楽ロックで使われることは決して多くないものの、ステージの位置が高く、場内のどこでも見やすいこの会場。ジンジャーは2016年4月、ソロとして2デイズ公演を行ったことがある。

今回のバンド形式の2公演の演奏曲目は、基本的に固定されたものだった。ただ中盤、当初「レッド・ライト・グリーン・ライト」が演奏される筈のところで「ウィークエンド」がプレイされたのは、イントロのアルペジオが似ているため、つい間違ってしまった?...のかも知れない。

もちろん、この日もワイルドハーツは全力投球。2日間、甲乙つけがたい極上のロックンロール・ショーを披露してくれた。

Ginger Wildheart photo by NAOKI TAMURA
Ginger Wildheart photo by NAOKI TAMURA

2日間のライヴをさらに最高に楽しいものにしてくれたのが、両公演のサポート・アクトだ。

初日に出演した流血ブリザードは2017年1月のワイルドハーツ公演、11月のミューテイション公演、そして今回と、ワイルドハーツ・ファンにすっかりお馴染みのバンドだ。ハードでパンキッシュでありながらフックのあるロックンロール、白塗り・スパイキーヘアなどのヴィジュアル性、尻出し・ラブドールなどのパフォーマンス、ネタ感満載のMCなど、出し惜しみのないステージはいつもながら鮮烈なインパクトを持つもので、ワールドカップへのディスりを導入部とする「I HATE SPORTS」やバンド自らのヲタ芸をフィーチュアした「I (ハート) ME」など、ポップでスカムな異形の世界観を醸し出していた。

2日目のサポート・アクトは名古屋のVANISHINGだ。豊かな毛髪と細身の身体から生み出されるサウンドは筋肉がブチブチ音を立ててブチ切れる強靱なもので、モーターヘッドの「エース・オブ・スペイズ」を含むメタリックでハードコアなサウンド(そして何故かスウィートなMC)は、またライヴを見たい!と思わせるものだった。

流血ブリザード photo by NAOKI TAMURA
流血ブリザード photo by NAOKI TAMURA
VANISHING photo by NAOKI TAMURA
VANISHING photo by NAOKI TAMURA

<TOKYO 2018 EXTRA: THE WILDHEARTS ACOUSTIC>

- 7月6日(金)四ッ谷OUTBREAK

- 7月7日(土)大塚HEARTS+

東京4デイズの後半戦2公演は、ジンジャーとCJのデュオによるアコースティック・ライヴ。バンド形式のショーがきっちりタイトに曲を聴かせるものだったのに対し、こちらはいつ何が飛び出すか判らない、ドキドキしながら楽しめるステージだった。

前半2公演が文句なしのベスト・オブ・ザ・ワイルドハーツだったのに対し、後半2公演のアコースティック・ライヴはかなり異なった構成となった。

まずは前半2公演を補完するナンバーだ。名曲の宝庫であるワイルドハーツゆえ、「あの曲も聴きたかった!」というクラシックスは枚挙に暇がない。4月のソロ・アコースティック公演以来となる四ッ谷OUTBREAKでのライヴは「トップ・オブ・ザ・ワールド」「サムワン・ザット・ウォント・レット・ミー・ゴー」「ユー・トゥック・ザ・サンシャイン・フロム・ニューヨーク」という、21世紀ワイルドハーツを代表する3曲で始まった。大塚HEARTS+でも「ストーミー・イン・ザ・ノース、カルマ・イン・ザ・サウス」を1曲目に持ってくるなど、バンド形式のショーと一味違った選曲で攻めてきた。

ライヴ前に意外と(?)きっちりセットリストは組んでいたものの、その場のノリでカヴァー曲が加わっていくのも楽しい趣向だ。サイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」やクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」、CJが1990年代後半に組んでいたハニークラックの「シッティング・アット・ホーム」などが次々と飛び出す。後者は必ずしも難曲ではないものの、ジンジャーがハニークラックの曲を!...と驚きの声も上がった。

THE WiLDHEARTS acoustic photo by NAOKI TAMURA
THE WiLDHEARTS acoustic photo by NAOKI TAMURA

おそらくYahoo!ニュース的にはNGワードであろう日本語が飛び交い、ジンジャー「ドラムのTAMAって睾丸って意味なの?じゃPearlは?」 CJ「pearl necklace(=胸射)じゃね?」 という下ネタコントも繰り広げられるなど、会場内には笑いが絶えなかった。

なおジンジャーがデヴィッド・シルヴィアンの声真似をしながらジャパンの「ゴースツ」を歌う一幕もあったが、彼は実は2014年の時点で「デヴィッド・シルヴィアンの物真似も出来るようになった。日本のショーでリクエストがあればやるよ」と筆者(山崎)との取材で語っていたので、4年越しで実現したことになる。

そして新曲もアコースティック・ヴァージョンで披露された。「Little Flower」「The Fine Art Of Deception」「Emergency」と題された3曲はワイルドハーツの新作アルバム『Renaissance Men(仮題)』に収録されると思われる。アルバムへの期待が高まるのと同時に将来、バンド編成での日本公演でこれらの曲がプレイされるのが楽しみでならない。

アコースティック2公演でスペシャル・ゲストとして出演したのは、イギリスの4人組マジック・ナンバーズだ。2006年にはフランツ・フェルディナンドのサポートとして日本武道館のステージに立ったこともある彼らは、約4年ぶりとなるアルバム『アウトサイダーズ』を引っ提げての来日では、じんわり心に染み入る、虚飾の入り込む隙のないソングライティングで魅了してくれた。

THE MAGIC NUMBERS photo by NAOKI TAMURA
THE MAGIC NUMBERS photo by NAOKI TAMURA

東京4公演を成功に収めたワイルドハーツは無事帰途に着いた。

ジンジャーはソロ・アコースティック編成でのレヴェラーズとのUKツアーを途中離脱するなど、ファンを心配させたが、無事リカバリーしたようで、元気にワイルドハーツとしてのライヴを行っている。

「精神的に辛いときはいつも日本に行くようにしている」と常々語っているジンジャーだが、それがリップサービスでないことは、ステージ上の彼のスマイルからも明らかだ。それと同様に、彼の音楽もまた、我々にスリルと興奮、そして幸せをもたらしてくれる。

次回ははたして、どんなバンド/プロジェクトになるか。ジンジャー・ワイルドハートの次の来日が早くも待ち遠しい。

=Special thanks to Vinyl Junkie Recordings=

Ginger Wildheart photo by NAOKI TAMURA
Ginger Wildheart photo by NAOKI TAMURA
音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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