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豆まきの豆による窒息を予防する-あらためて考える「放送ガイドライン」

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
(写真:イメージマート)

 本日2022年2月3日は節分である。例年この時期になると豆による子どもの気道異物や窒息に関する問い合わせや取材依頼があり、筆者自身もこのYahoo!ニュース(個人)に記事を書いている。

 今年は例年以上に多くのメディアにより「節分の豆まきで豆をまき、それを子どもが口に入れることの危険性」に関する発信が行なわれている。消費者庁が「5歳以下には食べさせないで!」というメッセージを出したことも影響しているだろう。NHKも2月2日に下記の記事を配信している。

節分を前に“5歳以下には堅い豆など食べさせないで” 消費者庁

                  NHK 2022年2月2日 18時20分

 そのNHKで、本日以下のニュースが放送された。いずれも、「教育・保育施設における節分行事で」「未就学の子どもたちが」「豆をそのまままく」様子が紹介されている。中には鬼を怖がって号泣している子どもも映し出されていた。

節分 豆まきで園児が鬼退治 嘉島町(NHK 熊本)

幼稚園で子どもたちが節分の豆まき 田野町(NHK 高知)

きょうは節分 幼稚園児が元気いっぱい豆まき 徳島(NHK 徳島)

 豆が詰まって窒息する状況として多いのは、子どもが鬼を怖がって号泣し、泣き切った後「スーッ」と大きくしゃくり上げる(息を吸い込む)時である。奇しくも節分は「豆」と「鬼」、そして「恐怖」、「号泣」という乳幼児にとって危険性の高い要素が揃った行事である。行事そのものに罪はなく、小学生以上の子どもや一般成人がこの行事を楽しむことには何の問題もないが、未就学の子どもには「窒息」という命にかかわる傷害の可能性があることを多くの人に知っていただきたい。実際に2020年2月3日、松江市のこども園で行われた豆まきで4歳児が窒息死している。

 公共放送は言うまでもなく視聴者に大きな影響を与える。NHKで紹介されていることは社会で認められていること、と受け止める人も多いだろう。だからこそ、NHKには放送内容を厳密にチェックし、不適切な映像は排除していただきたい。同じ放送局の一方では「5歳以下の子どもには豆を食べさせないで!」と消費者庁のメッセージを紹介し、もう一方では教育・保育施設で行われている行事を、楽しくて、地域の活性化につながるポジティブな報道として紹介するのは矛盾している。

 筆者は2021年6月9日に、「大粒のぶどうによる窒息を予防する その13 - 放送ガイドラインについて考える -」と題する記事を出した。

 この記事の一部を再掲する。

◆NHK放送ガイドライン2020

 (略)

NHKには「放送ガイドライン2020」がある。これはテレビ放送のインターネットでの常時同時配信・見逃し配信の開始を前に、従来の「インターネットガイドライン」を統合し、放送とインターネットサービスでの情報発信について共通の指針としてまとめたもので、18の章と資料編で構成されている。

 第1章は「自主・自律の堅持」、第2章は「放送の基本的な姿勢」として、正確、公平・公正、人権の尊重、品位と節度について記している。

 63ページもあるガイドラインで、今回のことに関連した記述があるかをチェックしてみたが見当たらなかった。11章の「事件・事故」を見ると、「①犯罪報道の意義」として、「安全で秩序ある社会の実現に寄与することにある。社会にどんな危険が存在しているのかを伝えることで、視聴者が危険を回避することが可能になる。また、法の不備や捜査当局・行政の対応の遅れが被害を拡大させている場合もあり、報道によって法の整備や捜査当局などの取り組みを促す効果も期待できる」と書かれている。

◆傷害予防を前提としたガイドラインが必要だ

 メディアが社会の公器であるならば、社会として決めた規則に従っていない場合は、その事実をそのまま報道する必要がある。アメリカでは、子どもが自動車に乗るシーンがある場合は、チャイルドシートを使用しているか否かをチェックしていると聞いた。

 (略)

 ミニトマトや大粒のぶどうを食べるシーンがある場合には、「食べさせる時には4つに切って与えてください」というテロップを入れる。口に入るようなものを放り上げて、口で受けるようなシーンや、早食いのシーンは禁止する。

 繰り返しになるが、NHKは「放送ガイドライン」を見直し、制作の時点からその内容が「安全で秩序ある社会の実現に寄与する」かどうかをよく考えてニュースなり番組なりを作ってもらいたいと強く要望する。

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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