2020年9月7日、東京都八王子市の私立幼稚園で、4歳男児が給食に出されたぶどうをのどに詰まらせて死亡した。あれから9か月が経過し、多くの人は忘れ去っている。

 「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン【事故防止のための取組み】」に「給食での使用を避ける食材」(「誤嚥・窒息事故防止マニュアル〜安全に食べるためには〜」浦安市作成)と明記されているにもかかわらず、ピオーネが出されて死亡した。この事実によって、ガイドラインは、教育・保育の現場に十分には伝わっていないことが明らかになった。このマニュアルでは、ミニトマトもぶどうと同じところに列記されている。

最近のニュースとその後の経過

 先日、Safe Kids Japan事務局の太田 由紀枝さんから、5月下旬にNHKの各地の放送局からのニュースで、米子市の保育園児が園外保育でミニトマトの収穫体験をしたニュースを見たことと、その後の経過について報告があった。そのニュースでは、園児が収穫したミニトマトを丸ごと口に入れるシーンがあったので驚いた、とのことである。というのも、2020年2月に松江市のこども園で節分の豆による窒息死亡事故が起きており、米子市と松江市は県こそ異なるが隣町と言っても差し支えないくらいの距離、それなのに保育園でこのようなことをしているのか・・・と愕然としたそうである。

 太田さんがこのことをFacebookに書いたところ、それを見た「子どもの事故予防地方議員連盟」の矢口 まゆ町田市議会議員が、米子市の「市長にひとこと」から市長宛にメールを送られた。すると翌日、担当課から下記のメールが矢口議員に送られてきたとのことだ。メールを一部抜粋して紹介する。

 ご指摘いただきました保育所給食等におけるミニトマト等の誤嚥を引き起こしやすい食材の提供方法につきましては、本市では内閣府の『教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン』に基づき、食材をカットして提供しております。この度、園外で実施したミニトマト収穫体験につきましては、園児が口に入れたミニトマトがカットされていなかったことから、保育士による事故予防への配慮が十分ではなかったと反省しております。

 今回のように園外で実施する食材の収穫体験においても、今後はガイドラインに基づき対応するよう周知するとともに、改めて保育所給食等におけるガイドラインの遵守を徹底してまいります。

 Safe Kids Japanも過去に何度も同様のメールを行政に送っているが、多くの場合は無視されるか、「これまでも取り組んでいます。ご指摘ありがとうございました」という紋切り型の回答が返ってくるだけであったが、今回は国のガイドラインがあるために、このような率直な回答になったのではないか。何か気づいたらすぐに行動する必要性、ならびに公的なガイドラインの必要性を再認識することができた。

メディアの対応を振り返ってみると

 ぶどうによる窒息死が発生した翌日の2020年9月8日午前11時にNHKの記者から問い合わせがあり、私は事故の発生を知った。以後、各メディアから問い合わせが相次いだ。9月10日の昼には、ある放送局の育児番組のプロデューサーから「緊急の用件です」という電話がかかってきて、「家では保護者が見ているから(ぶどうを)切らなくてもいいですよね」と確認を求められ、びっくりし、そしてあきれてしまった。放送した番組の中にぶどうを丸ごと食べさせるシーンがあり、視聴者から「危険ではないか」と問い合わせがあり、それで慌てて電話してきたのだ。育児番組の担当者も、大粒のぶどうやミニトマトの危険性を知らない。保護者がそばで見守っていても、下記の事例のように窒息を防ぐことはできないのである。

事例:1歳6か月男児。父親が種なしの巨峰の皮をむき、丸ごと1個を児の目の前の皿に置いた。父親の目の前で、児が自分でぶどうを手に取って口に入れたところ、直後に、顔面蒼白、口唇チアノーゼをきたし、救急車で病院に搬送された。約3か月後に死亡した。(日本小児科学会「Injury Alert」No.0049 ブドウの誤嚥による窒息:事例2

 私自身は以下のような例を経験し、以後、お皿の上にミニトマトが出てくると、いつも思い出してしまう。

事例:1歳11カ月の男児。夕方、家の裏の畑でお母さんがミニトマトを採るのについていった。まだ青いミニトマトを口に入れていたところ急に苦しみ出した。すぐに救急車を呼び、近所の医院を経て、私のいた病院に来た。来院時、心臓は停止し、呼吸もなかった。各種の治療を行ったが、18日目に死亡した。(1986年10月、自験例)(ブドウの皮をむいてあげた父親の目の前で…乳幼児の窒息死 「柔軟な球形」が危ない | ヨミドクター 2020年9月15日)

 今回の保育所のニュースと似たような状況では、以下のような死亡例が発生している。

事例:1歳の女児。静岡県の保育所の園庭にある滑り台から下りてきて、急に苦しみ出した。園庭では、保育士7人と実習生3人の10人で、女児を含む3歳以下の園児30人を遊ばせていた。職員が119番し、ドクターヘリで病院に搬送されたが、まもなく死亡した。のどから直径約2センチメートルのミニトマトが見つかった。園庭では、ミニトマトを栽培していた。(2006年7月)

NHK放送ガイドライン2020

 今回太田さんが見たニュースは、NHK鳥取放送局が制作したものだ。NHKには「放送ガイドライン2020」がある。これはテレビ放送のインターネットでの常時同時配信・見逃し配信の開始を前に、従来の「インターネットガイドライン」を統合し、放送とインターネットサービスでの情報発信について共通の指針としてまとめたもので、18の章と資料編で構成されている。

 第1章は「自主・自律の堅持」、第2章は「放送の基本的な姿勢」として、正確、公平・公正、人権の尊重、品位と節度について記している。

 63ページもあるガイドラインで、今回のことに関連した記述があるかをチェックしてみたが見当たらなかった。11章の「事件・事故」を見ると、「①犯罪報道の意義」として、「安全で秩序ある社会の実現に寄与することにある。社会にどんな危険が存在しているのかを伝えることで、視聴者が危険を回避することが可能になる。また、法の不備や捜査当局・行政の対応の遅れが被害を拡大させている場合もあり、報道によって法の整備や捜査当局などの取り組みを促す効果も期待できる」と書かれている。

傷害予防を前提としたガイドラインが必要だ

 メディアが社会の公器であるならば、社会として決めた規則に従っていない場合は、その事実をそのまま報道する必要がある。アメリカでは、子どもが自動車に乗るシーンがある場合は、チャイルドシートを使用しているか否かをチェックしていると聞いた。

 乳幼児の事故死で多いのは、交通事故、窒息、溺水である。乳児では、睡眠中の突然死が多い。赤ちゃんを寝かせているシーンがある場合には、うつぶせ寝の映像は禁止する。乳児用ベッドの中に、ぬいぐるみなどが入った映像は禁止する。アメリカでは2021年2月、室内用フィットネスバイクのテレビCMの中に、枕やぬいぐるみが置かれた乳児用ベッドに赤ちゃんが寝ているシーンがあり、それを見た市民がそのCMの取り下げを求めるキャンペーンを行った。その後、企業側は取り下げに応じている。

 ミニトマトや大粒のぶどうを食べるシーンがある場合には、「食べさせる時には4つに切って与えてください」というテロップを入れる。口に入るようなものを放り上げて、口で受けるようなシーンや、早食いのシーンは禁止する。

 溺水の場合は、ライフジャケットを着用していたかどうかを記載する。交通事故では、6歳未満児に義務化されているチャイルドシートについての情報を必ず記載する。

事例:3歳男児。2021年5月29日午後9時頃、三島市の国道1号線で乗用車同士が衝突し、一家5人が重軽傷を負った。3歳の次男は車外に投げ出されて頭蓋骨を骨折し、意識不明の重体。衝突事故で一家4人けが 3歳の男児が重体 静岡・三島市の国道1号(静岡朝日テレビ - Yahoo!ニュース 2021年5月30日)

 このような記事をよく見るが、車外に投げ出されたということは、義務化されているチャイルドシートを使用していなかった、あるいは、チャイルドシートの装着が不適切で子どもの身体を保持する機能が働かなかったか、のどちらかである。記事として、「3歳の次男は、チャイルドシートを使用していなかったため車外に投げ出され」と書けば、チャイルドシートを使用する必要性、重要性を読者に示すことができる。また、警察も交通事故の発表時に、法制化されている事項については、その使用状況の有無を指摘する必要がある。

 これらを包括したような文章を作成して放送ガイドラインの中に入れていただきたい。今回の指摘は、子どもの安全のための「モグラたたき」の一つにしかならないが、たたき続けることが私の役割と考えている。