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ライドシェアのドライバーはどんな人? 加賀で「Uber」始まる

山口健太ITジャーナリスト
Uberと組んだ「加賀市版ライドシェア」が始まった(筆者撮影)

3月12日、石川県加賀市で「加賀市版ライドシェア」の本格運行が始まりました。北陸新幹線の延伸で増加する観光需要や、令和6年能登半島地震の災害復興などに活用されることが期待されています。

ところで、実際にライドシェアのドライバーとして働くのはどんな人なのでしょうか。実際に現地に行って話を聞いてみました。

「加賀市版ライドシェア」には70名以上が応募

日本国内のライドシェアはこれまで過疎地などに限られていたものの、2023年12月の規制緩和に対応した「自治体ライドシェア」が全国で始まっています(4月に一部解禁される「日本版ライドシェア」とは別の仕組み)。

3月12日に始まった加賀市では、「加賀市観光交流機構」が実施主体となり、運行管理は地元のタクシー会社である「加賀第一交通」、アプリによる配車や決済のシステムは「Uber」が担う形です。

利用者がUberのアプリを開くと、「タクシー」か「加賀ライドシェア」を選んで配車を依頼できます。運賃はライドシェアのほうが安く、規制緩和を利用してタクシー運賃の8割に設定されています。

Uberのアプリから「タクシー」か「加賀ライドシェア」を選択できる。運賃はライドシェアのほうが安い(アプリ画面はUber Japanによるもの、筆者撮影)
Uberのアプリから「タクシー」か「加賀ライドシェア」を選択できる。運賃はライドシェアのほうが安い(アプリ画面はUber Japanによるもの、筆者撮影)

乗客向け、ドライバー向けのアプリ画面を紹介するUber Japan代表の山中志郎氏(筆者撮影)
乗客向け、ドライバー向けのアプリ画面を紹介するUber Japan代表の山中志郎氏(筆者撮影)

加賀温泉駅に設置されたUber専用乗り場。タクシー乗り場からは少し離れている(筆者撮影)
加賀温泉駅に設置されたUber専用乗り場。タクシー乗り場からは少し離れている(筆者撮影)

ただ、単にアプリが対応しても、ドライバーがいなければ意味がありません。ライドシェアへの懐疑的な見方としても、「本当にドライバーが集まるのか」という声があります。

その点、加賀市版ライドシェアには、加賀市に住む70名以上の応募があったとのこと。運行管理を担う加賀第一交通による選考や研修を経て、3月12日には14名が運行できる体制になっていました。

規制緩和により、ライドシェアのドライバーはタクシー運転手に求められる普通二種免許は不要で、車両は自家用車を利用可能。運行車両数はタクシーと同程度の50台を想定しているといいます。

実際にライドシェアのドライバーとして働くのはどんな人なのでしょうか。加賀温泉郷の1つである山代温泉で蕎麦屋を営む夫妻に、話を聞くことができました。

山代温泉で「手打ちそば 加賀上杉」を営む石川智規さん・石川葵さん夫妻(筆者撮影)
山代温泉で「手打ちそば 加賀上杉」を営む石川智規さん・石川葵さん夫妻(筆者撮影)

お店は週5日、お昼の時間帯に営業しており、時間には比較的余裕があるそうですが、早朝から蕎麦を打つ仕事があるなど決して楽な仕事ではないとのこと。あくまで余裕があるときだけ、Uberで働くつもりなのだそうです。

ドライバーとしてクルマを走らせる前には点呼やアルコールチェックが必要となっているものの、これはビデオ通話でOKとのこと。好きな時間に、思い立ったらすぐドライバーとして働ける仕組みが用意されているようです。外国人客の利用も予想されますが、お店での接客で経験しており英語なら対応できるといいます。

収入面はどうでしょうか。ドライバーとしての報酬は売上の7割となっていますが、副業を探していたわけではないとのこと。「加賀市で生まれ育ったこともあり、観光産業に貢献したい。1日10組くらいのお客様を乗せられたら」(石川智規さん)、「海外でライドシェアを利用した経験から、加賀を訪れた人にも使ってほしいと思い、ボランティアのような気持ちで興味を持った」(石川葵さん)と語っています。

Uberによれば、ドライバーとして応募した人の多くは本業を持っており、Uber専業という人はほとんどいないとのこと。そういう意味では、本業が忙しくなればライドシェアに割く時間を取れなくなる可能性があります。それを含めて、あくまでタクシーを補完するのが加賀市におけるライドシェアの位置付けのようです。

その上で、所定の研修を受けておけば好きな時間に働けることや、必ずしも報酬ばかりが目当てではない人など、多種多様なドライバーの参加によって地域の移動需要を補完していくことがライドシェアの魅力といえそうです。

地元は新幹線延伸に期待

3月16日には北陸新幹線の金沢・敦賀間が開業します。地元では「100年に1度の好機」と話題になっているとのこと。その区間に含まれる加賀温泉駅でも、開業に向けた準備が進んでいました。

北陸新幹線の金沢・敦賀間開業が大きな話題になっている(金沢駅にて、筆者撮影)
北陸新幹線の金沢・敦賀間開業が大きな話題になっている(金沢駅にて、筆者撮影)

加賀温泉駅の新幹線乗り場も準備が進められているようだ(筆者撮影)
加賀温泉駅の新幹線乗り場も準備が進められているようだ(筆者撮影)

加賀市ではもともとタクシー不足が深刻化する状況にあったそうですが、新幹線の延伸による観光客の増加が拍車をかけると予想されています。そこで期待されているのがライドシェアだといいます。

加賀市長の宮元陸氏は、「二次交通が不便だからといって観光客が二の足を踏むのは大変なマイナスイメージになる。新幹線開業の効果を最大限に活かすためにも、ぜひライドシェアを採り入れていこうとなった」と導入の経緯を語っています。

本格運行開始のイベントに登壇した、加賀市長の宮元陸氏。北陸新幹線の延伸は100年に1度の好機だと語る(筆者撮影)
本格運行開始のイベントに登壇した、加賀市長の宮元陸氏。北陸新幹線の延伸は100年に1度の好機だと語る(筆者撮影)

能登半島で元日に発生した地震の影響がまだ続いている中で、地元では旅行代金の最大50%を割り引く「北陸応援割」への期待も高まっているとのこと。加賀を訪れる機会があれば、Uberのアプリを開いてみるとよさそうです。

加賀温泉駅には、英語でUberが使えることをアピールする広告もあった(筆者撮影)
加賀温泉駅には、英語でUberが使えることをアピールする広告もあった(筆者撮影)

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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