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メルカリのスポットワーク「1時間から働ける」「引き抜きOK」でタイミー対抗か

山口健太ITジャーナリスト
メルカリ ハロの発表会(メルカリ提供動画より)

3月6日、メルカリのスポットワーク「メルカリ ハロ」のサービス提供が始まりました。まずは1都3県の求人が掲載されています。

最短1時間から働くことが可能で、給与は即日振り込まれる仕組み。長期雇用への転換など引き抜きもOKとしており、先行するライバルに対抗する構えです。

大手事業者で最短1時間から働ける

メルカリは2023年11月にスポットワーク事業への参入を発表していました。今回、サービス開始にあたって発表会を開き、詳細を明らかにしています。

本日以降、メルカリのアプリには「はたらく」タブが順次展開されます。メルカリ ハロの専用アプリ(iOS用Android用)を入れることでも、求人情報にアクセスできるようになっています。

スポットワークの課題としては「登録が難しそう」といった声が多いとのことから、すでにメルカリで本人確認や銀行口座の登録をしている人であれば、すぐにメルカリ ハロを始められる仕組みとしています。

実際に働くにあたって、面接や履歴書は不要。勤務先事業者との雇用契約となっており、派遣や業務委託ではありません。給与や勤務時間の詳細は「労働条件通知書」を確認できるとのことです。

働き終えた後は、すぐに給与の振り込みを申請できます。トラブルを防ぐため手渡しはできないとのこと。実際には給与をメルカリ側が立て替えて支払うような仕組みとしています。

なお、将来的にはスマホ決済「メルペイ」での給与受け取りを構想として掲げているものの、「給与デジタル払い」を利用するための厚労省への申請は準備中としており、当面は銀行振込になりそうです。

事業者に対するメルカリ側の手数料は給与と交通費の30%(当面はキャンペーンで0%)とのこと。なお、給与の振込手数料はかからないなど、働く側(クルー)に手数料の負担はない仕組みとしています。

求人を出す事業者のパートナーは、コンビニ、飲食・カフェ、アパレル・小売、物流・倉庫、ドラッグストア、ホテル、ジムなど。まずは1都3県の店舗から始まり、全国4万か所以上の店舗に順次拡大する予定としています。

メルカリ ハロに求人を出すパートナー事業者の例(メルカリ提供資料より)
メルカリ ハロに求人を出すパートナー事業者の例(メルカリ提供資料より)

具体的な働き方としては、「喫茶室ルノアール」で子どもが学校に通っている間に2時間だけ働く主婦や、「日本郵便」においてフリマで扱いに慣れた郵便物の仕分けをする就活生、「chocoZAP(チョコザップ)」で清掃やチラシのポスティングの仕事をした後、ジムで運動もする会社員といった例を挙げています。

実際にアプリを見てみたところ、3月6日の正午時点で応募できそうな仕事として、3月7日午後に都内の喫茶室ルノアールや串カツ田中、ローソンで働ける仕事が掲載されていました。

メルカリ ハロに掲載された求人の例(アプリ画面より)
メルカリ ハロに掲載された求人の例(アプリ画面より)

メルカリ側は「だれでも・すぐに・かんたんに」「お買い物感覚で働ける」といったコンセプトを強調しているものの、労働者保護の仕組みはどうなっているのでしょうか。

求人を出す事業者についてはメルカリによる審査があり、不適切な事業者は利用できない仕組みがあるほか、求人内容の監視や問い合わせ窓口をあわせて運用していくとしています。

社会保険については、原則として加入義務が発生しない範囲内での求人を取り扱うとの説明があります。これは他のスポットワークのサービスと似ている印象です。

応募した仕事をキャンセルした場合、タイミングによっては一定期間求人に応募できなくなるといったペナルティが設けられているとのこと。また、評価の仕組みを今後作っていく予定としてます。

スポットワーク事業について、数値目標などは開示していないとのことですが、「マーケットリーダーを目指して高い目標を掲げている」(メルカリ執行役員 CEO Workの太田麻未氏)として、先行するライバルに対抗していく姿勢を示しています。

発表会のプレゼンテーション後、質疑応答に登壇したメルカリ執行役員 CEO Workの太田麻未氏(メルカリ提供動画より)
発表会のプレゼンテーション後、質疑応答に登壇したメルカリ執行役員 CEO Workの太田麻未氏(メルカリ提供動画より)

メルカリを通さない「引き抜き」OK

国内のスポットワーカーの数は、2023年5月時点で1070万人(大手4社の重複を含む合計)、タイミーは2024年2月に700万人を突破するなど、増加を続けています。

その中で注目したいのは、長期雇用や正社員登用につなげる動きです。スポットワーク従事者の3〜4割は正社員の副業とのことですが、もっと長期で働きたいとか、事業者側からはメルカリを通さずに直接雇用したいといったニーズが出てくると考えられます。

この点についてメルカリに質問してみたところ、「メルカリ ハロの外での長期雇用への転換や引き抜きは、まったく問題ない。短期雇用から長期雇用が生まれるのは嬉しいこと」(太田氏)との回答がありました。

また、正社員登用につなげるサービスは現時点では考えていないとのことですが、「OBOGコネクト」の仕組みを特許出願するなど、「卒業するスタッフや、メルカリ ハロを通じてまた働いてほしい人をグルーピングする仕組みを作っていきたい」(太田氏)としています。

まずはスポットワークで働いてから長期や正規の雇用につなげることで、働く側と雇う側の双方にミスマッチを防ぐ効果を期待できます。この点についてもメルカリの参入は追い風になりそうです。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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