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楽天の株主優待がモバイルの「eSIM」に。その狙いとは?(追記あり)

山口健太ITジャーナリスト
楽天が株主優待を「eSIM」に(楽天グループのWebサイトより、筆者作成)

12月26日、楽天グループは株主優待の内容を変更し、新たに楽天モバイルのデータ通信用「eSIM」を提供すると発表しました。

果たしてその狙いはどこにあるのか、探っていきます。

追記:
楽天グループの株主優待について、2024年2月14日に再び内容を変更するとの発表がありました。データSIMではなく、音声とデータが利用できるSIMを株主全員に提供するなど、内容が大きく変わっています。

変更後の内容については、こちらの記事にて解説しています。

楽天の株主優待は1年間使える「音声+データ」SIMに。詳細を聞いてみた
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/7e20ed9e865660c9b44b1ab778f3ef61b0dc34e6

株主優待が楽天モバイルの「eSIM」に

これまで楽天の株式優待は、オンラインの電子マネー「楽天キャッシュ」などが提供されていましたが、今回から楽天モバイルのデータ通信用のeSIMに変更されました。

楽天の広報は、その狙いについて「楽天モバイルでは継続した通信品質改善を行っており、このたびの株主優待を通じて、株主の皆様にまずはデータ通信をお試しいただき、通信品質の向上を実感いただきたい」と説明しています。

背景にあるのが、楽天が注力するモバイル事業です。自社で携帯基地局を整備するキャリア事業では、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクに続く国内4番手のグループとして存在感が高まりつつあります。

2023年12月からは、楽天経済圏の中核といえるポイント還元プログラム「SPU」を、楽天モバイル契約者を優遇する形に変更。12月26日に契約数は600万回線を突破しています。

株主優待として提供されるeSIMでは、この楽天モバイルの回線を体験できます。いま使っているスマホのSIMカードを入れ替えると、電話を受けられなくなるので、2回線目として、あるいはサブ端末などで使うとよさそうです。

最近のiPhoneなどは2つの携帯回線が使える「デュアルSIM」に対応した機種が増えています。この場合、音声通話はドコモなどの回線、データ通信は楽天回線を使う、といった設定ができます。

iPhoneに楽天モバイルのeSIMを追加した様子(筆者作成)
iPhoneに楽天モバイルのeSIMを追加した様子(筆者作成)

仕様としては、データ容量は月間30GBで、保有株式数や株の保有期間によって3か月から6か月利用できます。データ専用のため、音声通話や「Rakuten Link」は利用できないようです。

データ専用SIM(左)と音声通話対応の通常タイプ(右)の違い(楽天モバイルのWebサイトより)
データ専用SIM(左)と音声通話対応の通常タイプ(右)の違い(楽天モバイルのWebサイトより)

楽天モバイルの最大の売りである無制限のデータ通信には対応していないものの、楽天ユーザーの平均的なデータ通信量は月に20GB強とされているので、30GBあれば十分といえるでしょう。

申し込み期間は2024年3月上旬から6月下旬まで、利用開始日は申し込みの時期によって変わるとのこと。利用期間終了後は自動解約となり、使い続けたい場合は別途契約が必要になります。

その他の詳細については、2024年3月上旬に定時株主総会の招集通知で案内する予定としています。

このeSIMに、株主優待として実質的にどれくらいの価値があるかという点も気になるところでしょう。

楽天モバイルの料金は音声対応もデータ専用も同じで、20GBまでは月額2178円。サブブランドやMVNOの場合、30GBプランの料金は2000〜3000円前後が相場です。

楽天の株を100株買い付けるには6万円程度の資金が必要ですが、優待の価値が3か月分で6000〜9000円程度と考えれば、十分な「利回り」があるといえます。ただし、株価が下がれば優待の価値以上に損失を被る可能性もあります。

なお、eSIMは株主本人の名義で申し込む必要があり、本人以外の利用はできないとのこと。他者への譲渡や転売ができない点には注意が必要です。

楽天モバイルの真価が問われる

楽天は、従業員や楽天市場の出店者にも楽天モバイルの利用をすすめているようですが、さらに株主も巻き込んでいくという点で、興味深い取り組みといえます。

ただ、発表が権利付最終日の「前日」というのは、遅すぎた感が否めません。例年通りの優待を期待していた株主を驚かせる一方、モバイル事業に興味がある人は株の買い付けが間に合わなかった可能性があります。

また、実際にeSIMを試した結果、つながりにくいとか、通信速度が遅いといった問題が起きてしまった場合、楽天の将来を見限る株主が出てきてもおかしくありません。

そういう意味では、株主からの厳しい評価に耐えられる品質を提供できるかどうか、楽天モバイルは真価を問われることになるといえそうです。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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