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「マイナンバーカード」という名前がよくない理由

山口健太ITジャーナリスト
マイナンバーカード(デジタル庁提供素材より、筆者撮影)

7月2日、「マイナンバーカードという名前が混乱を招いている」問題に河野太郎デジタル大臣が言及し、話題になっています。

その背景として、「マイナンバー」を使わない用途にマイナンバーカードを活用する動きが広まっています。どういうことなのか解説します。

「マイナンバー」を使わない用途が拡大

いま話題の「マイナ保険証」にとどまらず、今後はコンビニのセルフレジでの年齢確認においてもマイナンバーカードを活用する動きが始まっています。

その中で、「多くの用途にマイナンバーを広げすぎるのは不安だ」といった反応が見受けられます。

これは典型的な誤解といえるもので、実は「マイナンバー」は使っていません。マイナンバーの用途は「社会保障」「税」「災害対策」などの分野に法律で限定されています。

マイナンバーカードという名前の字面から、このカードを使うと何でもマイナンバーに紐付くような印象を受けてしまうのは分かりますが、実際にはそうではないわけです。

いま利用が増えているのは「公的個人認証サービス」です。マイナンバーカードの本体ともいえるICチップ内には電子証明書が保存されており、「氏名・性別・住所・生年月日」をデジタルで証明できる身分証として使えます。

いま話題の活用事例の1つといえるのがマイナ保険証について、詳細は別記事で取り上げていますが、マイナンバーは使っていません。

これまでの保険証では、病院の窓口で目視確認し、端末に手入力するなどの手間がかかっていたようです。過去にさまざまなミスが起きていたのではないかとの指摘もありますが、マイナンバーカードを使えば簡単かつ確実に保険の有効性を確認できるわけです。

生年月日をデジタルで確認できることから、年齢認証にも向いています。コンビニのセルフレジや、日本の身分証に不慣れな外国人の店員さんであっても、酒・タバコを販売できるかどうか簡単に判別できるようになります。

日常生活の中で、身分証を提示して確認してもらったり、コピーした紙を郵送したりしていたあらゆる場面で、マイナンバーカードを活用できる可能性があるというわけです。

ただ、ここでもマイナンバーカードという名前から連想して、「民間企業がマイナンバーを使おうとしているのではないか」といった誤解が広まっているように思います。

たとえばPayPayやメルカリなどでは、マイナンバーカードを読み取ることによる本人確認に対応しています。これは公的個人認証サービスを利用したもので、マイナンバーは使っていません。

マイナンバーカードという名前のせいで、技術的にも誤解されている部分があるようです。たとえば保険証については「デジタル保険証カード」を作ってほしいとの声があり、過去に検討されたこともあるようですが、不正利用対策などを考えれば、中身はマイナンバーカードとほぼ同じものになりそうです。

マイナンバーカードを偽造できる、などと言っている人もいますが、プラスチックカードとしての偽造の難易度は他の顔写真付き身分証と同程度でしょう。しかし本体といえるICチップ内の電子証明書までは偽造できません。

(それも可能というのであれば、ぜひ教えてください。マイナンバーカードの偽造どころではなく、世界がひっくり返るようなニュースになるので)

トラブル時に備えて従来の保険証を残してもいいのではないか、という意見には一理あるものの、セキュリティ面の懸念は高く、すでに携帯キャリアは本人確認書類としての取り扱いを廃止しています。IDとしての役割はマイナンバーカードに移行していくのではないでしょうか。

カードよりも生体認証で守られたスマホのほうが安全ではないか、という点については同意です。スマホへの電子証明書の搭載はすでにAndroidの主な機種で実現しており、iOSも対応予定。医療機関に設置されたオンライン資格確認端末も何らかのアップデートによりスマホに対応する予定です。

将来的にはカードの裏面にマイナンバーを記載しない「ナンバーレス化」を可能にすることも検討されています。それに加えて、マイナンバーカードという名前についても、デジタル身分証としての実態に即したものに変わることを期待しています。

「返納」には意味がない

民間企業におけるデジタル化と同様に、政府や行政のデジタル化においてもさまざまな問題が起きていることはたしかであり、1つずつ対策していくことが求められています。

そこに国民の税金が投入されている以上、批判があるのは当然ですが、マイナンバーカードを「返納」することにはあまり意味がありません。

デジタルの身分証として機能するカードが手元からなくなってしまうだけで、自分に紐付いているマイナンバーには何の影響もないからです。

もちろん、マイナンバーを含め公的なサービスには頼らずに自給自足で暮らしたいといった生き方もあり、個人的にはそういうライフスタイルも尊重されるべきとは思うものの、そうでないのであればせっかく作ったカードは大切に持っておくことをおすすめします。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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