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相次ぐスマホ日本勢の撤退 どうすれば生き残れたのか

山口健太ITジャーナリスト
ドコモの「arrows We F-51B」(筆者撮影)

元富士通のスマホメーカー「FCNT」が5月30日に民事再生法の適用を申請。スマホ市場から日本勢の撤退が相次ぐ中、大きな話題となっています。

果たして生き残れる道はあったのか、筆者の視点から業界の動きを振り返ってみました。

携帯キャリアに依存してきたビジネスモデル

5月には京セラやバルミューダがスマホ事業からの撤退を発表。その背景として、法改正による値引きの制限や携帯キャリアとの関係が影響したと分析されています。

こうした業界内の話は一般にはなかなか伝わってこなかったように感じるところもあるので、まずはこれまでの流れをざっくりと振り返ってみたいと思います。

携帯キャリアは端末メーカーから買い上げた端末を全国に販売しており、日本のスマホ市場ではこの「キャリア市場」が9割を占めています。

たとえばarrowsシリーズの最新機種「arrows N F-51C」は、ドコモの型番がついたドコモの商品という位置付けです。

arrows N F-51C(FCNT提供資料)
arrows N F-51C(FCNT提供資料)

一般に、こうした端末はキャリアと端末メーカーが協議して仕様を決め、キャリアが調達する台数を決めて発注。キャリアの発表会でお披露目されます。

ドコモの発表会に並ぶ各メーカーの端末(筆者撮影)
ドコモの発表会に並ぶ各メーカーの端末(筆者撮影)

最近ではキャリアによる大々的な発表会は減っており、端末メーカーの発表会にキャリアが登壇するというパターンも見かけるようになりました。

ただ、端末メーカー幹部の話を聞いていると「キャリア様、ユーザー様のご支持を得て……」といった言い回しが出てくることがあり、最も重要な顧客がキャリアであることを実感できます。

さて、こうしてドコモに納入された端末は全国のドコモショップなどで販売され、修理やサポートもドコモが受け付けます。

(現在でも各キャリアはFCNT製品の在庫を抱えているとみられ、ドコモauソフトバンクは今後も販売やサポートを続ける方針を打ち出しています)

サポートに寄せられる相談といっても、大半は「Googleアカウントのパスワードを忘れた」のような話なので、そのあたりはキャリアに任せることで、FCNTは製品の開発に集中できます。

一方、キャリアは販売やサポートの現場でユーザーと接することで、ニーズや買い替え需要を熟知しています。そこから生まれる端末ラインナップは日本のスマホ市場そのものといえるもので、端末メーカーにとってはここに食い込むことが何より重要です。

SNS上では不評のバルミューダも、ソフトバンクによる採用が決まった時点で、ビジネス的には一定の成功を収めたといえます。材料費高騰のように想定外の事態がなければ、「第2弾」がネットを騒がせていたはずです。

もし仕入れた端末が売れなければキャリアは在庫を抱えることになりますが、「1円」販売のように大きな値引きをすればたいていの機種は捌けてしまうので、大きな問題にはなりませんでした。

スマホのユーザー層が広がるにつれ、最新の端末を発売日に手に入れたいという人ばかりではなく、「1円になるまで待つ」人が増えていきました。販売店にとっても1円端末は集客に欠かせない存在のようです。

ところが2019年10月、回線契約とセットの場合、割引の上限が2万円に規制されました。値引きをやめさせるのは一見すると不合理に感じるところですが、ここでは値引きの原資が通信料金だったことが問題視されました。

このままでは端末を頻繁に買い替える人ばかりが得をして不公平であること、また通信料金の高止まりを招くことで結局は消費者に不利益が生じるというロジックです。

その後は端末価格自体を値引きする手法が横行したものの、基本的には値引きを規制するとキャリアが在庫を捌く能力は下がります。その結果、調達台数はシビアになり、端末メーカーは苦しくなります。

しかし多くの消費者は変わらず「1円」を求めています。そこで値引きの上限が2万円であることを前提に、スケールメリットで競い合うコスパ競争が本格化しました。

FCNTの場合、2021年には中国メーカーのODMを活用した「arrows We」が、3キャリアによる採用を実現。出荷台数100万台という成果を挙げたものの、その後の半導体不足や2022年の急激な円安には抗えなかった感があります。

arrows Weは3キャリア採用を実現。ただし、富士通を連想させるレッド色はドコモオンライン限定となった(FCNT提供資料)
arrows Weは3キャリア採用を実現。ただし、富士通を連想させるレッド色はドコモオンライン限定となった(FCNT提供資料)

生き残れる方法はあったのか

それでは、日本のスマホメーカーはどうすれば生き残ることができたのでしょうか。

これは難しい問題です。なぜなら、世界のスマホメーカーも同様に苦しい状況だからです。

世界のスマホ市場では7割をAndroidが占めていますが、これは出荷台数ベースの話であり、営業利益ベースでは8割強をアップルが得ているとの調査があります。

Androidのメーカーは残りの2割弱を取り合っているわけですが、その大部分はサムスンが取っているようです。その他のメーカーは生き残っているだけで褒められるレベルといえるでしょう。

この厳しい状況の中、日本の端末メーカーは確実な売上が期待できる携帯キャリア向けビジネスに注力してきたと考えられます。

日本の消費者がスマホを買うときにはキャリアの店舗や売り場を訪れます。ハイエンド機種はキャリアから割賦で買うことが一般的なので、オープン市場で売れるスマホはミッドレンジ以下です。

海外メーカーも同様です。サムスンは日本国内で長らくキャリアビジネスを優先してきました。日本進出を目論む中国メーカーがオープン市場を足がかりとして、必死になってキャリア採用を目指したのもそのためです。

海外への挑戦という点では、FCNT(当時の富士通)は「らくらくスマートフォン」をフランスで発売したこともありますが、続かなかったようです。イメージセンサーでは大成功したソニーも、スマホは展開地域とターゲット層を大幅に縮小し、生き残りを図っています。

フランスOrange向けのらくらくスマートフォン(MWC 2013にて、筆者撮影)
フランスOrange向けのらくらくスマートフォン(MWC 2013にて、筆者撮影)

政治的には期待できる点もありました。ドコモはある時期から中国メーカーと距離を置くようになり、明言はしていないものの、経済安全保障的な意味合いを感じるところがありました。

そのため、ドコモは関係の深い国内メーカーを潰すようなことはしないと筆者は考えていたのですが、さすがにFCNTは気付いたときには手遅れの状態だったのかもしれません。

不幸中の幸いとして、FCNTはシニア向け端末とあわせて、シニア向けのSNS「らくらくコミュニティ」などのサービス事業も運営していましたが、こちらは複数の事業会社よりスポンサー支援の意向表明があったと発表されています。

らくらくスマートフォンは端末とサービスの両面がある(2013年7月、筆者撮影)
らくらくスマートフォンは端末とサービスの両面がある(2013年7月、筆者撮影)

これを踏まえた後付けの解釈にはなってしまいますが、シニア向けのサービス事業に特化することで、端末事業からは早期に撤退することが実は最善手だったのかもしれません。

ただ、FCNTが撤退しても同社が満たそうとしていた需要が消えてなくなるわけではありません。FCNTは「誰一人取り残さないデジタル化社会」への貢献を掲げ、政府や行政が推進するデジタル化における役割を期待できる面がありました。

デジタル化社会への貢献を掲げていたが……(FCNT提供資料)
デジタル化社会への貢献を掲げていたが……(FCNT提供資料)

残る日本勢として、ソニーがハイエンド中心の製品展開を続けていることを考えると、シャープ(親会社は台湾企業ですが)にかかる期待が大きくなりそうです。

追記:

2023年9月29日、FCNTはレノボの出資を受け、「FCNT合同会社」として10月1日から事業を開始することを発表しました。

事業開始のお知らせ | FCNT株式会社

この発表を受け、NTTドコモからも販売やサポートについてのお知らせが出ています。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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