アドビの画像生成AI「Firefly」 権利関係は大丈夫?
3月21日(米国時間)、クリエイター向けのツールで知られるアドビが画像生成AIとして「Adobe Firefly」を発表しました。
このAIの学習に用いた画像の権利関係がどうなっているのか、SNS上では話題になっているようです。この点をアドビに聞いてみました。
権利関係はクリアされている?
アドビのAIといえば、日本語の「先生」に由来する「Adobe Sensei」がすでに提供されており、Photoshopなどのツールで活用されています。
そして今回登場したFireflyは、自然言語からの「画像生成」と「テキストエフェクト」が実現しています。いま話題のジェネレーティブAIにアドビも参入した形になりました。
Fireflyは招待制のベータ版ではありますが、デモを見た限りでは、画像生成機能では自然言語による指示に加え、縦横比やスタイルなどのオプション指定が可能になっています。
テキストエフェクトは、Photoshopでやろうとすると複雑な操作が必要なレベルのものを、自然言語による指示により、数十秒で実行できるようです。
アドビはFireflyの特徴として、「商用利用に特化した画像生成を念頭に設計した」と位置付けています。ただ、この点が物議を醸しているようです。
こうしたAIを実現するにあたって気になるのが、学習に用いたデータです。これまでの画像生成AIはウェブ上などに公開された画像を学習しており、それ自体は法的に問題ないとされています。
一方、Fireflyでは学習データとして以下の3点を挙げています。
・Adobe Stockの画像
・オープンライセンスコンテンツ
・著作権が切れたパブリックドメインコンテンツ
Adobe Stockはアドビが運営するストック素材サービスで、数億点の写真や画像などを販売しています。ライセンスにもよりますが、ここで購入した画像は商用利用が可能です。
Adobe Stockの規約では、アップロードされた画像はアドビの製品やサービス開発などに使用することがあると明示しており、AIの学習に用いることは同意済みであるとアドビは説明しています。
しかしAdobe Stockには、権利関係が怪しい画像が少なからず含まれているのではないか、との指摘があり、SNS上で話題になっているわけです。
追記:
Adobe Stockの素材には複数のライセンスがあり、商用利用できるものと、そうでないものがあります。後者は報道目的などに利用できる「エディトリアル専用」ライセンスで、有名なキャラクターなどの画像はこのライセンスになっているものが大半のようです。
Fireflyの学習データとして、エディトリアル専用の素材を除外している可能性はありますが、現時点でアドビからの公式な回答は得られていません。
Adobe Stockの現状について、アドビは「Adobe Stockに限らず、他社のサービスにもコンテンツを審査するスキームがある。この審査するスキームが100%完全なものかというと、正直なところ必ずしもそうではないが、審査プロセスで権利関係が怪しいものは可能な限り排除している」(アドビ Chief Digital Officerの西山正一氏)と説明しています。
Adobe Stockの規約によれば、購入した画像を使用したことで第三者から権利侵害を申し立てられた場合でも、アドビから補償を受けられるという制度があります。
「SNSで話題になっている画像について即答はできないが、Adobe Stockは権利関係がクリアされていることが前提のサービスである。万が一のことが発生した場合は、その損害の範囲内について補償をしている」(西山氏)といいます。
それでは、FireflyのAIが生成した画像についても、この補償の対象になるのでしょうか。この点については「対象になると思われるが、現在はベータ版であり、実際にサービスとして投入された場合にどうなるかは現時点で回答できない。そうしたところを含めて透明性を担保するアプローチで設計されている」(西山氏)としています。
どうなるかはまだ分かりませんが、もしFireflyが生成した画像についても万が一の場合にアドビが補償してくれるとなれば、「Adobe Stockと同程度には安心して商用利用できる」といえそうです。
追記:
6月8日、アドビが米国で「Adobe Firefly エンタープライズ版」を発表。安全に商業利用できるように設計されており、アドビから知的財産(IP)の補償を受けることができると説明されています。
クリエイターとAIは共存できるか
画像生成AIの盛り上がりは続いているものの、必ずしもクリエイターに歓迎されるものばかりではないことを考えると、アドビの参入にはやや驚くところはあります。
業界全体として、まずはベータ版のような形で公開し、多数のフィードバックを得なければ競争に遅れを取るという状況になりつつあります。
その中で、もたもたしていると他社に市場を奪われ、株価も下がりかねない、という危機意識が感じられます。
そういう意味では、AIの学習を明示的に拒否できる機能や、コンテンツがどうやって作られたか来歴を管理する機能についてもアドビは準備を進めており、クリエイターとAIの共存を図りたいという姿勢は感じられます。