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【戦国こぼれ話】戦国大名の家臣団とは、意外にも複雑な組織だった。その謎を解くことにしよう

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
安土城跡の家臣の邸跡。家臣は城下に集住していた。(写真:ogurisu/イメージマート)

 最近の会社では、組織や役職名が昔より複雑になった。それぞれに個性がある。戦国大名の家臣団も会社と同じで、それぞれが個性的な組織になっていた。今回は、戦国大名の家臣団について解説しよう。

■「家中型家臣」と「国衆型家臣」

 家臣といってもさまざまで、大名家に仕える純粋な家臣もいたが、いわゆる国衆レベルで大名に従う家臣もいた。前者は「家中型家臣」といわれ、後者は「国衆型家臣」と称されている。「国衆型家臣」は一定領域の支配を行うなど、自立性の高い家臣だった。

 室町時代末期から戦国時代にかけて惣領制が崩壊し、やがて単独相続制が行われるようになった。こうした経緯から生まれたのが寄親寄子制で、それは庶子と私的な関係で結ばれた擬制的な主従関係のことを意味する。

 戦国時代になると、戦国大名は土豪や地侍まで寄子の対象を拡大し、家臣団へ組み込んだ。それは、合戦への従軍を求めるだけでなく、寄親が寄子に所領や扶持を与えるまでになっていったのだ。

■家臣の役割

 家臣の役割はさまざまで、宿老(しゅくろう)という家中の意思決定に関わる重臣もいた。祐筆(ゆうひつ:右筆とも)は当主の代わりに文書を発給し、大名家の文書や記録を管理した。大名は自筆で書状を書くことは少なく、多くは祐筆が代筆したのだ。

 なお、宿老とは経験を積んだ年老いた人のことで、宿徳老成の人のことをいう。もともとは鎌倉幕府の評定衆・引付衆、室町幕府の評定衆を指しており、戦国大名のもとでは重臣を意味するようになった。

 検地や訴訟などの実務は、実務に長けた奉行人が担当していた。彼らは大名家のさまざまな実務を取り仕切っていたのである。

 戦争が勃発すると、軍事に才覚のある者が軍目付に任命され、戦争時の指揮を行った。和睦を結ぶときは、取次といわれる交渉人が当主の代わりに交渉を行った。このように家臣にはさまざまな役割があり、役割分担をして領国経営を行ったのだ。

■家臣の種類

 惣領家がもっとも頼りにしたのは、血縁関係にある一門衆(一族衆とも)だ。一門衆とは惣領家の一族・庶子出身の家臣になった者で、血縁関係が近かったため、多くが宿老(重臣)に登用された。家中で物事を決するとき、重臣層である一門衆の発言権は大きく、惣領であっても決して無視できない存在だった。

 譜代衆はもとから家臣として仕えた家柄で、血縁関係にない家臣だ。主に検地、裁判などの実務的な面で大名を支えた。なかには、一門衆を凌ぐような勢力を持つ者も存在した。一門衆と譜代衆は、家臣のなかでも家格が高かったといえよう。

 外様衆は仕えていた主君の滅亡などにより、途中から加わった家臣のことだ。譜代衆(古参衆)に対する新参衆を意味する。大名は領土の拡大とともに家臣を登用する必要があったので、外様を新たに家臣に加えた。しかし、譜代と外様の関係が悪化することがあり、それが家中騒動に発展することもあった。

■家臣の重要性

 このように大名は家臣団を編成し、彼らの意見を聞きながら、さまざまな決定を行った。しかし、決して大名が専制的で、自分で好きなように物事を決めたわけではない。家臣たちの意見は重要で、決して無視できなかったのが現実だ。

 家臣の意向を無視した場合、大名が見放されてしまうことも珍しくなく、滅亡の危機に瀕することになった。天正7年(1579)、八上城(兵庫県丹波篠山市)の城主・波多野秀治は家臣が明智光秀に降参することを勧めたにもかかわらず、これを拒否。結果、秀治は家臣に捕らえられ、光秀に差し出されたといわれている。

明智光秀
明智光秀提供:アフロ

 家督の継承も同様で、現当主が自由に決められたわけではない。あくまで家臣の同意が必要だった。仮に現当主が家督継承者を強引に決めようとした場合、家臣が別の家督継承者の候補を立てて争うこともあった。

 毛利元就は当主を務める幸松丸(兄・興元の子)の死後、毛利家の家督を継承した。しかし、尼子氏から後継者を招こうとした家臣、あるいは元就の弟・相生(あいおう)元綱を擁立しようとする家臣もいた。結果、元就は元綱を殺害すると同時に、家臣に忠誠を誓わせたうえで、自ら毛利家の当主になったのである。

毛利元就
毛利元就提供:アフロ

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『大坂の陣全史 1598-1616』草思社、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書、『関ヶ原合戦全史 1582-1615』草思社など多数。

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