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【「麒麟がくる」コラム】正親町天皇が口にした桂男とは、いったい何者なのか

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
月と紅葉。桂男は月に住んで、桂の木を斧で伐っていたといわれている。(写真:アフロ)

■桂男とは

 NHK大河ドラマ「麒麟がくる」の第41回「月にのぼる者」では、正親町天皇が幾多の戦国大名を桂男(かつらおとこ)になぞらえていた。いったい、桂男とは、何者なのだろうか。

 以下、詳しく検証することにしよう。

■桂男の概要

 最初に、桂男について述べておこう。古代中国の話である。

 桂男というのはニックネームのようなもので、本当は呉剛(以下、桂男で統一)という男の名前である。桂男は、仙法を学ぶという罪を犯した。

 仙法とは、仙人が不老不死、羽化登仙に到達するために行う修行のことだ。要するに、桂男は仙人になろうとしたのである。

 この罪により、桂男は月にある月宮殿という大宮殿で、高さ500丈(約1,500メートル)の桂の木を斧で伐ることを命じられた。刑罰の一種である。

 しかし、桂男が伐ると、すぐに切り口が塞がったという。つまり、桂男は永遠に木を伐らねばならなかったのだ。

 『万葉集』では、月のことを「月人壮子(つきひとおとこ)」と呼んだ。それは、上記の桂男の伝説に拠るものである。

 ゆえに、月のことを「桂男(こちらは「かつらお」と読む)」とも称した。『万葉集』以外の歌集や物語でも、桂男の名はたびたび取り上げられた。

 古代中国では、月に都や宮殿があると信じられていたという。なお、日本では江戸時代になると、桂男には妖怪としての意も含まれるようになった。

■桂男の出典

 では、桂男の出典は、いかなる書物なのだろうか。

 桂男のことを記しているのは『酉陽雑俎(ゆうようざっそ)』という書物で、唐の時代の末期(860年頃)に成立したという。著者は、唐の詩人の段成式なる人物である。

 内容は書物、衣食、風習、動植物、医学、宗教、人事など多岐にわたり、唐の時代の歴史、文学、社会を研究するうえで、必要不可欠な文献と評価されている。

 しかし、そのなかには荒唐無稽な内容も含まれているといわれており、桂男の話もその類の話であって、決して事実ではないのは明らかだろう。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『大坂の陣全史 1598-1616』草思社、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書、『関ヶ原合戦全史 1582-1615』草思社など多数。

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