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【戦国こぼれ話】災害には備えが必要。地震で一夜にして消滅した帰雲城と城主の内ヶ島氏理とは!?

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
地震には備えが必要だ。油断せずに心掛けよう。(提供:アフロイメージマート)

■地震には備えが必要

 現在でも地震が頻発し、多くの人の命が奪われている。誠に悲しいことである。実は、戦国時代においても地震により、一瞬にして一族と城1つがまるまる消滅するという大事件があった。

 その舞台が岐阜県白川村にあった帰雲城であり、城主は内ヶ島氏理である。

■内ヶ島氏とは

 帰雲城と内ヶ島氏の歴史は、室町期の14世紀にまで遡る。内ヶ島氏の出自は諸説あり、楠木正成の子孫ともいわれるが、明確な根拠があるわけではない。

 その祖である内ヶ島季氏は三代将軍・足利義満に仕えたといわれ、明徳2年(1391)に山名氏を討伐した明徳の乱、応永6年(1399)に大内氏を討伐した応永の乱に出陣したと伝わっている。

 季氏の子・為氏は室町幕府の奉公衆を務めており、その名は奉公衆の名簿である『長享元年九月十二日常徳院江州御動座当時在陣衆着到』で確認できる。

■帰雲城の築城

 為氏は8代将軍・足利義政の命を受け、寛正元年(1460)に牧戸(岐阜県高山市)に城を築いたという。寛正5年(1464)になると、為氏はさらに飛騨北部に進出し、帰雲城を築城した。以降、内ヶ島氏は帰雲城を本拠として、周辺地域を支配することになった。

 内ヶ島氏が飛騨北部に進出したのには、もちろん理由がある。当時、帰雲城が所在した白川周辺では、金や銀の鉱石が産出した。発掘された金や銀は、京都の室町幕府に献上されたという。むろん、内ヶ島氏は金や銀を献上する際、何らかの手数料を得ていたのだろう。

■躍進した内ヶ島氏

 鉱山の発掘で得た資金により、内ヶ島氏は大いに発展した。その間、越後の上杉謙信、飛騨の姉小路頼綱の攻撃を受けるが、その度に交戦して撃退していた。織田信長が台頭してから、内ヶ島氏の4代当主・氏理は、信長の配下の佐々成政のもとで各地を転戦した。

 信長が本能寺の変で横死してから3年後の天正13年(1585)8月、金森長近が羽柴(豊臣)秀吉の命を受けて、飛騨に攻め込んできた。越中国に出陣していた氏理は、すぐさま戻って長近に降伏すると、秀吉から辛うじて本領を安堵されたという。

■運命の天正大地震

 その3ヵ月後の天正13年11月29日、氏理は秀吉から所領を安堵されたことを祝い、帰雲城で祝宴を催した。ところが、同じ日の午後11時頃、東海・北陸・近畿という広い地域を巨大地震が襲った。

 その凄まじさは、当時の記録にも書き残されている。『舜旧記』という史料によると、海岸近くの場所については、波に覆いつくされ、死人が多数出たという。

 地震はその後も断続的に翌年初頭まで続き、京都や奈良では寺社で地震が収まるよう祈祷を行った。これが天正大地震である。

■消えた帰雲城と内ヶ島氏

 むろん、帰雲城も例外ではなく、富山湾から流れる庄川右岸の帰雲山が大崩落を起こした。これにより、帰雲城をはじめ、城主の内ヶ島氏理をはじめとする一族・家臣と住民や牛馬があっという間に埋没してしまった。こうして、120年余り続いた内ヶ島氏は、ほんの一瞬で帰雲城とともに消滅したのである。

 大坂本願寺が大阪府貝塚市に移って以降、書き継がれた日記『貝塚御座所日記』には、帰雲城の被害状況が詳しく書かれている。その記述を現代語訳で示すと、次のとおりである。

飛騨の帰雲という場所は、内ヶ島という奉公衆が住んでいる場所である。帰雲は地震で山が揺り崩され、山河の多くが削がれてしまった。内ヶ島氏が住んでいる場所にも洪水が押し寄せ、内ヶ島氏の一族や住人までもが残らず死んでしまった。たまたま他国に出掛けていた者が4人だけ生き残り、泣く泣く帰雲に戻ったとのことである。ただ、帰雲はことごとく淵になってしまった。

 この情報は12月4日に書かれているので、1週間も経たないうちに、今の岐阜から大阪へもたらされた。

 岐阜県郡上市の長瀧寺に伝わる『長瀧寺荘厳講記録』には、飛騨に地震があったとの記述に続けて「白川、帰雲の2つの山は打ち崩れ、内ヶ島氏理のほか500人余と牛馬までも一瞬に死んでしまった」と書かれている。後世の編纂物も、ほぼ同じことを伝えている。

 戦いに負けて滅亡するならまだしも、地震であっけなく消滅したのだから、氏理はさぞかし無念だったに違いない。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『大坂の陣全史 1598-1616』草思社、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書、『関ヶ原合戦全史 1582-1615』草思社など多数。

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