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『ブギウギ』スズ子(趣里)が「紅白」で披露しなかった、圧巻のステージ

碓井広義メディア文化評論家
趣里さんが演じるヒロイン・福来スズ子(番組サイトより)

今週の連続テレビ小説『ブギウギ』。10日(水)の69回と、11日(木)の70回は、音楽ドラマとしても秀逸なものでした。

終戦からわずか3ヶ月。「日劇(日本劇場)」ならぬ「日帝劇場」で、再開第1回公演「歌謡ショー ハイ・ライト!」が行われたのです。

楽屋で、スズ子(趣里)は茨田りつ子(菊地凛子)と再会しました。

戦時中、若い特攻隊員たちの前で歌ったりつ子は、「私の歌に背中を押されて、あの子たちは死んでいったのかもしれない」と告白。

続けて「歌は人を生かすためのものでしょ?」と悔しさを滲ませました。

「ほんなら、これからはワテらの歌で生かさにゃ!」とスズ子。

「歌えば歌うだけ、みんな元気になるはずや」と前向きな決意を語ります。

まず、りつ子がステージに立ちました。歌ったのは「別れのブルース」(作詞・藤浦洸、作曲・服部良一)。

「♪二度と逢えない心と心 踊るブルースのせつなさよ」の歌詞に、浮かんでくるのは特攻隊員たちの姿です。

万感の思いで歌い切る、りつ子でした。

圧巻のステージ

次が、スズ子です。

両手をいっぱいに広げて、ステージへと駆け出していきます。

観客と向き合い、胸がいっぱいになるスズ子。しばしの間を置き、「もう我慢でけへん。歌います!」

福来スズ子、復活の曲は「ラッパと娘」(作詞&作曲・服部良一)です。

長い間禁じられていた、長い付まつ毛と真っ赤な衣装で、ステージを縦横に動き回りながら、スズ子は歌います。

「♪この歌 歌えば なぜかひとりでに 誰でもみんな うかれだす」

これまでの鬱憤(うっぷん)を一気に晴らす、パワフルでソウルフルな歌声。

全身をフルに使った、躍動感あふれるパフォーマンス。そして、歌い手と観客の一体感。

モデルである笠置シヅ子が憑依(ひょうい)したかのような、趣里さんの歌と踊りが光ります。

昨年の『紅白歌合戦』を超えて

思えば、昨年の『紅白歌合戦』の際、趣里さんの母親である伊藤蘭さんが出演したこともあり、事前に「親子共演」の噂が流れました。

しかし、結果的に趣里さんは『紅白』には出ませんでした。それはドラマの中の「スズ子」を大切にしたからだと思います。

戦争が終わり、封印されていた自由な歌唱がようやく可能になった喜び。

何より「生きる喜び」を観客と共有する、スズ子。その姿を、じっくりと見せたかったのでしょう。

また、制作陣もスズ子のステージを見事に映像化していました。

音楽が登場するドラマであっても、どこか雰囲気だけの場合があるのですが、このドラマは違います。

ここぞという場面で、音楽をしっかりと映像にしているのです。

複数のカメラによるダイナミックなアングル。キレのいいカット割り。

約4分のフルコーラスを、『紅白』以上の熱い映像で見せてくれたのです。

今週の音楽シーンは、このドラマがスズ子の人生と共に、「音楽の力」を伝えるものであることを、力強く示していました。

戦前の「スウィングの女王」から、戦後の「ブギの女王」へ。スズ子が大きくジャンプするのも、間もなくです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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