Yahoo!ニュース

『あまちゃん』は、なぜ10年後の今も輝き続けるのか?

碓井広義メディア文化評論家
三陸鉄道リアス線(写真:イメージマート)

NHKBSプレミアムとBS4Kで、連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『あまちゃん』の再放送が始まって、1ヶ月が過ぎました。

朝起きて、2013年放送の『あまちゃん』を見る。

そして、「ああ、こうだったなあ」と、このドラマならではの魅力を再認識している人も多いのではないでしょうか。

ヒロインは「アイドル」

まず、朝ドラはヒロインが自立していく、「職業ドラマ」であることが一般的です。

過去には法律家や編集者などはありましたが、天野アキ(能年玲奈さん、現在はのんさん)のアイドルは前代未聞でした。

しかし、アイドルを「人を元気にする仕事」と考えれば納得がいきます。

何より「地元アイドル」という設定が秀逸でした。

二つの青春物語

物語の時間は2008年からの4年間ですが、アキの母・春子(小泉今日子さん)の若き日(演じるのは有村架純さん)も描かれていきます。

おかげで、見る側は「異なる時代」の「二つの青春物語」を堪能できるのです。

アキがたびたび忍び込む、春子の部屋。

本人が家出をした1984年で時間が止まり、フリーズドライ状態となった部屋です。

ドアや壁に貼られたアイドルのポスターや、ラジカセといった、当時の“若者ツール”。

それらは、まるで過去へのタイムトンネルみたいです。

ドラマに登場する80年代の音楽やファッション。

知っている人には懐かしく、知らない人には新鮮で、家族や友人とのコミュニケーションの材料となりました。

音楽の力

また、大友良英さんによる、明るくて元気でどこか懐かしいテーマ曲が、ドラマ全体を象徴しています。

随所に挿入される伴奏曲は、登場人物の心情を繊細に語っていました。

「潮騒のメモリー」などの劇中歌が、フィクションの世界から飛び出して街中に流れたのも画期的なことでした。

名セリフの連発

加えて、「じぇじぇじぇ!」をはじめ、名セリフの連発も人気の要因の一つでしょう。

1970~80年代のポップスを指して、「分かるやつだけ、分かりゃいい」。

奇策を繰り出すプロデューサーへの苦言は、「普通にやって、普通に売れるもん作りなさいよ」。

宮藤官九郎さんの脚本の特色は、密度とテンポの物語展開だけではありません。登場人物が発する言葉に熱があるのです。

舞台俳優の活躍

さらに、これほど多くの舞台俳優を起用した朝ドラはありません。

渡辺えりさん、木野花さん、東京篇の松尾スズキさんは、演出も手掛ける実力派です。

吹越満さん、荒川良々さんなども舞台人であり、目の前の観客の心を捉える彼らの存在感が、物語を人間味あふれるものにしています。

脚本・演出・演者の総力戦

ドラマづくりは、脚本・演出・演者の総力戦と言っていいものです。

『あまちゃん』は上記のような要素を統合したことで、毎回1度は笑って泣けるまれな朝ドラになりました。

今回、初めて見る人には驚きがあり、かつて見た人にはうれしい再発見がある。

放送10周年記念にふさわしい、半年間にわたる視聴者プレゼントなのです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

碓井広義の最近の記事