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『あまちゃん』再放送1週間、やっぱり「ここがスゴイ!」

碓井広義メディア文化評論家
三陸鉄道リアス線(写真:イメージマート)

『あまちゃん』再放送の開始から1週間が過ぎました。

NHK・BSプレミアムでの放送は、朝7時15分から。

10年前よりちょっと早い時間ですが、毎朝『あまちゃん』が見られるなら上等です。

方言に異例の「字幕」

第1週で何より大事なのは、見る側がすっかり「北三陸」に馴染(なじ)んでしまったことです。

予期せぬ訪問者としてのアキの目を通して、次々と現れる北三陸の人たちに驚き、笑い、あっという間に彼らを好きになっていたのです。

中でも、びっくりしたのが、「方言」に標準語の「字幕」を付けていることでした。

「じぇじぇ! たますぽろぎ、はあ~、すっかり大人さなって!」のセリフに、「こりゃ驚いた! すっかり大人になって」の字幕。

「そんだらは、やっさりど家さ帰(けえ)っては、ばっぱさ顔見せろ」には、「それなら、急いで家に帰って、婆ちゃんに顔を見せなさい」といった具合です。

それまでも、地方を舞台にしたNHKのドラマはたくさんありましたが、基本的には、方言に字幕は付きません。

NHKらしい配慮というか、その地方の人たちを「バカにしている」と誤解されないためでした。

でも、『あまちゃん』は字幕を付けてくれたことで、逆にこのドラマが「地元」と、その地域の言葉を含む「文化」を大事にしていることが伝わってきました。

アキもまた、見事に訛(なま)り始めていますよね(笑)。

同時に、地元の人たちへの親近感も倍増したのです。

そんな「地元」の面々ですが、あらためて感じたのが、キャスティングの妙でした。

「舞台俳優」の起用

実は『あまちゃん』以前に、これほどたくさんの「舞台俳優」、もしくは「舞台出身の役者」を起用した朝ドラはありません。

主だった配役だけでも以下のようになります。

●今野弥生(海女):渡辺えり=劇団300(さんじゅうまる)

●長内かつ枝(海女):木野花=劇団青い鳥

●安部小百合(海女):片桐はいり=劇団ブリキの自発団

●花巻珠子(海女クラブ事務員):伊勢志摩=劇団大人計画

●栗原しおり(観光協会職員):安藤玉恵=劇団ポツドール

●菅原保(観光協会長):吹越満=劇団WAHAHA本舗

後の「東京篇」にも、

●甲斐(純喫茶「アイドル」マスター):松尾スズキ=劇団大人計画

●荒巻太一(プロデューサー):古田新太=劇団☆新感線

などが登場してきます。

中でも渡辺えりさん、木野花さん、松尾スズキさんは、劇団主宰者として演出もしてきた実力派です。

古田新太さん、吹越満さんなども、その名前で客を呼ぶことができる生粋の舞台人です。

舞台人たちの「存在感」

優れた舞台人は、生の舞台の上で、共演者たちとの相互作用によって、役柄をふくらませていきます。

また、劇場に足を運んでくれた観客の反応を取り込みながら、自分の芝居をコントロールすることも可能です。

もちろんドラマでは、舞台のような意味での観客は目の前にいません。

しかし、目の前の観客の心を捉える修業を重ねてきた彼らの存在感が、このドラマを人間味あふれるものにしているのは確かです。

『あまちゃん』では、劇団大人計画所属で、彼らと同様に舞台人である宮藤官九郎さんが脚本を手がけています。

おかげで、一つのセットで展開されるシーンが、あたかも一幕芝居の舞台のごとき雰囲気を持ち得ました。

演じる者たちは、そこがまるで生の舞台であるかのように集中すると同時に、セリフのキャッチボールを楽しんでいます。

それが画面から伝わってくるからこそ、見る側は主人公が出ていない場面であっても、常に目が離せないのです。

『あまちゃん』特有の「吸引力」を支える要素の一つが、舞台人の投入だったと言えるでしょう。

第1週の終わりで、母の春子から「海女さん」になることを許されたアキ。

来週は、「北の海女」16歳の新人、アキという「あまちゃん」の登場です。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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