長澤まさみ主演『エルピス』を、より面白く見るための「ポイント」とは?
とんでもない展開になってきました。
長澤まさみ主演『エルピス―希望、あるいは災い―』(カンテレ制作・フジテレビ系)です。
最高裁で死刑が確定した、少女連続殺人事件。
主人公であるアナウンサーの浅川恵那(長澤)は、若手ディレクター・岸本拓朗(眞栄田郷敦)と共に独自取材を行っています。
そして、容疑者の男・松本良夫(片岡正二郎)が「冤(えん)罪」であるという感触を得ました。
しかし、テレビ局の上層部に企画自体を却下されてしまいます。
そんな浅川が、第3話のラストで取材をまとめたVTRを生放送中に流しました。
もちろん独断ですが、そりゃ大騒動になります。
テレビが「冤罪」を扱うということ
「冤罪」とは、無実の罪であり、濡れ衣のことです。
犯人でない人間が犯人だとされる冤罪を生むことは、警察だけでなく、検察や裁判所の大失態でもあります。
また、自ら取材して真相を明らかにすることをせず、警察の発表をそのまま流したのがメディアであるなら、それは冤罪に加担したことになります。
自分たちにも批判の矛先が向きかねないリスクもある中で、テレビ局を舞台に、こうしたテーマのドラマを作るには、それなりの覚悟が必要なのです。
「足利事件」という背景
ドラマの冒頭で、「このドラマは実在の複数の事件から着想を得たフィクションです」とうたっています。
そして、エンドロールでは9冊もの「参考文献」が挙げられています。
注目したいのは、そのうち5冊が「足利事件」に関するものだということ。
・菅家利和『冤罪 ある日、私は犯人にされた』(朝日新聞出版)
・菅家利和、佐藤博史『訊問の罠――足利事件の真実』(角川oneテーマ21)
・清水潔『殺人犯はそこにいる―隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件―』(新潮文庫)
・小林篤『足利事件 冤罪を証明した一冊のこの本』(講談社)
・下野新聞社編集局・編『冤罪 足利事件 「らせんの真実」を追った四〇〇日』(下野新聞社)
この事件が発生したのは、1990年5月12日。
栃木県足利市内のパチンコ店で当時4歳の幼女が行方不明となり、翌朝、市内の渡良瀬川河川敷で遺体が発見されました。
幼稚園のバス運転手だった菅家利和さんが有罪判決を受けて服役。
しかしその後、本人のDNA型が犯人のものとは一致しないことが判明し、再審のうえ無罪が確定したのです。
スリリングな試み
たとえば、5冊の中にある『殺人犯はそこにいる』。
自己防衛のために警察がどれだけの嘘をつくのか。さらに警察に情報操作されるメディア側の実態も克明に描かれており、衝撃的です。
『エルピス』では、現実の足利事件に対する制作陣の見方や捉え方が、様々な形で反映されていくでしょう。
そこには警察の失態だけでなく、テレビを含むメディアが「何をして、何をしなかったか」という問題も含まれます。
このドラマ自体が、制作陣の覚悟を足場とする「スリリングな試み」なのです。
ヒロインの浅川もまた大きな賭けに出ました。これが単なる暴挙で終わるのか、それとも新たな扉を開くのか。注目です。