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黒木華『僕の姉ちゃん』から目が離せない理由

碓井広義メディア文化評論家
『僕の姉ちゃん』主演の黒木華さん(番組サイトより)

黒木華さん主演、水ドラ25『僕の姉ちゃん』(テレビ東京系)から目が離せません。

大きな物語ではないのです。むしろミニマムで、父の海外赴任に母も同行した留守宅で暮らす、姉と弟の日常です。

何事にも辛辣な姉、白井ちはる(黒木華)は三十路のOL。そして素直な性格の弟、順平(杉野遥亮)は社会人1年生。

夜、仕事から帰った2人が、どうしても必要というわけでもなく、急いでする必要もない会話を、ゆるく続けていく。そんなドラマです。

ユニークな姉の言葉

とにかく、姉の言葉がユニークで、聞き逃すことが出来ません。

弟が「好きな男性に対する母性」について問えば・・・

「育ててもない男に、そんなもんあるわけないじゃん」と言い切る。続けて「幻想が好きならオーロラでも見てこいっつーの」と明快です。

さらに「あんたに彼女ができたとしても、あたし、たぶんその子キライ」って、ほんと自由な姉ちゃんですよね。

ある時、社内のボウリング大会に参加して、帰宅した姉。気になっていた男性とハイタッチしたのですが、「ときめかなかった」と落胆しています。

その理由が「手のひらが合わない人と他の部分を合わせられると思う?」

うーん、名言です。

24日深夜の第5話も・・・

24日深夜の第5話も、じわじわとおかしい会話が楽しめました。

夜、姉のちはるが帰宅します。さっそく気になることを聞いてしまう、弟の順平。

「あれ? そんな小さいバッグで会社、行ったの?」

「モテる女はバッグが小さい、という民話があるよ」

「どんな民話だよ」

「今夜のデートは無理めな女を演出してみました~」

「つーかさ、彼氏いるのに、なんで他の男とメシなんか食うわけ?」

「保険よ、保険」

「うわっ嫌な感じ! 次の男をキープとかって」

「キミのそののっぺりとした思考に、姉ちゃん、哀れみすら感じるよ」

「なにが~」

と訊く弟に、

「あたしの言う保険とは老後のこと。若さや美しさが消え去ってからも、男にちやほやされた思い出は失われない。だからいいのよ別に、必ずしも男前とのデートでなくても」

いや、素晴らしい発想なり(笑)。

「たとえば、アンタくらいでもいーの。需要があって、よかったねえ」

「そりゃ、どーも!」

見事な「平熱の演技」

こんな会話、深夜ドラマだからこそ、より味わい深いというものです。

アマゾンプライムビデオで先行配信されていましたが、週に1度、深夜に登場人物たちと顔を合わせる「のんびり感」が、このドラマにはちょうどいい。

原作は益田ミリさんの人気漫画。

ベテランOLである姉ちゃんのキャラクターが秀逸で、それを完璧に体現してみせる黒木さんの自然体というか、「平熱の演技」が見事です。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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