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日曜劇場『マイファミリー』の終盤から目が離せない理由

碓井広義メディア文化評論家
物語を駆動させるツール(提供:アフロ)

終盤へと向かい始めた日曜劇場『マイファミリー』(TBS系)が、一層面白くなってきました。

ドラマが始まった当初は予想していなかった、「誘拐」と「自力救出」の連打という展開から目が離せません。

冴える、オリジナル脚本

ざっと振り返ると……。

主人公の鳴沢温人(二宮和也)はオンラインゲーム会社の社長で、いわゆる富裕層です。

ある日、娘の友果が何者かに誘拐されます。

しかも温人は、友人たちの力を借りて、警察に頼らない「自力での救出」に成功します。

『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』などを手掛けてきた、黒岩勉さんのオリジナル脚本が、その本領を発揮するのはここからでした。

次に、友果の事件で力を貸してくれた弁護士の三輪(賀来賢人)の娘、優月が誘拐されてしまう。衝撃の連続誘拐です。

その優月もまた無事に取り戻すことが出来ましたが、今度はネットサービス企業を率いる阿久津(松本幸四郎)の娘、実咲までがさらわれます。

知り合い同士の娘が連続して誘拐されてきたわけで、当初から犯人は彼らと関係のある人物の可能性がありました。

結局、三輪と同じく温人の友人で、自分の娘を誘拐されたままの元刑事、東堂(濱田岳)が関与を告白。

とはいえ、彼もまた謎の「黒幕」に操られている一人でした。

「日曜劇場」の犯罪ドラマ

これまで日曜劇場では、年に1本は犯罪ドラマが放送されてきました。

一昨年は『テセウスの船』。昨年は『天国と地獄~サイコな2人~』が記憶に新しい。

どちらも最終回まで目が離せない作品でしたが、“大胆な物語構造”になっていたことでも共通しています。

『テセウス』では、時空を超える「タイムスリップ」。

『天国と地獄』では、追う者と追われる者の「人格の入れ替わり」。

これらを非現実的と退けるかどうかで、評価も左右される”大仕掛け”でした。

犯罪ドラマとしての「今日(こんにち)性」

さて、今期の『マイファミリー』ですが、過去2作のような”トリッキーな設定”はありません。

その代わりに物語を駆動させているのが、スマホというツールであり、ネットやITに関する知識と技術です。

加害者である犯人も、被害者である温人たちも、これらを武器にしてきました。

同時に、被害者側が誘拐犯と「警察抜き」で直接向き合うことを可能にしていました。

その意味で、極めて「今日(こんにち)的」な犯罪ドラマになっています。

さらに、タイトルにもあるように、キーワードが「家族」であることも、今日的と言えるでしょう。

ここ数年のコロナ禍の中で、私たちはそれまで当たり前の存在だった家族の大切さを思い知りました。

温人も三輪も、誘拐事件に遭遇したことで、自分と仕事だけでなく、あらためて家族に目を向けるようになりました。

手段はともかく「家族のためなら何でもする」という思いは、ドラマを見る側の中にもあるわけで、温人たちへの共感を支えています。

物語の行方は?

今後の物語の行方ですが、当然のことながら、黒幕の特定と目的の解明が最大のポイントとなります。

ワナに落ち、警察に身柄を拘束されてしまった温人。

また、これまで事件の捜査を制限されてきた刑事、葛城(玉木宏)の追撃も気になるところです。

果たして両者がたどり着くゴールは同じなのか。また真相はどんなものなのか。

注目したいのは、「マイファミリー」の「ファミリー(家族)」が、親子や夫婦という意味だけではないかもしれない、ということです。

最後まで油断できません。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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