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今期ドラマの「不在」で気になる、脚本家「坂元裕二」

碓井広義メディア文化評論家
弦楽四重奏の4人(BS-TBS WEBサイトより)

今期のドラマでは「不在」だから、手掛けた作品の放送がないから、逆に気になる「脚本家」がいます。

たとえば、坂元裕二さんです。

「キャラクター」と「会話」でドラマを組み立てる!

坂元さんは、宮藤官九郎さんなどと並んで、その名前だけで「観客が呼べる」脚本家の一人。そのキャリアは長いです。

柴門ふみの漫画を原作とした『同・級・生』(1989年、フジテレビ系)や『東京ラブストーリー』(91年、同)などを、懐かしく思い出す人も多いでしょう。

オリジナル脚本としては、『Mother』(2010年、日本テレビ系)や『最高の離婚』(13年、フジテレビ系)などがありますが、出色だったのは『カルテット』(17年、TBS系)です。

4人のアマチュア演奏家が、カラオケボックスで出会う。バイオリンの真紀(松たか子)と別府(松田龍平)、ヴィオラの家森(高橋一生)、そしてチェロのすずめ(満島ひかり)です。

彼らは、世界的指揮者である別府の祖父が持つ軽井沢の別荘を拠点に、弦楽四重奏のカルテットを組むことになります。

簡易合宿のような、ゆるやかな共同生活。「冬の軽井沢」、そして「別荘」という二重の“密室”という設定が上手(うま)い。ドラマ空間の密度が濃いものになるからです。

4人が、鬱屈や葛藤を押し隠し、また時には露呈させながら、互いに交わす会話が何ともスリリングでした。

それは1対1であれ、複数であれ、変わりません。見る側にとっては、まさに“行間を読む”面白さがありました。

「関係性」と「セリフ」が物語を駆動させる!

坂元さんが『カルテット』で試みた、「人物キャラクター」と「会話」でドラマを組み立てていく手法。

それをさらに押し進めたのが、21年の『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ制作・フジテレビ系)です。

主人公である大豆田とわ子(松たか子)と、元夫の田中(松田龍平)、佐藤(角田晃広)、中村(岡田将生)のやりとりが、じんわりとユーモラスに描かれました。

物語を駆動させていたのは登場人物たちの「関係性」と「セリフ」です。

たとえば勝手な持論を披露する中村に、とわ子が言います。

「私が言ってないことは分かった気になるくせに、私が言ったことは分からないフリするよね」

さらに坂元さんは、恋愛や結婚の既成概念を揺さぶってきました。「恋愛になっちゃうの、残念」と告白したのは、とわ子の親友・かごめ(市川実日子)です。

自ら選んで1人で生きること。夫婦や恋人の関係を超えて2人で生きること。さらに、大切な亡き人とも一緒に生きていくこと。それらを丸ごと肯定してみせるドラマでした。

そして、次回作は・・・

さて、次回作ですが、現在のところ、まだ情報が伝わってきません。もちろん水面下で動いている可能性はありますが。

画期的なドラマだった『カルテット』や『大豆田とわ子と三人の元夫』。

この2作を、さらに深化させた新作、待ち遠しいです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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